「逃げ地図」づくりでリスク・コミュニケーションを――『災害から命を守る「逃げ地図」づくり』出版記念シンポジウム(月刊「ガバナンス」)
時事ニュース
2020.01.17
「逃げ地図」づくりでリスク・コミュニケーションを
――『災害から命を守る「逃げ地図」づくり』出版記念シンポジウム
東日本大震災の発生から間もなく9年。被災地の支援活動の中から考案された「逃げ地図」の作り方や効果をまとめた書籍が11月末に出版された。都内で12月2日に開催された出版記念シンポジウムでは、編著者らが「逃げ地図」の効用などを議論。リスク・コミュニケーションにつながることから、逃げ地図づくりは津波にとどまらず様々な災害に有効であり、全国各地にヨコ展開を図る必要性などが強調された。
災害を自分事に
『災害から命を守る「逃げ地図」づくり』の編著者「逃げ地図づくりプロジェクトチーム」は、「逃げ地図」を考案した日建設計ボランティア部と、明治大学山本俊哉研究室及び千葉大学木下勇研究室による2012年5月から開始した共同研究チーム(その後、(一社)子ども安全まちづくりパートナーズも加入)。シンポジウムは同プロジェクトチームと㈱ぎょうせいの共催で、約100人の市民や関係者が参加した。
シンポジウムは2部構成。第1部では「逃げ地図づくりのススメ」と題して編著者らが「逃げ地図」の特徴や効果などを話し合った。
パネリストは羽鳥達也氏(日建設計ダイレクターアーキテクト)、木下勇・千葉大学大学院教授、山本俊哉・明治大学教授、森脇環帆・小田原短大助教(モデレーターは担当編集者の浦谷收)。最初に山本教授が出版の趣旨を説明。「逃げ地図づくりのマニュアルはWEBで公開しているが、それだけではとっつきにくい。災害を自分事にするため、この本を手にして第一歩を踏み出してもらいたい」と話した。
「逃げ地図」を考案した日建設計ボランティア部の羽鳥氏は、被災地のために何かしたいと考えていたところ、「瓦礫の片づけはいいから、専門家にしかできないことを考えてほしい」と言われ、11年夏ごろ、節電で空調が止まったオフィスの一室に集まって考えていたときに思い付いたという。
「逃げ地図」(正式名称:避難地形時間地図)は、ハザードマップを下敷きにして作成する避難用地図。避難する一人ひとりの視点に立って、自分たちで作成するのが特徴で、白地図と色鉛筆、革ひもがあればどこでも作成可能だ。
木下教授は、子どもたちが逃げ地図づくりに取り組む意義を強調。「作成のプロセスで気づきがある。子どもたちは安全な避難を主体的に考えるようになる。子どもに(避難ルートの)矛盾点を指摘され、大人が気づくこともある」とリスク・コミュニケーションにつながっていることを指摘した。
森脇氏は、逃げ地図にアートによる楽しさを加味した防災アートプログラム「キツネを探せ!」を開発。岩手県陸前高田市広田町や静岡県下田市で実施し、「防災活動のすそ野を広げることにつながった」と話した。
地震火災でも逃げ地図づくりが有効
第2部では、「逃げ地図づくりの全国展開」をテーマに全国各地の実践者らがパネリストとして登壇した。
進士弘幸氏(建築家)は、自宅近くの下田市立朝日小学校の取り組みを紹介。南海トラフ地震の浸水想定区域内に建つ同小学校では防災意識が高く、5年前から毎年、総合学習の一環として逃げ地図づくりに取り組んでいる。後日、逃げ地図をもとにフィールドワークを行い、年度末には校内発表会で5年生は防災について発表する。「小学生に地図が理解できるか当初は不安があったが、やってみるとみんな理解でき、何の心配もなかった」という。
神谷秀美氏(マヌ都市建築研究所取締役主席研究員)は、都内での逃げ地図づくりの活用例を紹介。葛飾区では地震災害(火災)時の逃げ地図づくりにチャレンジした。神谷氏は、津波に限らず「地震火災でも逃げ地図づくりが有効だと確認できた」と話した。
また、日本青年会議所(JC)国土強靭化委員会のメンバー(川谷朋寛、更谷一徳、綾垣一幸の各氏)はJCとして2019年度から各地で逃げ地図づくりのワークショップを開催していることを説明。「参加者が楽しみながら取り組めるのが逃げ地図づくりの魅力。そして地域を知り、自分の命を守ることにつながる」(川谷氏)などと話し、JCとしてさらに活動を充実させていく意向を示した。
シンポジウムには、トルコ出身の研究者も出席。会場から「日本にいる外国人、また、海外にこうした知恵を伝えるために本の英語版を発行してほしい」と要望した。
(月刊「ガバナンス」/千葉茂明)
『災害から命を守る「逃げ地図」づくり』(逃げ地図づくりプロジェクトチーム編、 ぎょうせい)
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