徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第27話 心に火を点ける

地方自治

2019.08.21

徴収の智慧

第27話 心に火を点ける(注)

『月刊 税』2016年9月号

滞納整理の目標と研修

 滞納整理に携わる徴収職員が目指しているのは、①税収の確保であり、②滞納額の縮減であり、そして③収納率の向上である。この言わずと知れた徴収職員が目指すべき目標を達成するために、各地方団体ではさまざまに工夫を凝らして徴収職員の育成に力を注いでいる。そのための手段として研修があり、そこでは、関連法規の習得や徴収技術に関するノウハウが講義やグループ学習などの形で教授されている。

 ただ、そうした研修で教授されているのは、従前からの滞納整理の「やり方」に関するものが依然として主流のようである。実務家を育成する研修であるから、実務で必要な関連法規の研修と財産調査の方法のような実技研修は、もちろん欠かすことができない。しかしこれからは、これまでの主流であった滞納整理の「やり方」に関する研修に加えて、マネジメントに関する研修を付加することが欠かせないのではないかと強く思う。それは、地方税の滞納整理において、次のようなことがしばしば行われているようだからである。

一 差押えをしたのに分納を認める。
二 捜索までしたのに、滞納処分もしないし、納税緩和措置もしない。
三 差押債権の履行期限が到来しているのに、取立てをせずに折衝をする。
四 納税誓約と引き換えに差押えを解除してしまう。
五 延滞金の納付を本税納付の取引材料に使う。

 ここで紹介したのは、ほんの一例であるが、いずれの場合も、それぞれの事務の「やり方」は研修で習って知っているものの、それぞれの事務の趣旨だとか目的についての理解がないため、それぞれの事務を、いわば、ひとつの「作業」としか認識できないために、こうした「信じられないこと」をしてしまうのではないだろうか。

滞納整理におけるマネジメント

 マネジメントと言うと、進行管理だけであるかのように思われるかもしれないが、私は、ここで紹介したような「おかしな」滞納整理を防ぐためには、マネジメントで、進み具合だけをチェックするのではなく、併せて、それぞれの事務の趣旨だとか目的についてもしっかりと教え込む必要があると考えている。その方法は、前述のようにマネジメント研修として集合研修の中で行うのもいいだろうし、日々の実務の中でOJT(職場内研修)として行うのもいいだろう。いずれにしても、一つひとつの事務の方法(「やり方」)に加えて、趣旨や目的も併せてセットで学ぶ機会をつくることが大切なのであり、これこそが滞納整理を管理する責任者としての課長(その相当職も含む。以下同じ。)の大切な役割だと思う。「頑張れ!」と号令をかけ、「目標を達成しろ!」などとねじを巻くだけが課長の役割ではない。滞納整理のために有為で有用な人材を育成するためには、そのための「しくみづくり」が課長としての重要な役割のひとつだということを忘れてはなるまい。

 「しくみづくり」で欠かせないのは、徴収職員一人ひとりの意識を、「やらされ仕事」という受動的・消極的な受け止め方から、「自ら考え行動する」という能動的で主体性のあるものへと転換させ、そして、その転換させた意識に基づいて行動させることである。どんなに素晴らしい考えや、どんなに積極的で前向きな意識をもっていたとしても、それらが当該徴収職員の心(意識)の中にとどまっていて実行されないとしたら、画餅に過ぎない。租税法律主義にしても、早期着手・早期処分にしても、それらに基づいた滞納整理が実行に移されて初めて成果に結びつくのだから、意識が転換されただけでは実務の観点からは、何の意味もない。転換された新たな意識に基づいて滞納処分なり、納税緩和措置なりが実行されることで(①税収の確保、②滞納額の縮減、そして③収納率の向上という)成果が生まれるのである。

 以上、ここで述べた広い意味でのマネジメントを実効あるものとするためには、徴収職員一人ひとりの「心に火を点ける」ような「しくみづくり」が求められていると思う。その中心的な役割を担うのは課長である。 (注)アメリカの教育学者のウィリアム・アーサー・ウォードの言葉「普通の教師は、言わなければならないことを喋る。良い教師は、生徒に分かるように解説する。優れた教師は、自らやってみせる。そして、本当に偉大な教師というのは、生徒の心に火を点ける。」から引用。

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鷲巣研二

鷲巣研二

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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