徴収の智慧 第26話 悪質な滞納者

NEW地方自治

2019.08.21

徴収の智慧

第26話 悪質な滞納者

『月刊 税』2016年8月号

地方税の滞納整理における「悪質な滞納者」の認識

 地方税の滞納整理では「悪質な滞納者」という表現を、しばしば耳にする。曰く「悪質な滞納者に対しては差押えなど強い姿勢で臨む」とか「納期内に納税している納税者との公平を期するために、悪質な滞納者に対しては毅然として滞納処分を執行する」などがその典型である。

 ある地方団体のホームページでは「〇〇市では、『〇〇市市税の滞納に対する特別措置に関する条例』に基づき悪質滞納者に対する行政サービスの停止、滞納者の氏名公表に関して、市長の諮問に応じて調査審議する機関として『〇〇市市税滞納審査会』を設置しています。」との記述が見受けられるのであるが、こうした認識の地方団体は、少なくないのかもしれない。

あいまいな「悪質性」の定義

 しかし、このように滞納者を、「悪質なもの」と「悪質でないもの」とに分類して、それぞれへの対応を異なるものとすることは、妥当でないと考える。なぜなら、第一には、悪質性を一義的に明確に定義することが困難だからである。明確に定義することができない概念を、実務の規準とすべきではない。例えば、督促や催告に対して無反応であることをもって悪質だと言うならば、それこそほぼすべての滞納者が該当してしまうであろうし、窓口で大声を出したり、徴収職員を怒鳴りつけたりする滞納者を、一律に悪質だと決めつけるわけにもいかないだろう。なぜなら、徴収職員とのやりとりの中で、つい興奮してしまう短気な性格の人もいるだろうから、そのような人までをも悪質であると一方的に決めつけてしまうのは極端に過ぎるし、滞納者がそのような挙に出たのは、ひょっとしたら、徴収職員の対応が不適切であったからかもしれないのである。

 第二には、滞納整理は、法律に基づいて行われるべきである(租税法律主義)から、税法で定められている要件が充足されたならば、徴収職員は、滞納処分又は納税緩和措置を行わなければならないのであり、法的には、これに悪質性という滞納者の意図なり内心に基づく作為・不作為(財産の隠蔽や度重なる約束不履行など)を加える必要はないし、加えるべきでもない。つまり、税法は、処分の要件を定めているのであって、それ以上でもなければそれ以下でもないのである。税法が定めている要件が充足されたときは、徴収職員には、それ(処分)を行う職務上の義務があるのである。このことについて、裁判所は「市町村の徴税にかかわる公務員は、市町村税の滞納があれば、積極的な指導により任意納付を促したり、あるいは、滞納処分による強制徴収の方法等により、未納者から税を徴収すべき職務上の義務があるといわなければならない。」(平成19年6月29日大阪高等裁判所判決)とか、「(滞納処分も行わずに)本件各保育料債権を時効消滅させたことは、このように法が行うことを義務付けている行為を行わなかったという意味において、財務会計行為(怠る事実)の違法性を根拠付ける一つの重要な事情といえる。」(平成22年3月18日京都地方裁判所判決)などと指摘している。後者は、保育料の滞納に関する判決であるが、保育料については、地方税の滞納処分の例によることとされている(児童福祉法56⑨)から、考え方は地方税の滞納整理と同様である。

「悪質性」の判断は効率的な滞納整理を妨げる

 また一方で滞納整理では、早期着手・早期処分が求められており、これは財政上の観点からは極めて重要な要請でもある。そもそも課税された地方税は、本来、納期限が設定されている年度内もしくはできるだけ早期に納税又は徴収されるべきものである。このことは、納期限(地方税法11の4①)に関する規定や、地方税優先の原則(同法14)、差押先着手(同法14の6)、交付要求先着手(同法14の7)などの諸規定を見れば、自ずと明らかであろう。

 税法が定めているわけでもない悪質性などという内容の不明確な加重要件(?)のようなものを持ち出して、そうした悪質性が認められる滞納者にしか滞納処分をしないのだとしたら、法律が求めてもいない余計な(悪質性の)認定をするという無用な事務を増やすだけであり、結局、そのことが効率的な滞納整理を妨げていることに早く気づいてほしいと願わずにはいられない。

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