徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第25話 生活再建型滞納整理(その2)

地方自治

2019.08.21

徴収の智慧

第25話 生活再建型滞納整理(その2)

『月刊 税』2016年7月号

留意すべき点と配慮すべき点

 いわゆる生活再建型滞納整理の発想は、これまでの滞納整理ではそれほど重視されてこなかった(と言うよりも、これまでは滞納整理とは異なる部署の役割と認識されてきた)滞納者の生活又は事業の再建に着目した点において、着想としては、テリトリーにこだわる従来の縦割り行政の殻を打ち破るユニークなものであると思う。現に、自己の生活資金の管理ができずに、借金まみれになった挙句、税を滞納する人や、経営の才覚に欠けるために、事業を破たんさせた挙句、税を滞納する人というのは実在するから、そうした人々への支援策のひとつとしての意義は認められよう。

 しかしである。このように生活上の資金管理に問題がある人や、事業経営に伴うリスク管理・資金運用に問題がある人を、日々の滞納整理の中でどのようにして見極め、そして大勢の滞納者の中から的確に抽出しようというのだろうか。もちろんその入り口としては、調査(聴き取り調査・財産調査)から入るのだろうが、徴収職員に対して、事案の「処理方向の見極め」のほかに、そうした(生活や事業の破たんの)見極めまですることを求めるのは、コンサルタントでもない徴収職員にとって至難の業であろうし、負担でもあろう。仮にたまたま典型的なそうした境遇の人に巡り会うことがあったとしても、それは、あたかも広い砂浜で特定の砂粒を探すようなものなのではないか。果たしてその程度の確率のものに対して、徴収職員の労力を割き、そして費用をかけることにどれだけのメリットを認めることができるというのであろうか。

納付能力を見極める

 無論そのような人への支援を否定するものではないが、それはむしろ、生活支援行政なり生活保護行政の部署において、専門のケースワーカーの手に委ねる方がふさわしいものと思う。もちろんそのような部署には、必要に応じて弁護士やファイナンシャルプランナーを加えても一向に差支えないと思う。滞納整理の過程で、たまたまそのような境遇の人に巡り会うこともないとはいえないが、要はそのときに、庁内の専門の部署へとつなげるルートを確立しておく必要があるということである。つまり、連携が大切である。そうした支援策を周知するためには、例えば、催告書の文面にそのような相談窓口がある旨の記載を入れておいたり、支援策を案内するリーフレットを窓口に常備したりして、窮状を訴える滞納者に手を差し延べるのもいいだろう。

 そのような手立てを講じるにしても、滞納整理の部署での本務は、あくまでも滞納の「整理」であるから、まずは聴き取り調査と財産調査を行い、納付能力をしっかりと見極めることが先決であり、かつ重要だということを忘れてはなるまい。その上で、滞納処分を続行することが、その滞納者の生活や事業の継続に支障をきたすというのであれば、納税緩和措置を適用して「整理」を進め、その後に、そうした支援策を案内するというのが順序である。

生活再建型滞納整理

 ここで重要なことは、支援策を案内する前に、その前提として、丁寧な聴き取り調査と的確な財産調査を行って、ともあれ滞納税について、法律に基づいた処理をしておかなければならないということである。徴収職員としては、くれぐれも滞納者の一方的な話(主観)だけで判断してはならないということを肝に銘ずる必要がある。

 ことはそれだけではない。滞納の「整理」は法律に基づいたものであり、職権で行うものであるから、適正な手続きを履踏する限りにおいて、滞納者との関係でそれが問題となることは考えられないが、いわゆる生活再建型滞納整理として、その後に、生活や事業の再建に向けた支援策を案内する際には、一定の配慮が求められるものと思う。というのも、そうした支援策を「余計なお世話」と受けとめる人や、また「上から目線で、一方的に“破たん者”との烙印を押されて傷ついた」と受けとめる人もいないとは限らないからである。

 世の中には、さまざまな考え方、さまざまな受けとめ方の人がいるという前提で、人としてのプライドや尊厳といったものに対しても、十分に配慮して「控えめだが確実に相手に伝わる広報」が必要であると思う。

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鷲巣研二

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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