時事問題の税法学
時事問題の税法学 第28回 ネット時代の落とし穴
地方自治
2019.08.19
時事問題の税法学 第28回
ネット時代の落とし穴
(『税』2018年2月号)
SNS投稿の痕跡
いつ頃から始まったのであろうか、凄惨な事件のあと、事件直前の被害者の素顔や発言がテレビの情報番組で紹介されることが多くなった。当然、若い世代である。いわゆるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に被害者が投稿した情報が流出した結果である。投稿者は、まさか自分のことが全国に報道されると思っていなかっただろうが、事件の解決につながる場合もでてくる。
先年、発覚した男性ミュージシャンと女性タレントの不倫スキャンダル、「センテンススプリング」騒動でも、ふたりのSNS上の発言がなぜか報道され、女性タレントの記者会見での「嘘」が露呈してしまった。
身近な話でも、わが国を代表する大手印刷会社の独身と自称する社員たちとの合コンに参加した教え子が、その後デートした男性の氏名を検索したら、お宮参りで子供を抱くその男性と家族の写真がスマホの画面に現れたという。奥さんの顔をまじまじと見てしまったというが、これも笑えない話だ。やはり公開、非公開、ID、パスワードなどセキュリティを施していても、ネット上に投稿した画像や発言は、閲覧される可能性を意識しなければならない。
やはり、インターネットを通じた交流や行為は全て何らかのカタチで痕跡が残るということを自覚する必要がある。石川県下の市会議員が、飲食店を中傷する書き込みをして、名誉毀損罪で罰金30万円の略式命令を受けた事件があった。おそらく匿名であっただろうが、本人は、バレると思っていなかったはずだ。
国税局が注目
そういえば、これほどネット通販が日常的になってきた現在、ネット上の巨額な取引が国税当局に捕捉されないと思っていたヒトもいる。最高裁平成27年3月10日判決がそうだ。この事件では、日本中央競馬会(JRA)が提供する馬券購入システムを利用して、専用の銀行口座を通じて、3年間で約28億円7千万円分の馬券を購入し、約30億1千万円の払い戻しを受け、差引約1億4千万円の黒字となっていたが、納税者はこの利益を申告していなかったため刑事責任を問われ、脱税したとして検察から起訴された。
争点は、この納税者の所得が、必要経費の範囲が異なる一時所得か雑所得かであったが、もちろん無申告がバレたのは、ネット上の取引に国税当局が注目した結果といえる。本来、匿名性の高いギャンブルが、銀行口座を経由した実名行為であることに気が付かなかったかもしれない。裁判沙汰にはなっていないが、国税当局から無申告を糾弾された競馬ファンも多いはずだ。
仮想通貨の利益は雑所得
実は、これに似た騒ぎがまた起きるのかもしれない。「仮想通貨」の課税問題である。すでに国税庁は、昨年9月、「仮想通貨」による利益は、譲渡所得ではなく損益通算ができない雑所得であるという見解を公表し、節税対策を否定している。そして年明け早々、「仮想通貨長者、把握へ資産分析、税逃れ防止」という報道が現れた(朝日新聞電子版1月1日)。すなわち、「ビットコイン」など仮想通貨の急激な値上がりを受け、国税当局は多額の売却益を得た投資家らの調査を始めた。数千万〜数億円の利益を得た投資家らをリストアップ。2018年の確定申告に向け、取引記録や資産状況をデータベースにまとめ、税逃れを防ぐ考えだ。仮想通貨をめぐる本格的な情報収集への着手は初めてとみられる、という。
さすがに課税問題の認識は「仮想通貨」に投資している連中にも浸透しているようで、このお正月にも、「仮想通貨」で小銭を稼いだ20代後半の男性サラリーマンから相談を受けた。もっとも、ギャンブルや株式投資などと比較しながら解説しても、ギャンブルはもちろん株取引も未経験であるから、理解させるのに時間がかかった。すべてスマホで処理しているから、まさしく仮想社会での取引といえる。
まもなく納税義務は、仮想社会の話ではなく、現実社会の話であることに、「仮想通貨」投資家たちは気づくことになる。