マイナンバー・ICTが拓くセキュアで豊かな社会

山口 利恵

第11回 匿名化データ 匿名性のはずなのに、データ追跡されるの?(前編)

NEWICT

2019.05.10

第11回 カフェ発マイナンバー・ICTが拓くセキュアで豊かな社会

カフェデラクレでの出来事
匿名化データ 匿名性のはずなのに、データ追跡されるの?(前編)

『自治体ソリューション』2017年2月号

位置情報を利用したチェックインとは?

携帯電話を操作する手元

 ある日の夕方、都内文田区にあるカフェデラクレ(Café de la clé)。近くの大学も多くの講義が終わる時間帯。最近常連になった近くの大学に通う市倉が、講義帰りに顔を出した。

 カランカラン♪

「いらっしゃいませ。」

 カウンターにいるアルバイトの絵美が声をかけた。大学の同期、市倉雅史だった。市倉は、絵美の同級生。ちょっとした事件を助けた縁で、このカフェへの忠誠心が高い。

「お、緑川。マスター、こんにちは。」

 市倉が礼儀正しく加藤に向かって声をかけた。マスターの加藤は、カウンター内でカップを磨いていた。

「市倉君、いらっしゃい。」

「何にする?」

 カウンター席に腰をかける市倉に、絵美が水を出しながら尋ねた。

「今日はコーヒーで。」

 その声を聞いて、マスターは、コーヒーサーバにネルをセットすると、コーヒーの粉が入っているドリップポットに手をかけた。

 市倉は、ポケットの中からスマートフォンを取り出すと、目の前で慣れた手つきでフリックし始めた。

「ここって、チェックインしていいですかねぇ?」

「あれ? 市倉君、そんなに熱心にSNS とかやっていたっけ?」

 SNSとは、ソーシャルネットワーキングサービス。最近のFacebook やTwitter 等がこれにあたる。滞在したお店でスマートフォンなどの位置情報を利用して登録することをチェックインといい、SNS を通して広く知らせることになる。

「いや、その方が店の宣伝になるかなぁと。俺の同期とか、この立地なら多少は来るんじゃないかなぁ。」

「うん、そうかもね。マスターどうですか?」

 絵美は加藤に声をかけた。

「いいんじゃないかな。市倉君さえよければ。」

「じゃあ、やりますね。」

 市倉はスマートフォンで何回かフリックすると、カウンターの上においた。

「緑川はやんないの?」

 市倉が絵美に声をかけた。

「なんとなく、気持ち悪くて。世界中の人が自分の行ったところを知っているって微妙じゃない? その時間にその店にいたことがわかることになるし。自分の行動が筒抜けになっているような気になっちゃって。」

 絵美は、カウンターでグラスを磨きながら話した。

「自分の周り以外は、このアカウントと俺とが繋がっているとはわからないだろうし、知らない人にとっては、誰かよく知らない人がこんな店に行っているんだな、ってわかるだけじゃないかな。」

 市倉にとっては、それほど大きな問題とは捉えていないようだ。

時間と位置情報の組み合わせで個人の特定ができる

「市倉くん、こんな話知っているかね。」

 加藤がおもむろに言い出した。

「あるテレビ番組で、東京の渋谷のスクランブル交差点でチェックインしたアカウントが誰のものであるのか、見つける実験をしたのだよ。もちろん、誰だか知らない人のアカウントだよ。」

 加藤は、コーヒーをドリップしながら、話を続けた。

「渋谷のスクランブル交差点って、1日に何万人も通るようなところじゃないですか。そんなんで、見つけられるんですか?」

「何万人どころではないんだよ。1日50万人とも言われているんだ。その中から、見つけることができたんだよ。たった1箇所しか見ていないのに。スマホを使って通りがかった人に対してね。」

「そうなんですか?」

 絵美がつぶやいた。

「そんなの、1箇所でも見つけられたら、同じアカウントで沢山のチェックインが芋づる式で見つかりそう。」

「そうなんだよ。位置情報と時間の組み合わせで誰かを見つけるって、思っているよりも案外簡単にできることなんだよ。」

 加藤が話を続けた。

「ちょっと考えてごらん。当たり前の話だけど、人っていうのは体積があるから、同じ時間、同じ場所に2人以上いることってできないんだよ。」

 加藤が、市倉の前にコーヒーを出した。

「確かに。」

 絵美と市倉がつぶやいた。

「僕個人としては、このお店に応援隊がいるのは歓迎なんだけれども、その結果、市倉君のプライバシーが暴露されるのは不本意だねぇ。」

「まぁ、公開しようとしている項目の多くは、誰かに見られても、それほど大きな影響はないようなことですよ。」

「市倉君が問題を理解した上で、情報を公開するのはよいと思うよ。ただ、最近の人はデートとかを気楽に公開しちゃっている人が多いらしいから。それが原因で離婚するようなケースさえあるらしいよ。浮気がばれたりとか。」

 加藤は、カップを磨きながら説明を続けた。

「浮気がばれるようなことをSNS に入力したりするって、なんだかなぁ。」

 市倉が笑いながらコーヒーに口をつけた。

「お店の紹介や写真などをどんな風に公開するかだね。人はある程度やると、習慣化して麻痺してくるからねぇ。何も考えずに不用意に出してしまうと、思いもかけないこともあるかもしれないね。」

 カランカラン♪

「お、市倉君じゃないか。」

 常連の竹見が現れた。竹見は、市倉が通っている大学を定年退職した人物で、このカフェデラクレの常連である。

「加藤君、いつもの。」

 竹見は、慣れた感じで伝えるとカウンターに座った。

加藤は、手際よく、コーヒーの準備を始めた。

「竹見先生、今、SNS上のプライバシーについて会話していたんですよ。」

 絵美が、今の会話を説明をした。

「ほほぅ。」

 竹見は興味深そうに聞いていた。

「確かに位置情報と時間の組み合わせって大きな問題になるのはわかるんですけど、SNSとかだと、買い物だけとかをアップする人も多いですよね。」

「あ、昔のはなしだが、おもしろい事例があるよ。こんなことで本人が特定されることがあるっていうことがあってね。」

☆☆続く☆☆

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山口 利恵

東京大学大学院情報理工学系研究科ソーシャルICT研究センター特任准教授

2003年津田塾大学理学研究科数学専攻修士課程修了。2006年東京大学大学院情報理工学系研究科博士後期課程修了 博士(情報理工学)、独立行政法人 産業技術総合研究所 研究員。内閣官房情報セキリュティセンター員兼務を経て2013年から現職。主な研究テーマである「ライフスタイル認証・解析」に関する各種講演やセミナーの登壇者として、また、「Society5.0を見据えた個人認証基盤のあり方懇談会」構成員を務めるなど、多方面で活躍中。

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