徴収の智慧
徴収の智慧 第20話 数値目標と価値目標
地方自治
2019.08.13
徴収の智慧
第20話 数値目標と価値目標
滞納整理と数値目標
広範な行政事務の中にあって、税務事務は比較的数値目標が立てやすいと言われている。中でも滞納整理については、収納率とか処分件数などのように、仕事の成果を数値化することが容易であるし、それだけに評価は一目瞭然であるところから、数値に基づいた進行管理のしやすい事務であるとも言える。行政事務の多くは法律や条例に基づいて行われるのであるが、滞納整理のように計数管理に馴染むものは、他を見回してみてもそれほどざらにあるものではない。このように計数管理という側面からのみ見た場合は、滞納整理が、数多の行政事務の中でも最も進行管理がしやすく計画的に進めることができる事務であると考えられたとしても強ち不思議なことではない。ところが、滞納整理実務の実情を見てみると、少なからぬ地方団体において、そうした机上の目論見とは裏腹に、必ずしも順調に進展しているわけではないし、また必ずしも計画どおりの成果がついてくるとも限らないのは一体どこに原因があるのであろうか。
価値目標とは
例えば、滞納整理における数値目標のうち典型的なものである収納率についていえば、それは、履行の請求に始まり、調査・折衝・処分などにより滞納税の解消を進め、最終的に決算を迎えた段階で、調定に対する収入の割合を限りなく100%に近づけていくというものであるが、そこには、到達点である数値はあっても、それをどのようにして達成するのかといった手立てについては見えてこない。もちろん目標と手段とは別物であるという「常識論」は承知しているが、価値目標という考え方は、そうしたこれまでの常識的な発想とは異なるものである。すなわち、目標というのは、目的に向かって当面達成すべき指標であり、マイルストーンであるが、それを達成するためには、単に当面達成すべき数値(=数値目標)を示すだけでなく、そのためにこのようにすべきであるとか、このようなあり方を目指すべきだという一定の考え方(=価値)に基づいた「あるべき手段」(=価値目標)をもセットで示すべきだとする考え方である。
つまり、目指すべき数値とその達成のための手段とがセットになって示されることで、これまでのように到達点が示されるだけの抽象的な目標設定から、数値と手段とが一体となって示されることで、より一層具体的な目標となるのである。数値目標を登山に例えると、それ自体は一定の高さまで登るという当面達成するためのものではあるが、具体的にそれを目指して登るルートというのは、もちろん必ずしもひとつではないから、ある一定の考え方(=価値)に基づいた手段を提示するのが、価値目標の価値目標たるゆえんなのである。
実効性のある滞納整理目標
滞納整理の最大の眼目は税収の早期かつ確実な確保であるから、価値目標を設定する際は、常に効率性ということが意識されなければならない。すなわち、限られた期間内に少ない労力で最大の成果(税収)を挙げるための方法ということである。具体的には無駄を省くということであり、「やるべきこと」と「やらなくていいこと」とを峻別することであり、更には着手の優先順位を明確にするということである。このような考え方(=価値)に裏付けられた合理的な目標(=価値目標)と数値目標とがセットになってこそ、滞納整理の中で目指すべき目標が、より一層具体的で、かつ実効性の高い目標たり得るのである。
滞納整理における目標設定の重要さ
数値目標にしろ、価値目標にしろ、いずれにしても目標を設定することの意味は、滞納整理を進めるにあたって目指すべき方向性を提示するとともに、達成すべき当面の到達点を具体的に示すところにあるのは疑いのないところである。しかし、目標設定の意味はそれにとどまることなく、達成感を味わうことによって徴収職員一人ひとりのモチベーションの高揚にも貢献しているのである。つまるところ、滞納整理の成果を左右する最も大きな要素が徴収職員のモチベーションにあることに鑑みれば、滞納整理における目標設定がいかに重要なものであるかが理解できよう。