相手を動かす話し方

八幡紕芦史

相手を動かす話し方 第12回 仕事の効率が悪い同僚へのアドバイス

キャリア

2019.08.09

相手を動かす話し方
第12回 仕事の効率が悪い同僚へのアドバイス

月刊『ガバナンス』2009年3月号

 田中君の同僚である鈴木君は、最近、仕事が忙しいのか、遅くまで残業をしていることが多い。その上、どうも仕事を家に持ち帰っているようだ。この状態が続くと、精神的にも肉体的にもよくないことは明らか。決められた時間の中で、いかに効率よく仕事をこなしていくかが大切だ。

 そこで、田中君は仕事の進め方について鈴木君にアドバイスすることにした。休憩中もデスクに向かって黙々と仕事をしている鈴木君に、「最近、忙しそうだけど…」と話しかけた。さて、どうすればうまくアドバイスできるか。

 

アドバイスを求めるよう仕向ける

仕事に行き詰まる職員と寄り添う職員

 まずはじめに、「効率的に仕事をするには…」などと、いきなり大上段に構えてアドバイスをしてはいけない。もし、そんなふうに話しかけると、親切の押し売りになってしまうことがよくあるからだ。

 その結果、相手に「そんなことぐらい、わかっているよ」とか、「そうは言うものの、現実にはできるわけがないよ」などと拒否されたり、「いいよ、ほっといてよ!」などと言われてしまうかもしれない。

 このように人に何かアドバイスしようとするとき、たとえ本人のためによかれと思っていても、相手に大きなお世話だと受け取られてしまっては何にもならない。

 相手の状況を注意深く観察し、会話の中で本人からアドバイスを求めるように仕向けることだ。たとえば、「最近、残業が多いようだね。この時期は仕事量が多いの?」とか、「遅く帰ると家族の人も心配しているんじゃないか」などと、相手の状況について投げかけてみる。そうすれば、「ちょっと仕事がたまっていてね」とか、「なかなか、家族と過ごす時間がなくてね」などという答えが返ってくる。

 このようなちょっとした会話でウォーミング・アップしながら、やりとりを続けていくと、本人が「なかなか効率よく仕事ができなくて…」とか、「丁寧にやろうと思うと時間がかかって…」などと言い始めるだろう。

 しかし、そこで、「効率的に仕事をする方法はだね…」などと、押しつけがましく言ってはいけない。あくまでも、本人の口から「どうすれば効率的に片付けられるんだろうか」とか、「キミはどうやっているの?」などと、アドバイスを求めてくるまで待つ方がいい。

 そして、もし「どうすれば効率的に仕事ができるのか?」とアドバイスを求めてきたら、「まず、1日の仕事の予定を書き出して…」と始めるのではなく、「朝、出勤したら最初に何をしているの?」と現状を把握することからスタートする。そうでないと、何をアドバイスしていいかわからないはずだ。それに、間違ったアドバイスをしてしまうこともあり得る。

1日の予定を書き出す

スケジュールを立てる

 相手の状況を知らずに「こうした方がいい」とか、「ああした方がいい」などと言うと、それこそ間違ったアドバイスになる。

 どのように予定を立てているか、どのように仕事のステップを組み立てているか、どのように仕事の優先度を決めているかなど、いくつかの質問をして、相手の話を引き出していこう。そうすれば、ピンポイントでアドバイスをしてあげることができる。

 たとえば、相手が、「出勤したら、とにかく、急ぎの仕事に手をつけている」状況であれば、1日の仕事を書き出すようアドバイスすることができる。あるいは、「目の前の仕事から片付けている」状況であれば、優先度と重要度を決めるようアドバイスすることができる。

 そのとき、「それじゃだめだよ。1日の予定を予定表に書き出さなきゃ」とか、「優先度と重要度を決めなければダメだ」などと言うと、相手は叱られているようで心を閉ざしてしまうかもしれない。

「そうか、急ぎの仕事はやってしまわないとダメだよね。でも、それに時間がかかってしまうと、その後はどうなるんだろう」と、いったん相手の話を肯定的に受け入れて、そして、問題があれば、再度、投げかけてみる。

 そうすると、「そうだ、時間がかかって、他の仕事がほったらかしになるかもしれない」と答えが返ってくる。

 このように、何が効率的な仕事を阻害しているのかがわかれば、適切なアドバイスをしてあげられる。そこで、「そうだね。じゃ、朝、出勤してきたら、最初に1日の予定を書き出したらどうだろうか」と提案しよう。

 アドバイスは、あくまでも提案であって、「予定を書き出すこと」などと命令口調ではいけない。アドバイスを受け入れるかどうかは、最終的に本人の問題であって強制するものではない。

行動レベルの予定を立てる

 相手が、「なるほど、1日の予定を書き出して、そうそう、優先度を決めればいいんだ」と言えば、アドバイスは成功だ。

 できれば、「今日の予定を書き出してみようか」と言って、実際に目の前でやらせるのがベストだ。よいとわかっていても、実際に行動するとできないことも多々ある。もし、やってみて行き詰まれば、そこで具体的な問題解決のアドバイスをすることができる。

 鈴木君に限らず、多くの人は、「予定を立てて行動する」という当たり前のことを忘れている。どうしても、目の前の仕事をこなすことに精一杯になってしまうからだ。

 それに、抽象的な表現で予定を立てて満足してしまうことも多い。予定を抽象的に表現すると、何から手をつけていいのかわからない。その結果、予定を見ただけで横にやったり、後回しにしたりする。たとえば、予定表に「企画書作成」とか、「報告書作成」などと書いても、それを見たとき、具体的な行動がイメージできない。

 そこで、予定は行動レベルまで細かく分解して書き出すことだ。たとえば、「企画書作成」であれば、最初に手をつけるときは、「企画のアウトラインを検討する」とか、仕上げのときは「企画書をチェックし必要部数を印刷する」などと、スモール・ステップ化しアクションまで落とし込むことが必要だ。

 もし、鈴木君が抽象的な表現で予定を書き込んでいるなら、「予定表に『報告書の作成』と記入するだけで、これを見たとき、何をどうすればいいかイメージできるかい?」と尋ねてみよう。そして、行動レベルの予定を考えさせ、それを予定表に書かせるといい。さらに、所要時間を見積もることをアドバイスするといいだろう。

 具体的な行動レベルの予定を立て、それを完了するのに必要な時間を見積もれば、仕事を効率的に進めることができる。

 

著者プロフィール

八幡 紕芦史(やはた ひろし)

経営戦略コンサルタント
アクセス・ビジネス・コンサルティング(株)代表取締役、NPO法人国際プレゼンテーション協会理事長、一般社団法人プレゼンテーション検定協会代表理事。大学卒業とともに社会人教育の為の教育機関を設立。企業・団体における人材育成、大学での教鞭を経て現職。顧問先企業では、変革実現へ、経営者やマネジメント層に支援・指導・助言を行う。日本におけるプレゼンテーションの先駆者。著書に『パーフェクト・プレゼンテーション』『自分の考えをしっかり伝える技術』『脱しくじりプレゼン』ほか多数。

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