会議の技術
会議の技術 第9回 会議を迷走させないために
キャリア
2019.08.02
こうすればうまくいく!会議の技術
事前準備からファシリテーションまで
第9回 会議を迷走させないために
田中君は、高齢者世帯への公的支援について、関係者を集めて会議を開催することになった。具体的には、冬季における高齢者世帯の火災発生率を抑制するため、いくつかの策を検討するものだ。
会議が始まると、議論百出状態に陥った。「高齢者世帯に消火器を設置すべきだ」、「いや、高齢者は消火器を使いこなせない」、「それなら、火災報知器を設置すべきだ」、「いや、それは費用がかかりすぎる」、「費用の問題ではない」などと。そのうちに会議は迷走し、田中君の手に負えなくなってしまった。
議論の範囲を限定する
意見がなくシーンと静まり返る会議も寂しいが、議論が紛糾し収拾がつかなくなる会議も難儀なものだ。参加者が思い思いに意見を述べ始めると、議論が噛み合わなくなる。ああ言えばこう言う。こう言えばああ言う。参加者は言いたい放題。そのうちに、当初のテーマからどんどん離れ、あらぬ方向に行ってしまう。
議長は、どうすればいいかわからず立ち往生。会議をどこに着地させればいいかわからず、そうこうするうちに終了時刻が迫ってくる。
会議が紛糾する原因は、話し合いの論点がズレてしまうことだ。
たとえば、ある参加者が、「70歳以上の高齢者に、11月末までに、無料で火災報知器を設置できる給付券を発行するのがいいでしょう。そうすれば、高齢者世帯の火災発生率を抑えることができるのではないでしょうか」と意見を述べたとする。
もし、この発言が終わった後、議長が「他に意見はありませんか」と投げかけると、どうなるだろうか。
きっと、他の参加者から思い思いの意見が飛び出す。たとえば、「火災報知器でなく、消火器を無料で設置するべきでしょう」、「高齢者世帯に限定せず、障害者のいる世帯も考えるべきだと思います」、「いや、スプリンクラーの設置が万全だと思いますが、煙感知器でも十分機能するのではないでしょうか」、「今の環境では、なかなか予算が下りないということもあります」、「指定業者の選定が難しいと思いますが…」などと、参加者は好き勝手に発言する。その結果、この会議は迷走する。
このような問題を回避するためには、議長は参加者が意見を述べる範囲を限定することだ。たとえば、「先ほどの発言に対して、何か意見はありませんか」と、範囲を限定して意見を求める。
そうすれば、「火災報知器の設置は、いい考えだと思います」、「いや、コストがかかりすぎるのではないでしょうか」などと議論が交わされるだろう。単に「他に意見はありませんか」と言うと、何でもありの世界になってしまう。意見はチェーン状態でつながっていかなければ、議論にならない。
論点を絞り込む
発言された意見に対して、意見を求める。このように範囲を限定して意見を求めると、意見はチェーン状態でつながっていく。
しかし、それでも、「11月末までに設置するのは不可能だ」、「それだけでは、高齢者世帯の火災発生率を抑えることはできない」などと、あなたの意図しない意見が出てくる。
先ほどの発言には、多くの論点が含まれている。たとえば、「70歳以上の高齢者」、「11月末までに設置」、「無料で」、「火災報知器」、「設置できる給付券の発行」、「火災発生率の抑制」などと。参加者は、先ほどの発言の中の、どの論点を取り上げて意見を言ってもいい。そうなると、これまた会議は収拾がつかなくなってしまう。
そこで、議長は論点を整理し、絞り込んでから、他の参加者の意見を求めることだ。
たとえば、「先ほどの発言には、いくつかの論点がありました。たとえば、70歳以上の高齢者に対して支援すること、火災報知器を設置すること、11月までに設置すること、給付券を発行すること…でした」。
このように論点を整理すると、参加者に、先ほどの発言の内容を確認することができる。さらに、発言内容を誤解して、とんちんかんな意見が飛び出す問題も避けられる。
こうして発言内容を整理し、ひとつひとつの論点を順番に議論していくことだ。
たとえば、「では、最初に、70歳以上の高齢者世帯への支援について、ご意見はありませんか」と投げかける。そうすれば、「高齢者のみの世帯に限定すべきでしょう」、「障害者のいる所帯も含めるべきです」、「子どもが独りで在宅するケースのひとり親世帯で、火災が発生する危険性もあります」などと。
このように発言内容の中から論点を絞り込めば、具体的な意見が出てくる。そして、意見が出尽くしたところで、議長は「多くの建設的な意見を出していただきました。ここで、一旦、これらを記録し、後で一括して決めたいと思います。では、次の論点へ進めます」と言う。
議長は、議論のプロセスを明らかにしながら、ひとつひとつの論点を潰していく。
論点を引き戻す
このように、議論をステップ・バイ・ステップで進めると、混乱を来すことはない。
しかし、それには条件がある。その条件は、参加者が協力的であることだ。ところが、意図的に非協力的な参加者がいる。議長の進行を無視して、自分勝手な意見を言う。
たとえば、「それはそれでわかりますが、一方で、予算的なことを考慮すると、その方法は不可能ではないかと思いますが…」と、意図的に論点をずらしてしまう。あるいは、意図的でないとしても、あらたな論点を持ち出す参加者もいる。
もし、議長がこれを放置すると、他の参加者が同調して、「わたくしもその意見に賛成です。予算がないと、その方法は非現実的です」と議論の流れを変えてしまう。あるいは、ズレた論点をさらに展開して、「予算の問題よりも、十分な人員が確保できるかどうか、それが問題です」と、当初の論点からどんどん離れていってしまう。
もし、参加者が論点を外した意見を述べ始めたら、議長は積極的に関与しなければならない。そうでないと、自分の首を絞めることになる。参加者が論点を外したら、「ちょっと待ってください。予算も重要ですが、ここで議論していることは、『どのように支援するか』です。論点を戻したいと思いますが、よろしいでしょうか」と。
そう言うと、「予算の話を横において議論はできないだろう」と食ってかかる参加者がいるかもしれない。ここで対立的にならないために、論点が外れた意見についても、「予算も重要なテーマですから、後ほど議題に上げたいと思います」と褒めておく。そして、「よろしいでしょうか」と本人の許可をとる形にする。
このように会議が迷走しないように、議長は先手を打って対処していくことが重要だ。それでも会議が迷走することもある。そのときは、きっぱりブレイクを取る。
著者プロフィール
八幡 紕芦史(やはた ひろし)
経営戦略コンサルタント
アクセス・ビジネス・コンサルティング(株)代表取締役、NPO法人国際プレゼンテーション協会理事長、一般社団法人プレゼンテーション検定協会代表理事。大学卒業とともに社会人教育の為の教育機関を設立。企業・団体における人材育成、大学での教鞭を経て現職。顧問先企業では、変革実現へ、経営者やマネジメント層に支援・指導・助言を行う。働き方改革への課題解決策として慣習の”会議”から脱皮を実現する鋭い提言で貢献。著書に『会議の技術』『ミーティング・マネジメント』ほか多数。