感染症リスクと労務対応
【労務】感染症リスクと労務対応 第14回 管理監督者への休業手当の支払いは必要かどうか?
キャリア
2020.05.05
新型コロナウイルスに関連して、給料、休業補償、在宅勤務、自宅待機など、これまであまり例のなかった労務課題に戸惑う声が多く聞かれます。これら官民問わず起こりうる疑問に対して、労務問題に精通する弁護士(弁護士法人淀屋橋・山上合同所属)が根拠となる法令や公的な指針を示しながら、判断の基準にできる基本的な考え方をわかりやすく解説します。(編集部)
管理監督者への休業手当の支払いは必要かどうか?
(弁護士 下川拓朗)
【Q14】
ウイルス等感染症を理由に会社が休業する場合、管理監督者であっても休業手当の支払いを要するのでしょうか。
【A】
休業手当の支払いに関して管理監督者かどうかは無関係であり、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、管理監督者にも休業手当の支払いを要します。
ただし、そもそも管理監督者の場合、年俸制や完全月給制の場合も少なくなく、就労日によって給料が定められる月給・日給等の場合に限り、休業手当の支払いが問題となります。
1 管理監督者の位置づけ
管理監督者とは、「監督若しくは管理の地位にある者」(労基41条2号)に該当し、事業者に代わって労務管理を行う地位にあり、労働者の労働時間を決定し、労働時間に従った労働者の作業を監督するものであり、労働基準法の労働時間・休憩・休日に関する規制が適用されません。
このような地位にある者は、労働時間の管理・監督権限の帰結として、自らの労働時間は自らの裁量で律することができ、かかる管理監督者の地位に応じた高い待遇を受けるので、労働時間の規制を適用するのが不適当とされてきたと考えられます。
そこで、行政解釈は、法制定時から、一貫して、「監督若しくは管理の地位にある者」とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体の立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきとされ(昭和22年9月13日基発17号、昭和63年3月14日基発150号)、裁判例も基本的にこれを踏襲してきました(札幌地判平成14・4・18労判839号58頁〔育英舎事件〕など)。
したがって、一般的に会社で「管理職」とよばれる方がすべて「管理監督者」に該当するかというと、必ずしもそうではありませんが、かかる該当性の問題はここでは触れません。
もっとも、労働基準法41条2号によって、適用を除外されるのは、「労働時間、休憩及び休日に関する規定」だけなので、管理監督者についても、休業手当に関する規定は適用されることになります。なお、管理監督者には、年次有給休暇(労基39条)も適用されます。
2 「管理監督者の休業手当」への検討
以上のように、そもそも管理監督者は、経営者と一体的な立場にあるがゆえ、労働時間や休日等の労働基準法上の制約から除外されているわけです。そうであれば、会社がウイルス等感染症を理由に休業する場合に、一般の従業員と同様に休業手当を支給しなければならないというのは違和感があるかもしれません。
この点は、法律的には先述のとおり、休業手当(労基26条)の規定は管理監督者であることを理由に除外されるものではありません。したがって、使用者の責に帰すべき事由によって会社が休業することで賃金が控除される場合には、平均賃金の6割を支給することが要請されます。
他方、管理監督者に休業手当を支給することに対して違和感があるとすれば、それは結局、管理監督者に対する給与制度に依拠する問題ではないかと思われます。
つまり、管理監督者は、その責任や職制から、一般的には年俸制や完全月給制を採用しているケースが少なくないと考えます。たとえば、管理監督者が休日出勤しても休日手当を支給しないこと等を踏まえて、欠勤してもその分給与を控除しない(通常は、管理監督者も年次有給休暇を利用できますので、その消化で実務上は問題にならないことが多いと思われます)完全月給制を採用しているのであれば、そもそも会社の休業によって賃金が控除されることはなく、いわゆる休業手当は問題になりません(他方、厳密にいえば、年俸制でも欠勤時に控除する制度設計もあり得ますので、その場合には休業時の休業手当は必要です)。
そうではなく、賃金規程上、管理監督者であったとしても、一般の従業員と同様に月給・日給制等を採用している場合であれば、一般の従業員と同様に扱う必要があります。
無論、管理監督者であることとどのような賃金制度をとるかという点は必ずしも(時間外労働や休日労働の割増賃金が発生しないという点を除けば)関連しません。しかし、経営者と一体的な立場にあることが、賃金制度、すなわち賃金の支給方法にどのように反映されているかによって、回答が異なるように思われます。