感染症リスクと労務対応

弁護士法人淀屋橋・山上合同

【労務】感染症リスクと労務対応 第13回 在宅勤務を事業場外みなし労働にしている従業員が一部出社する場合のカウント方法は?

NEWキャリア

2020.05.04

新型コロナウイルスに関連して、給料、休業補償、在宅勤務、自宅待機など、これまであまり例のなかった労務課題に戸惑う声が多く聞かれます。これら官民問わず起こりうる疑問に対して、労務問題に精通する弁護士(弁護士法人淀屋橋・山上合同所属)が根拠となる法令や公的な指針を示しながら、判断の基準にできる基本的な考え方をわかりやすく解説します。(編集部)

在宅勤務を事業場外みなし労働にしている従業員が一部出社する場合のカウント方法は?

(弁護士 大川恒星)

【Q13】

 ウイルス等感染症対応のため、在宅勤務を事業場外みなし労働にしている従業員が、1日のうち、一部会社に出社して業務をしている場合に、どのように労働時間をカウントすべきでしょうか。

【A】

 「事業場外みなし制度」がどのようなものかをまず整理し、「事業場外みなし制度における労働時間」の考え方、「労働時間の全部が事業場外労働」である場合、「労働時間の一部が事業場外労働」である場合、「その他」の場合についてそれぞれ解説することにします。

1 在宅勤務と事業場外みなし制度

 まず、在宅勤務と事業場外みなし労働時間制について整理しましょう。事業場外みなし労働時間制は、「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いとき」に認められます(労基38条の2第1項本文)。在宅勤務が「事業場外で業務に従事した場合」にあたることに異論はありませんので、「労働時間を算定し難いとき」の該当性が問題となります。この点、厚生労働省「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(平成30年2月22日策定)によれば、「労働時間を算定し難いとき」に該当するには、情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないことと、随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないことの2要件を満たす必要があるとされています。詳細については、同ガイドラインを確認してください。

2 事業場外みなし制度における労働時間

 在宅勤務が事業場外みなし労働時間制の要件を満たすときには、労働時間は、①所定労働時間(労基38条の2第1項本文)、②事業場外の業務を遂行するために、通常所定労働時間を超えて労働することが必要である場合には、その業務の遂行に通常必要とされる時間(以下、「通常必要時間」といいます。同項ただし書)、③②の場合であって労使で協定したとき(同条2項)のいずれかの方法で算定されます。なお、通常必要時間とは、通達によれば、「通常の状態でその業務を遂行するために客観的に必要とされる時間」とされています(昭和63年1月1日基発1号)。


3 労働時間の算定方法

(1) 労働時間の全部が労働時間の算定困難な事業場外労働である場合
 所定労働時間と通常必要時間とを比較して、次のとおり労働時間を算定します。
  ・「所定労働時間≧通常必要時間」の場合 所定労働時間
  ・「所定労働時間<通常必要時間」の場合 通常必要時間
 たとえば、所定労働時間8時間(始業時間:午前8時30分、就業時間:午後5時30分、休憩時間:正午~午後1時)とした場合、事業場外労働が所定労働時間内(8時間以内)に収まっているのであれば、所定労働時間(8時間)を労働したものとみなすことになります。一方で、事業場外労働が常態として所定労働時間(8時間)を超えて9時間行われるなど、所定労働時間(8時間)を超えることが通常必要となるときは、通常必要時間(9時間)を労働したものとみなすことになります。この場合、1日の法定労働時間は8時間ですので(労基32条2項)、1時間が法定時間外労働となり、割増賃金(残業代)の対象となります(同法37条1項本文)。

(2) 労働時間の一部が労働時間の算定困難な事業場外労働である場合
 では、本問のように、事業場外みなし労働の対象従業員が、1日のうち、一部会社に出社して業務している場合には、どのように労働時間を算定すべきでしょうか。
 この場合、通達によれば、事業場外の労働時間についてのみ、みなし算定が行われます(昭和63年3月14日基発150号)。つまり、事業場内の労働時間については、別途把握しなければなりません。なお、上記2②の「事業場外の業務を遂行するために、通常所定労働時間を超えて労働することが必要である場合」とは、労働時間の「全部」が事業場外である場合には、「事業場外の業務を遂行するために、通常所定労働時間を超えて労働することが必要である場合」を意味し、労働時間の「一部」が事業場外である場合には、「事業場外の業務を遂行することにより、事業場内の労働時間と合わせると所定労働時間を超えることとなる場合」を意味します。
 そして、所定労働時間と「通常必要時間+事業場内の労働時間」とを比較して、次のとおり、労働時間を算定します。
・「所定労働時間≧通常必要時間+事業場内の労働時間」の場合
その日は事業場内の労働時間を含めて所定労働時間を労働したとみなされることになります。
・「所定労働時間<通常必要時間+事業場内の労働時間」の場合
事業場外労働は通常必要時間とみなされることになり、その日の労働時間は、「通常必要時間+事業場内の労働時間」となります。
 所定労働事時間8時間の場合、事業場外労働の通常必要時間は4時間、(別途把握した)事業場内の労働時間は3時間だとすると、その合計(7時間)が所定労働時間内(8時間以内)に収まっているため、所定労働時間(8時間)を労働したものとみなすことになります。一方で、事業場外労働の通常必要時間が6時間のとき、事業場内の労働時間は3時間だとすると、その合計(9時間)が所定労働時間(8時間)を超えるので、事業場外労働は6時間労働したものとみなして、(別途把握した)事業場内の労働時間3時間を加えて、労働時間は9時間となります。上記と同様、1日の法定労働時間8時間を超える1時間が法定時間外労働となり、割増賃金(残業代)の対象となります。

(3) その他
 ただし、(2)のような考え方は以下のような欠陥があります。
 まず、「通常必要時間」は、一般的には原則どおり所定労働時間であることが多いので、その場合は、事業場内労働時間は常にすべて割増賃金の対象となりかねません(事業場外労働の通常必要時間が4時間とか6時間と逐一カウントできること自体、事業場外みなし労働の対象といいうるかやや疑問です)。また、実際には事業場内労働の時間を正確に把握できていることが前提の考え方ですので、実務上しばしば起こりうる、早出等で事業場内労働が正確でない場合にはうまく機能しません。
 そこで、必ずしも行政の考え方ではありませんが、事業場内労働での業務が事業場外労働に付随してそれと一体的に実施されているという場合には、全体として事業場外労働とみなすという考え方(付随業務説)があります(菅野和夫『労働法〔第12版〕』(弘文堂、2019年)543頁、安西愈『新しい労使関係のための労働時間・休日・休暇の法律実務〔全訂7版〕』(中央経済社、2010年)495頁。裁判例として東京地判平成24・7・27労判1059号26頁〔ロア・アドバタイジング事件〕)。事業場内労働の業務内容によってはかかる見解に依拠することも検討されてはどうかと思われます。

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弁護士法人淀屋橋・山上合同は、あらゆる分野の法律問題について、迅速・良質・親切な法的サービスを提供している法律事務所。2020年3月現在64名の弁護士が所属。連載を担当したメンバーは、主に企業側に立って、雇用や労働紛争に係る相談対応、法的助言から裁判手続、労働委員会における各種手続の代理人活動等を行っている。

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