徴収の智慧 第21話 打ち出の小槌

NEW地方自治

2019.08.13

徴収の智慧

第21話 打ち出の小槌

『月刊 税』2016年3月号

空想めいた話

 滞納整理が目指す理想は、滞納のない社会であるが、納税者にもそれぞれに事情があり、必ずしも理想どおりにいかないのは世の常のようだ。室町時代の御伽草子の中に出てくる一寸法師の話などで、振れば何でも欲しい物が出てくるという小さい槌のことを「打ち出の小槌」というが、滞納整理でもそのような万能なものがあれば、さぞかし効率は上がり、税収は増え、収納率は上がり、滞納の圧縮も進むことであろう。しかし、そんな空想めいた話を夢想したところで、実務には何の足しにもならない。ところが、こんな箸にも棒にもかからないような荒唐無稽なことが、もしも滞納整理の実務で待望され、ないしは追求されようとしているとしたら、早急に考え方を改めるべきであると思う。

 今回こんな話で切り出したのには訳がある。というのも、税収は早期に確保したいし、収納率も上げたい、もちろん滞納額も圧縮したい、しかし、滞納処分を執行して滞納者とトラブルにはなりたくないといって悩んでいる地方団体がある(もしくは徴収職員がいる)というのである。つまり、喩えてみれば「フグは食いたし、命は惜しし」状態だということなのだろう。なんとも虫のいい話である。そのような考えの地方団体(もしくは徴収職員)だから、滞納者が嫌がる滞納処分にはなかなか着手せずに、「いくらなら払えますか」とか「何回の分納なら可能ですか」などといった滞納者任せで、しかも確たる根拠もない「実効性の乏しい履行の請求」を延々と続けるような滞納整理が繰り返されているのであろう。

適正な賦課徴収

 平成25年に西日本のある地方団体で、滞納処分を受けたことを逆恨みした滞納者が、庁舎内で火炎瓶を投げつけて放火したという不幸な事件があったが、当時の報道によれば、当該滞納者は、滞納が始まってから12年目に滞納処分を受けたとのことである。もしもこのことが報道されたとおりであったとすると、滞納整理の常識からしたら驚愕の事実であるし、いまだにそのような実務が行われているところがあったのかと改めてただただ驚くばかりである。報道ではそれ以上の詳細を知る由もないが、怒鳴る滞納者や執拗な抗議をしてくるような「厄介な滞納者」については、棚上げにしてしまっているところもあると耳にすることがある。12年目に差押えが執行されたのは、たまたま正義感のある徴収職員が担当することとなり、棚上げになっていた「厄介な滞納者」の財産を差し押さえたところ、滞納者が「これまでとはやり方が違うではないか!」として暴挙に及んだのかもしれない。もしかしたら、このような例は、当該事件のあった地方団体に限らず稀有なことではないのかもしれない。事実、平成25年3月には東日本のある地方団体でも、そのような「厄介な滞納者」とのトラブルを恐れて、当該滞納者に出すべき督促状を事前に引き抜いてしまい、発送しなかったという不祥事が発覚している。報道されるのは、たいがいこうしたセンセーショナルな事例なのであろうから、実はこうして報道された事例は氷山の一角なのかもしれない。だとしたら恐ろしいことであるし、同時に悲しいことでもある。納税者から負託された「適正な賦課徴収」という税務事務を徴収職員が適正に行っていなかったことになるからである。

安易な分納

 もう10年くらい前になるだろうか、一時「滞納者の氏名を公表する」という地方団体が見受けられた。しかし、そのような条例は制定したが、その後、実際に氏名を公表したとの報道に接していないので、結局、発動しておらず、条例を作っただけということになってしまったということなのだろうか。これも、「フグは食いたし、命は惜しし」の例のとおり、税収は早期に確保したいし、収納率も上げたい、もちろん滞納額も圧縮したい、しかし、滞納者とトラブルにはなりたくないという本音が背景にあったのではないか。

 「楽をしてお金儲けをするようなうまい話はない。」とはよく言われることであるが、法律によって徴収職員に付与されている財産調査権や処分権(納税緩和措置と滞納処分)を適切に行使せずに、文書による履行の請求や、滞納者の言い値で認めてしまうような「安易な分納」に頼った滞納整理から早く卒業しなければならない地方団体がありはしないだろうか。

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