徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第39話 フリーライダー

NEW地方税・財政

2019.10.08

徴収の智慧

第39話  フリーライダー

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長
鷲巣研二

『月刊 税』2017年9月号

滞納者の態様

 滞納者と言っても、意に反して突然失業してしまったとか、ケガや事故で入院して多額の出費を余儀なくされたなどのように「やむを得ない事由」から納期内に納税することができなくなってしまった人もいれば、納税のことを考えずに過大なローンを組んでマンションを購入しておきながら「マンションを買って何が悪い!」と開き直る人まで実にさまざまであるから十把一絡げに「滞納者とはこういうものである」と決めつけるわけにはいかない。今回取り上げるのは、そのうちの、いわゆる「フリーライダー」と呼ばれる一部の滞納者に見受けられるタイプである。

フリーライダー

 最近、脳科学者の中野信子氏の「サイコパス」(文春新書)という本を読んでいたら、その中に「集団内では、社会の成員みんなが少しずつコスト(犠牲)を払います。そしてコストを払ったおかげで集まったリソースを使って何かをなし、得たリターンをみんなで享受する。結果として、構成員全員が得をする。これが集団の協力行動です。徴収された税金を使って行われる公共のインフラ整備などを想像してもらえばいいでしょうか。(中略)しかし、中にはルールハックをする個体も少数あらわれます。コストを払わないのに、利益だけを得る人です。仕事をしているフリをしてサボっていたり、法律の抜け穴を使って脱税していたり、といった人たちです。こうして集団にパラサイトするかたちで生き延びる個体を学術的には「フリーライダー」と呼びます。」(同書より引用)という一節があり、目にとまった。

滞納整理とフリーライダー

 滞納整理の実務では、自らの経営の失敗の責任を棚に上げて、「倒産したら役所のせいだ!」と責任転嫁をして憚らない会社経営者とか、「子どものために貯めておいた預金を差し押さえるなんて、まるで鬼の所業だ!」などと自分の都合しか考えない自己中心的な滞納者に遭遇することが少なくない。こういった人たちに共通しているのは、「自己責任に無頓着ないしは鈍感であること」と、「自分若しくは自分たちの都合が最優先で、他人(社会)のことは二の次という考え方に執着していること」である。滞納整理の実務の中で、しばしば遭遇するこうした滞納者たちが、もしも、前掲書が言っているように、「コストを払わないのに、利益だけを得る人」だとしたら、滞納者の中にはフリーライダーが少なからぬ割合で含まれていると言えそうである。

集団を維持するための規律

 中野氏は、同書の中で「普通、フリーライダーは、同じ集団の仲間たちからバッシングを受けます。そしてそういう行動を改めてもらうか、あるいは集団から出ていってもらうかの二択が迫られます。こうしたサンクション(制裁行動)がおこなわれなければ、「フリーライダーの方が得だ」と皆が思うようになり、集団の協力行動は壊れてしまいます。」と続けている。これこそが、社会的な動物であると言われているわたしたち人間が社会という集団を維持し続けるために長い歴史の中で編み出し、そして培ってきた規律なのだと思う。

 思いを致せば滞納整理も、こうした人間社会の基本的な規律である「フリーライダー」を許さないという原理に根差している崇高な仕事なのではないかと言えなくもない。

信念と法律に基づいた滞納整理

 滞納整理というものを、このように脳科学といったまったく別の観点から俯瞰してみることも時に必要ではないだろうか。税の徴収というものを、単なるテクニック的(徴収技術的)なものだけで捉えるのではなく、社会学・心理学・脳科学・法学・倫理学なども含めた多様な角度から眺めてみれば、また別の見方・捉え方もできるであろうし、そこに仕事のやりがいを見出すこともできるのではないかと思う。もっとも、滞納整理は行政実務であるから、徴収職員のみなさんに学問として研究することを勧めたり、期待したりしているのではない。フリーライダーは許さないという確固とした信念で滞納整理に臨んでもらいたいのと、それを実現するための規律としての法律に基づいた滞納整理を貫き、そして徹底してもらいたいと思うのである。

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2017/09 発売

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元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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