徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第7話 滞納整理とマネジメント

地方自治

2019.06.28

徴収の智慧

第7話 滞納整理とマネジメント

『月刊 税』2015年1月号

滞納整理の実務

 徴収職員の役割は言わずと知れた「滞納整理」に努めることである。そして、その仕事の根拠が法令にあることは自明なことである。

 ところで、滞納整理の実務を見てみると、敢えて誤解を恐れずに言えば、必ずしもその全てが法令どおりというわけでもない。例えば、差押えの法定要件は、督促状を発して10日経っても完納しないことであるが、実務では、これに加えて、催告や折衝といったこともやっている。催告や折衝というのは、別に法令が徴収職員に求めているわけでもないのにである。これにはふたつの意味ないしは解釈が成り立つと思う。ひとつは、法令が規定しているのは必要最小限のことであって、徴収職員に与えられている自力執行権は非常に強い権限であるから、丁寧な行政を推進するという視点から、その執行には謙抑的であるべきで、したがって、それの執行に際しては、事前に警告を発するなど段階的・漸進的に行うという行政的な配慮が必要であるとする考え方である。

 もうひとつは、税務事務が大量・反復事務であるという厳然たる事実を踏まえ法令は、実務上の実行可能性を考え、徴収職員に対して、法令執行の細目について一定の裁量を許しているとする考えである。すなわち、例えば、差押えの要件とか、執行停止の要件そのものについては法律で規定するものの、実務上、どこまでやればそれらの法定要件を満たしたものとして、差押えや執行停止に踏み切るのかという判断については、徴収職員の合理的な裁量に委ねられていると考えるのである。

マネジメントの必要性

 いずれの考え方によるにせよ、実務は徴収職員たる「人」が行うものであるから、法令が実務に不可能を強いるものでないとするならば、その辺の(実務上の)細目については、徴収職員の合理的な裁量に委ねられていると考えても法の趣旨に背くことはないと思う。ここに滞納整理におけるマネジメントの必要性と重要性の根源的な問題が潜んでいるのである。つまり、滞納整理の根拠は法令にあるとしても、その進め方や進行管理については、徴収職員の合理的な裁量に委ねられていて法令の縛りがないので、まさに徴収職員によるマネジメントの力量次第で、良くもなり得るし、逆に悪くもなり得るということなのである。

 滞納整理における「収納率」、「税収の確保」、「滞納額の圧縮」などはいずれも、どれだけ処理したのかという処理率に比例して実績が上がるものである。言い換えると、滞納整理で目標としているこれらの指標の実績を上げる決定打は、滞納整理で使う法令の知識量を増やすことではなく、抱えている滞納案件の処理の促進にかかっているのである。滞納整理を進める上で法令の知識は必要不可欠ではあるが、それと「収納率」、「税収の確保」、「滞納額の圧縮」などとは直接の関係はなく、むしろ、そうした法的知識を基礎として、いかに処理効率を上げるかというマネジメントに腐心する方が正鵠を射た(滞納整理の)方法論であると思う。

滞納整理の研修内容

 滞納整理の研修といえば、財産調査の方法とか、差押えの方法、あるいは換価の方法などといった技術的な方法論に関するものがほとんどであるが、そうした知識的なものについては初任者に限るか、又は自己研鑽に委ねるべきであると思う。滞納整理の実務では、町別で担当をもっている地方団体が多いと思うが、その場合、とかく個々の担当者はいわゆる「蛸壺状態」になりがちで、自己流の滞納整理になってしまったり、職場で情報が共有されずに、倒産案件での対応が遅れがちになったりしがちである。また、担当者によって進捗状況にばらつきが生じて不協和音の原因となったり、それぞれが自分のペースで進めてしまい、職場としての一体感が希薄となって組織としての滞納整理を行う基盤ができないという不都合が生じたりすることにもなりかねない。このような実務の実情に鑑みるならば、これからの滞納整理研修では、中堅の徴収職員については、実例をもとにした課題解決型の研修や、ロールプレイ、実地研修を取り入れた実践的な研修に特化するとともに、管理監督者については、滞納整理計画の立案とその進捗管理の方法や、OJTの在り方、決裁時の留意点、個別指導のポイント、危機管理の方法などといったマネジメントに関する科目を必修とする必要があるだろう。

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鷲巣研二

鷲巣研二

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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