徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第45話 実行力とやり抜く力

地方税・財政

2019.11.07

徴収の智慧

第45話 実行力とやり抜く力

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長
鷲巣研二

『月刊 税』2018年3月号

不甲斐ない不祥事

 人事異動の際に滞納整理が敬遠される最大の理由は、「滞納者からの猛烈な抗議」や「いわれのない誹謗中傷」などの暴言のために気持ちが萎えてしまうからのように思われる。というのも、窓口等で猛烈な抗議を受けるのが嫌で、そのような滞納者への督促状や催告書を事前に引き抜いてしまって出さないようにしていたとか、そのような滞納者からの不当要求に屈して減免事由がないにもかかわらず延滞金を免除して徴収していなかったなどといった不甲斐ない不祥事が報道されることも決して稀ではないからだ。

 地方税の滞納整理研修の折にしばしば耳にすることの中に、「徴収技量が未熟である」とか「徴収のノウハウが継承されない」というのがある。これは組織体制という仕組上のことを嘆いているかのようにも聞こえるが、そうとばかりは言えないのではないか。なぜなら、実績を上げている地方団体では人的な体制が盤石で、充実した研修の機会に恵まれているのかと言えば、実は必ずしもそうとは限らないからである。それでは、実績の上がっている地方団体と、そうではない地方団体とでは一体何が違っているのであろうか。

認識の差

 思うに両者の間には二つの意味で認識の差というものが見て取れるのではないだろうか。すなわち、ひとつは、実績の差は「徴収技量の差」だとの誤った思い込みであり、もうひとつは、即戦力の(滞納整理経験が豊富な)ベテラン職員を重宝がる傾向である。従来、滞納整理の職場において当然のこととされてきたこうした認識が、実は、実績の向上に大して寄与していないことに気づいていない場合が多いのではないか。実績の差は「徴収技量の差」だとの半ば信仰にも似た思い込みがあるから、滞納整理の研修といえば、専ら財産調査の方法とか差押えの方法などといったテクニックを教授するものばかりであったのがこれまでの実情だったのではないだろうか。また、地方税務職員は、国税の職員と違って一般行政職であるから、異動によって税務以外の多種多様な行政事務に携わることもあり、勢い税務の専門性において国税職員に比べて見劣りする(あるいは不利である)かのような印象があるのかもしれない。しかし、そうした認識は全くの的外れだと思う。実績の差は、「徴収技量の差」などではなく、いかに効果的な処理を短期間に、より多くこなしたかによるのである。そして、それは「知識や経験」に依拠した徴収技量の差というよりも、むしろ実行力の差なのであり、やり抜く力の差なのである。いかに徴収のノウハウを身につけていようとも、それを実行しなければ(=数多くこなさなければ)実績は上がるはずもないのである。それなのに、これまでの研修では、知識や技術ばかりを教授することに勤しんできたから、「知っているけれどもそれを使って実行する」までには至らないために、研修はすれども一向に実績が上がらないということになってしまっていないだろうか。

ベテラン職員を重宝がるべからず

 一方、即戦力とされるベテラン職員を重宝がるというのも、必ずしも実績には直結しないのである。もちろん指導力と実行力を兼ね備えたベテラン職員であれば大いに重用すべきだとは思うが、要するに実績の向上に寄与するかどうかの判断基準は、ベテランであるかどうかという形式的なことではなく、ベテランにふさわしい役割を果たしているかどうかなのである。職場の中ではベテラン職員と経験の浅い職員にはそれぞれに期待されている役割があって、各々がその役割を果たしているかどうかによって実績という成果が左右されるのである。つまり、指導力と実行力を兼ね備えたベテラン職員は貴重な存在ではあるが、単に経験が長いだけのベテラン職員は百害あって一利なしなのである。むしろ経験を問わず意欲のある職員やチャレンジ精神に富む職員の方が実績が上がっているというのが経験則なのである。たとえどんなに格調高い講釈を垂れたところで、それ自体は実績とは無関係だということである。滞納整理の実績は、督促状や催告書による滞納者への(自主納税の)働きかけもさることながら、詰まるところどれだけ調査と処分(滞納処分と納税緩和措置)をしたかに比例するのである。

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元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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