徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第32話 “ちょうない”環境

NEW地方自治

2019.08.30

徴収の智慧

第32話 “ちょうない”環境

『月刊 税』2017年2月号

長寿の秘訣

 世界保健機関(WHO)が発表した最新の世界保健統計2016によると、わが国の平均寿命は、男性は第6位、女性はなんと第1位とのことである。男女総合では女性の長寿が大いに貢献して第1位というからすごいことである。もっともこれは寿命ということだから、必ずしもこの年齢まで健康であったということではない。これとは別に「健康寿命」というのがあるそうだから、どうやら長生きしてよかったと言えるためには「健康寿命」が長い方が良いようである。

 わが国が長寿国と言われるようになって久しいが、その長寿の秘訣というものの正体については、実は医学的にはまだ十分に解明されているわけではないようだ。それ故、憶測も含めてさまざまな「長寿の秘訣」なるものが流布されている。中でも最近注目されているのが「腸内環境」と言われるものである。いわゆる「腸内フローラ」と言われる腸内に生息している細菌のバランスが、どうも人間の健康や寿命に大きく関わっているのではないかと言うのである。

騒ぐ滞納者への対策に苦慮する市町村

 ところで、本稿は健康や医学に関するものではないから、腸の話はこの程度にしておくが、表題の“ちょうない”環境とは、腸内環境のことではなく、「庁内環境」のことである。徴税実務に係る部署が独立している都道府県や幾つかの政令市ではあまり該当しないと思われるが、税以外の他の分野の窓口とひとつ屋根の庁舎内に同居しているほとんどの市町村では、窓口で大声を出したり、カウンターを叩いたりして騒ぐ滞納者への対策に苦慮しているようである。

 もちろん窓口で大声を出したり、カウンターを叩いたりして騒ぐ滞納者というのは、全納税者のうちのほんの一部ではあるのだが、専らそうした人達を相手としている徴税の所管課(仮に「徴収課」としておく)にしてみれば、「しょっちゅう」ある日常の風景なのである。だから、徴収課に隣接している他の課では「また徴収課の窓口が騒がしい」と思っているし、「来庁者に迷惑だから、何とかならないのか」とも思っているだろう。徴収課からすれば、「徴収課が悪いのではない。騒ぐ滞納者がいけないのだ」ということになるし、「法律に基づいて滞納整理をしているのに、他の課は滞納整理というものを理解してくれない」との不満がある。正しい仕事をしているのに理解されないとなれば、職員の士気にもかかわる。

滞納整理は重要な仕事

 言わずもがなのことだが、滞納整理とは、納期内に自主納税しない人が対象の事務であるから、率直に言って、整理の対象者から歓迎されることもなければ、喜ばれることもないのである。つまり滞納整理とは、ルール違反者に対する取締りのようなものなのである。ルール違反者が仕事の対象ということもあり、その手段は必然的に強制にわたることも多い。しかし、徴収課の職員にしてみれば、他課の職員は、「滞納整理が、住民の福祉や生活の向上のために必要な事務事業の経費を賄う財源の確保に必要不可欠な重要な事務である」ことを自覚していないのではないかという不満があるように思われる。一方、他課の職員からは、「滞納整理が重要な仕事であることは分かっている。しかし、滞納者が窓口で騒ぐのは、方法(やり方)がよくないからなのではないか」との疑問や注文のような声も聞こえてきそうである。

組織的な滞納整理

 少なからぬ市町村において、滞納整理を進めるに当たって、なかなか差押えに踏み切れない理由の ひとつに、こうしたお家の事情(内部事情)もありそうである。庁内におけるこのような誤解や理解不足が滞納整理の進捗を妨げる原因になっているとしたら、早急に打開策を講じる必要がある。その際に重要なのは、課長の情熱とイニシアチブである。まずは庁舎管理者を始めとした庁内各課長の(滞納整理に対する)理解を得るべく丁寧な説明と協力要請が必要であるし、そのために執るべき全庁的な体制について、各課と協議の上、具体案を提示することも必要であろう。滞納整理は、徴収職員が一人で行うものでもなければ、徴収課単独で行うものでもないのである。庁内各課の理解と協力を得て、それを背景とした全庁を挙げた組織的な滞納整理が望まれる。これが表題で言うところの“ちょうない”=庁内環境整備なのである。

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鷲巣研二

鷲巣研二

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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