徴収の智慧
徴収の智慧 第33話 滞納者を納税者に変える
地方自治
2019.08.30
徴収の智慧
第33話 滞納者を納税者に変える
滞納者と納税者の定義
滞納者について、法律は「納税者でその納付すべき国税をその納付の期限までに納付しない者をいう」(国税徴収法2条9号)としている。一方、同法はこれに対応する形で納税者について、「国税に関する法律の規定により国税を納める義務がある者及び当該源泉徴収による国税を徴収して国に納付しなければならない者をいう」(同法2条6号)と定義している。国税を地方税に置き換えれば、その意味は国税も地方税も同じである。
トラブルへの恐れと忌避
「滞納者を納税者に変える」のが理想的な滞納整理であると考えている徴収職員は少なくないようであるが、その場合、彼らが言わんとしていることは、「滞納処分をすると滞納者との間でトラブルになり、感情的なしこりが残るから、滞納処分以外の何らかの穏便な方法(滞納者を刺激しない方法)で、納期内に自主納付してもらえるような妙案はないものだろうか」といった趣旨のことであるようだ。つまり、滞納者とトラブルにならずに、納期内納税者になってもらえるようなウルトラCはないだろうかというのである。私には何とも「虫のいい話」のようにも思え、また、実際には居もしない「青い鳥」を追い求めているとしか思えないのだが、実は、少なからぬ徴収職員がそれほどまでに滞納者とのトラブルを恐れ、かつ忌避している現実があることの証なのでもあろう。こうした実情が少なからず見受けられるから、なかなか滞納処分の実績が上がらないのではないか。もとより滞納処分は、厳格な要件の下に行使すべきものであって、濫用などもちろんあってはならないのだが、だからといって、極端に自制的・謙抑的になってしまうようでは、要件充足時には差し押さえなければならない旨徴収職員に命じている税法の趣旨を没却することにもなる。
「滞納者を納税者に変える」ことが理想的な滞納整理だと考えている徴収職員にしてみれば、何とかして滞納者を納期内納税者にすることはできないものかと思案しているのであろう。彼らのいう納税者とは、法律上の定義である「税を納める義務がある者」よりも狭く捉え、「納期内納税者」のことを想定しているようだ。すなわち、「滞納者を納税者に変える」とは、換言すれば「滞納者を納期内納税者に変える」ということのようなのである。
滞納者を納期内納税者に変える手段
そこで、「滞納者を納期内納税者に変える」ための手段について考えてみると、税法は、滞納者につき要件に該当する一定の事実があるときは、滞納処分とするか、又は納税緩和措置とすることを求めており、これ以外の第三の方法は用意されていないのである。ところが、「滞納者を納期内納税者に変える」ことが理想的な滞納整理であると考えている徴収職員の本音が前述のとおり、「滞納処分をすると滞納者との間でトラブルになり、感情的なしこりが残るから、滞納処分以外の何らかの穏便な方法で、納期内に自主納付してもらえるような妙案はないものだろうか」というものであるとすると、その延長線上には、法的な処理に拠らない穏便な方法(滞納者を刺激しない方法)へとシフトしていくこととなる。かくして編み出された方法として、「催告」・「分納」・「納税交渉(折衝)」・「滞納者の氏名公表」などが挙げられるのである。これらのうち、催告には履行の請求として民法に規定があるし、大量・反復性のある税務事務の特性を考えれば一定の合理性が認められるものの、その他の方法については税法の規定に基づいた処理ではなく、結果は滞納者次第といった側面が強い。つまり、これらはいわば「あなた(滞納者)次第」なのであって、効率や効果のことを考えれば、はなはだ心もとない方法だと言わざるを得ない。こうした方法が直ちに違法であるとまでは言えないとしても、効率的・効果的な滞納整理という観点からすれば大いに問題があるし、費用対効果の点からしても、とてもお勧めできるような方法ではない。
租税法律主義と法律に基づいた滞納整理
徴収職員として「滞納者を納期内納税者に変える」と考えること自体は方向性を誤ってはいないと思うし、そのための取組みを強化するというのであれば、正鵠を射た認識であるとも思う。ただ、徴収職員は、租税法律主義の下、法律に基づいた滞納整理をすべきであって、穏便な方法を模索すると称して、法定外の方法を志向するのは筋違いなのである。