活力あふれる強靭な自治体をつくる「言葉力」――豊かなコミュニケーションで、時代を担う強い自治体へ

地方自治

2019.05.09

『ガバナンス』2018年8月号スキルアップ特集
仕事力を高める 説明のスキル

活力あふれる強靭な自治体をつくる「言葉力」――豊かなコミュニケーションで、時代を担う強い自治体へ

毎日使っているのに、言葉というのは実に難しい。本稿では行政実務において必須で、かつ最大の武器であるコミュニケーション能力を、筆者の職務経験に基づき「言葉力(ことばぢから)」と表し、その最大活用による自治体の強靭化について述べたい。言葉力を養うことが、明るい職場をつくり、人材を育て、住民への説明責任を果たすために有効だ。

公務員には高い説明能力が必須

高い説明能力

 我々の職域は極めて広く、遍く全ての人々が職務の対象である。庁外に向けては住民への施策説明、住民からの諸要請への対応、議会本会議や委員会での答弁、報道対応、そして庁内的には上司への説明・報告、決裁、会議等での説明、協議や意見交換。その全てが資料とともに、話し言葉で賄われる。

 どのシーンでも特に重要なのは、自分の仕事の目的と理想、そのために何をし、どんな成果を出したいかを明確に一言で説明することだ。つまり、状況や相手に応じて最もストレートに、自らの言葉で施策を相手に語る。これが「言葉力」である。

 住民をはじめ庁外の方々に、お役所言葉は通用しない。だから聞き手がこちらの説明を明確に理解し納得できるよう、話す言葉は周到、かつ瞬時に選ばなければならない。自分の担当施策だから、表現方法は自分で決める。自ら言葉を選び、そして試す。誰かの受け売り言葉では、相手に響かない。言葉力の増強は厳しくも楽しい訓練であり、仕事を通じて職員各自が日々、培うべきものだ。

 若い頃、「言葉力」の大切さを身に染みて知った瞬間を、私は今でも鮮明に覚えている。ある市民団体主催の講座で、県の新規施策について短時間のプレゼンを求められた。15分間いただき、私はパワーポイントを用いて懸命に話し始めたが、最初の5分が過ぎた時、会場の一市民から罵声が飛び、不意を衝かれた。「言っていることがわからないんだよ!もっと簡単に、わかるように話せ!」満座の会場での叫びに、私は呆然自失で凍りつき、次の瞬間、深々と頭を下げていた。プレゼンは完敗。この日から私の「言葉」との闘いが始まり、それが今も続いている。

 懸命に練り上げた施策も仕事への熱い思いも、一言でピシッと人々に伝わらなければ、存在していないのと同じだ。我々は日々極めて広範囲の方々と対話するが、その全てに行政としての説明責任が存する。我々の施策に掛ける思いや意図する中身が、人々に的確かつ効果的に届いているか否かは極めて重大な問題である。特に口頭説明では、一発で相手の心に響く言葉を瞬時に選び、頷かせる必要がある。あらゆる説明場面において、言葉が持つ底知れぬ力を軽く見てはならない。多忙な業務の中、我々は公務員生活の全てを通じて、この「言葉力」を養うべきだ。

組織の風通しを良くするために「言葉力」を培う

フキダシ

 庁内でも役所間でも、多忙な上司や仲間に正確な意図・内容を伝える一定の緊張感は必要だ。一人ひとりが簡明、正確に内容を伝えなければ、組織全体の行政効率が落ち、生産性も低下する。私は職場での説明の場面で以下を推奨している。

●上司から部下への連絡や指示
① 「連絡」と「指示」とを分ける。伝えたい情報と、具体の指示は区分して話す。
② 指示内容は、その目的とともに明瞭に示す。要は何のため(何に使うため)、具体的にいつまでに何をしてほしいかである。

●部下から上司への報告、相談、レク
① 目的と結論案を先に、経緯や情報は後に。これは口頭説明でも同じ。
② 上層に行くほど書類の数は多くて多様。資料は厳選し最小限で。
③ 上司は、部下の説明を最低5分間はちゃんと聞く。

●会議や打合せでの説明
① 何のための集まりかを必ず冒頭に示し、参加者のスタートラインの意識を揃える。
②終了時刻を宣言し、厳守する。

 管理職の一挙手一投足は、思いのほか部下に大きな影響を与える。管理職のこの点の認識は大変重要だ。

 朝の挨拶も言葉、職場の雑談も言葉である。「言葉力」は単に仕事に向かう時だけでなく、「声掛け」として雑談も含め職場内で常に発揮され、職場の雰囲気を変え、士気を上げて、具体の業務実績に結びつく。

 管理職が部下を見ているように、部下も管理職を見ている。部下は各自の相談や決裁のため、上司の動きを常に観察している。管理職として仕事を部下と共に成功させたいなら、「さあ、いつでもどうぞ」と黙しても表情で伝えるような気配りをすべきであろう。上司としては、職務上は対等関係にない部下の立場に立って考える瞬間が必要で、この基本的な意識(いわば思いやり)が欠けると、いずれは組織内の士気を落としていくことになる。職場の風通しや活力の最大の障害とされるパワハラの主な原因も、この意識の欠如にあるように、私には思えてならない。

人材、組織の活力向上に有効な「言葉力」

組織の風通しをよくする言葉力

 私の経験則では、職員の士気の高揚は職員の生産力向上につながり、それがそのまま職員の成果量の増加につながる。そして職場の雰囲気まで大きく変える。

 職員の心の高ぶりを業務評価指標にすることはできない。しかし、人は心理で動く。日々努力してきた仕事について褒められ、励まされると自然と気持ちが高揚し、士気も上がる。これが繰り返され課内・部内で連鎖していくと、思いのほか短期間に組織全体のモードが高まり、職場の雰囲気は見る間に明るくなる。

 ここで重要なのは、管理職の行動である。部下を鼓舞し、できた点はまず褒め、問題点はその後に指摘して、励ます。この一連の行動を日々行うだけで職場の雰囲気は大いに変わり、自然に風通しが良くなる。また、職場の一人ひとりの力が評価され表出されてくると、職場内に爽やかな競争意識も芽生え、よし自分も頑張ってみようという気持ちになる。

 人は誰かの役に立つことに無上の喜びを感じる動物である。これを踏まえて部下職員を日々鼓舞することが、組織全体の生産性を大きく上げる極めて有効な戦略だ。そして、この戦略の成否は日々管理職の発する「言葉力」に掛かっている。しかし、それに多くの経営陣が気づかないか、わかっていても実行しない。

 管理職に最も強く求められるのは、言葉の力で組織の「風通し」を創る、つまり日々の言葉で職場全体の雰囲気を明るく醸成することだ。不機嫌な顔で部下に当たるのは、非力で劣悪な管理職の典型的な所作であろう。明るい職場づくりは管理職の基本責務であり、本来業務である。

 仲間内の例で恐縮だが、私の職場である静岡県経営管理部地域振興局の改革意欲と最近の成果は目覚ましい。市川敏之局長を筆頭とする局内幹部による職員意欲向上への取組みは、日常の「笑い」「声掛け」「励まし」をベースとしている。そしてこれらの相乗効果で、風通しが良く明るい職場の雰囲気を醸成し、市町との協働による課題解決型の地方分権への取組みやコミュニティ施策の推進等、多くの実績を上げている。さらに、並行して進める国内外への徹底した広報戦略で、高い評価を得ている。次の図に示す「静岡県の地方分権に向けた取組(英語版)」の公表もその一例だ。

https://www.pref.shizuoka.jp/soumu/so-420a/30simatirenkei/bunken.html

 多くの職員が経験することだが、苦労して進めた仕事が一定の評価を得た時の喜びはひとしおで、これまでの辛さも疲れも吹き飛んでしまう。さらにその成果が報道されれば多くの人々から反応があり、職員の達成感は実に大きい。どの事業にも必ず目的と根拠、目指す姿があり、それは成果とともに、担当者自身のわかりやすい一言で人々に広報すべきだ。当該職員の名前を併せて公表してもいい。それで職員と職場の士気は、確実に上がる。

 私はかつて藤枝市役所に6年半勤務し、基礎自治体の日々の努力と苦労を知り、多くを学んだ。北村正平市長は「まちの元気はまず職員から」をスローガンに、就任直後から市役所改革を進め、徹底した広報戦略とともに、仕事を熱く市民に語る職員の育成に尽力された。そして全職員が仕事に誇りと達成感を持てるよう、日々職員を鼓舞した。藤枝市で体感した地方行政の真髄は、私の生涯の財産となった。

「常時的説明責任」として「言葉力」を発揮する

 そもそも「説明責任」とは何だろうか。役所が不祥事を起こし、住民から対応と責任を問われた時にだけ発生するのか。コンプライアンスが恒常的なものであるのと同様、説明責任も、行政の恒常的な責任だ。

 税を原資とする我々の仕事内容は、その進展、成果の有無に関係なく、基本的に常時、納税者たる住民に説明(広報)すべきだ。成果を直ちに人々に披露するのは勿論、まだ出ない段階でも、取組内容は適時に広く人々に知らせる責務がある。私はこれを「常時的説明責任(Continuous Accountability)」と呼び、行政の基本戦略と人材育成、そして組織活性化のキーワードとして、職員に取組みを促している。

 職員が担う行政の諸活動や成果は、自信を持って随時・適時に明示すべきだ。それはあらゆる媒体活用による広報戦略の展開と職員の「言葉力」によって初めて可能となる。勿論、報道関係者との信頼関係も重要だ。

 一方で、目的や理想を自分で明確に説明できない事業、住民への広報価値をさして感じられない施策なら、その仕事は止めるか、やり方を変えるべきだ。それこそが生産性を高める行政改革の本質であり、生産力を上げない人や予算の削減なら行革効果もなく、いずれ職員の士気まで落としてしまう。

 一言で説明できない仕事は、真に自分が誇れる仕事になっていない。真に優れた事業施策は、説明もしやすい。仕事を磨き、それを一言で説明する言葉も磨こう。明るい職場をつくり、士気高き人材を育み、住民への常時説明責任を果たすための最大有効な武器として、言葉力を養うことを私は提案する。

著者プロフィール

山梨 秀樹 静岡県理事(地方分権・大都市制度担当)

1958年生まれ。83年4月、静岡県庁に入庁。総務部市町村課、旧総理府(現内閣府)地方分権推進委員会事務局、静岡県総務部合併支援室などを経て、2008年10月から藤枝市行財政改革担当理事。同市市長公室長、副市長を歴任。15年4月から静岡県くらし・環境部長代理。知事公室長を経て、17年1月から現職。

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