AIで変わる自治体業務
第2回 自治体におけるAI活用の具体例(前編)
ICT
2019.04.04
(『Gyosei Cafe』*2019年4月号 株式会社ぎょうせい システム事業部)
保育所とAI
各自治体の2019年度予算が成立しました。今年度の特徴は多くの自治体でAIやRPA関連の予算が多く盛り込まれていることです。例えば、滋賀県大津市では、保育所入所などの事務効率化に1300万円、いじめ事案のAIによる分析と予測に100万円の予算を付けています。
前者は既に、2017年度に富士通や九州大学がさいたま市で実証実験を行っています。さいたま市では保育施設への入所希望が毎年8000人程度あります。各申込書には第5希望まで書かれており、祖父母の同居の有無、勤務時間、兄弟姉妹の状況を考慮してマッチングしなければならず大変な人手がかかります。これまで30人の職員が50時間かかっていました。ですが、この作業をAIで行う実証実験を行ったところ、わずか数秒でマッチングが完了したそうです。並行して行われた手作業でのマッチング結果と大きな違いはありませんでした。2018年度にかけて30以上の自治体で実証が行われ、富士通は2018年11月からこれを「MICJET MISALIO 保育所AI入所選考」ソフトとして一般に提供を開始しています。2019年度からは、大津市の他、大阪府池田市、東京都港区などでも導入が予定されています。
いじめ防止とAI
後者は、AIを使っていじめ事案約9000件の特徴や傾向を把握し、学校での対応に活用しようとするものです。大津市では2011年に中学2年生の男子生徒がいじめを苦に自殺する事件が発生しており、その再発防止のために様々な取り組みを行ってきました。事件の翌年には国会でも大きな議論となり、いじめ防止対策推進法が成立し、全国で取り組みが進められています。しかしながら、多忙を極める各学校現場では他の事案の詳細や傾向が十分には共有できません。大津市の取り組みはこれまでの人手による分析に加えて、AIによる客観的な分析を取り入れて活用しようとするものでその成果が注目されるところです。
チャットボットAI
多くの自治体で導入が進められつつあるのが、情報提供型チャットボットAIと呼ばれるものです。各市のHPや冊子等には、膨大な情報が掲載されています。しかし市民はそれだけで情報を得られるのでしょうか。冊子の場合は(自治体にもよりますが)相当簡略化した情報しか掲載されていない場合もあります。他方、HPで相当詳しい情報を掲載していたとしても、何階層もおりていかなければ目的の情報にたどり着けない場合も多くみられます。AIを使ってこのギャップを解決しようとするのが情報提供型チャットボットAIです。チャットボットというのは、チャット(会話)とロボットをかけあわせた用語で、スマホなどで問い合わせをするとあたかも会話をしているかのように答えてくれるものです。スマホのLINEで知り合いとチャットをされている人も多いと思いますが、その会話の相手先が、自治体であるというイメージです。
先鞭をつけたのは三菱総合研究所で、2016年度には掛川市や川崎市で実証実験が行われました。スマホの画面に利用者が質問を入力すると、それをAIが言語認識をし、学習データベースから適切な回答を選択して、画面に回答を表示して利用者に提供するものです。利用者が入力した質問やキーワードを基に適切な回答や関連ウェブページを検索・表示する処理にAIを活用しています。その後、実証実験を行う自治体は2018年初めに30以上に拡大され、2018年10月からは一般に商品として提供されています。自治体への問い合わせは平日の昼間だけという場合が殆どです。コールセンターを設けている自治体もありますが、24時間365日というわけにはいきません。電話をする方もそれなりの覚悟と電話代が必要です。しかし、上記のシステムは、自宅でいつでも気軽に問い合わせが無料でできるという点で、住民サービスに大きく資するものと考えられます。2019年度予算でも多くの自治体が導入に踏み切ろうとしている様子が見てとれ、今後全国的な広がりを見せていくことでしょう。
(*)「Gyosei Cafe」は法令出版社ぎょうせいのシステム事業部がお届けする、IT情報紙です!隔月で、自治体職員の皆様へお役立ち情報をお届けいたします。