AIで変わる自治体業務

稲継裕昭

第1回 AI活用と自治体

ICT

2019.04.04

(『Gyosei Cafe』2019年2月創刊号 株式会社ぎょうせい システム事業部)

連日報道されるAI

 新聞や雑誌を開くと、AI(人工知能)関連の記事があふれるような時代になってきました。『日本経済新聞』の2018年の1年間の紙面のうちAIに関連するものは847件ありました。1日あたり2、3件が掲載されているということになります。『日経電子版』を含めるとその数は6,000件を超えます。紙面も電子版も、あとになるほど掲載件数が飛躍的に伸びています。今後、ニュースのかなりの部分をAIが占めていくことになるでしょう。時事通信社の官庁速報やiJAMPでもほぼ毎日のようにAIまたはRPAという言葉が出てきます。

 テレビをつけるとAIを搭載した商品のコマーシャルが頻繁に流れています。将棋の最年少記録を更新し続けている藤井七段の練習相手はAIだとテレビは伝えます。自動運転技術は実用化の段階にあり、トヨタがソフトバンクと提携したということもニュースで流れました。

 ただ、これらのことは、新聞やテレビの向こう側で起きていることではなく、こちら側、すなわち私たちの生活の中にも深く入りつつあるものです。iPhoneのSIRIに語りかけて検索をする人も増えてきました。自宅にAIスピーカー(Amazon EchoやGoogle Homeなど)を設置して、彼らと会話しながら天気を聞いたり、音楽を流してもらったり、冷暖房のスイッチを入れたりする人もかなりの数になりつつあります。

自治体業務とAI

 AIとはあまり縁がないように見えていた自治体業務にもAIは徐々に浸透してきています。地方自治研究機構が2018年7月に行った調査では、AIを活用したシステムを導入しているか、または実証実験を行っている自治体が回答を寄せた935自治体のうち45自治体となっていました。また、全都道府県・指定都市・市区町村を対象に行われた総務省の調査では、2019年1月8日時点で、AIを1業務でも導入している(実証実験を含む)自治体は、都道府県で約36%(17団体)、指定都市で約60%(12団体)、その他の市区町村で約4%(76団体)となっていました。一般の市区町村での普及はまだこれからですが、都道府県や指定都市ではかなりの割合でAIの導入が進みつつあります。

 会議録作成・要約、職員の業務支援(ベテランの知恵を伝授)、災害情報の集約、市民への情報提供、道路補修個所の特定、保育所入所決定など、さまざまな分野の自治体業務においてAI導入の実証実験が進められ、また、実用化が進められつつあります。RPAについても同様に、2018年以降急速に導入が進みつつあります。

 本連載では、自治体に導入されつつある(実証実験が進められつつある)AIについて事例を多く紹介するとともに、今後の導入の可能性、自治体業務はそれによってどう変わるのか、住民サービスはどう変わるのか、自治体で働く職員の業務はどう変わるのかについて考えていきたいと思います。

 AIはその利点と限界を正しく知り利用することによって、人々の暮らしをよりよくすることに資するものになり得ます。職員の方々を、パソコンに向かって定型業務を繰り返すことから解放して対象業務により興味をもって知恵を絞ることへとシフトするものですし、また、働き方改革にも資するものです。職員の方々にとっては、より生き生きと働くことが可能になり、市民にとっては利便性が増しサービスも向上する。そのようなことが、5年後、10年後には現実のものとなっているかもしれません。

 本連載を通じてその一端を考えていただくことができればと思います。

(*)「Gyosei Cafe」は法令出版社ぎょうせいのシステム事業部がお届けする、IT情報紙です!隔月で、自治体職員の皆様へお役立ち情報をお届けいたします。

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稲継裕昭

稲継裕昭

早稲田大学政治経済学術院教授

(いなつぐ・ひろあき)。大阪府生まれ。京都大学法学部卒、京都大学博士(法学)。大阪市職員、大阪市立大学教授等を経て2007年から早稲田大学政治経済学術院教授。著書に『自治体の人事システム改革』『プロ公務員を育てる人事戦略』『プロ公務員を育てる人事戦略Part2』『地域公務員になろう』『自治体行政の領域』『評価者のための自治体人事評価Q&A』(以上ぎょうせい)、『行政ビジネス』(東洋経済新報社)、『自治体ガバナンス』(放送大学教育振興会)等多数。

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