AIで変わる自治体業務

稲継裕昭

第4回 AI導入・普及後に求められる職員像(前編)

ICT

2019.09.03

(『Gyosei Cafe』*2019年8月号 株式会社ぎょうせい システム事業部)

「自治体戦略2040構想研究会」の報告書

 昨年、「自治体戦略2040構想研究会」の報告書が出されました。高齢者人口が最大となる2040年頃の自治体が抱える行政課題を整理した上で、そこからバックキャスティングして、今後の自治体行政のあり方を展望し、早急に取り組むべき対応策を検討することを目的としています。
 報告書が出されてすぐ第32次地方制度調査会も設置されました。「人口減少が深刻化し高齢者人口がピークを迎える2040年頃から逆算し顕在化する諸課題に対応する観点から、圏域における地方公共団体の協力関係、公・共・私のベストミックスその他の必要な地方行政体制のあり方について、調査審議を求める」という総理大臣の諮問に基づいて、議論が進められています。


 この議論の陰であまり言及されてはいませんが、「自治体戦略2040構想研究会」の報告書には、AI・RPAに関わる大きな論点も提示されています。同研究会第2次報告書の「III 新たな自治体行政の基本的考え方」の「1 スマート自治体への転換」には、見出しで、「(1) 半分の職員数でも担うべき機能が発揮される自治体」というかなり衝撃的な言葉が出ています。2040年、つまり、報告書から見ると22年後に、自治体職員数が半分になったと仮定して、それでも自治体の担うべき機能が発揮されるようにするためにはどうすればよいか、について書かれているのです。
 職員数が本当に半分になってしまうのかどうか、現時点ではわかりません。しかし、総務省の報告書にこのような言葉が並ぶというのは、その可能性は決してゼロではないということを意味するでしょう。

新たな飛躍の絶好の機会

 報告書を見てみましょう。「近年の出生数が団塊ジュニア世代(200~210万人/年)の半分以下にとどまる(2017年:95万人)(中略)。今後、自治体においては、労働力の厳しい供給制約を共通認識として、2040年頃の姿からバックキャスティングに自らのあり方を捉え直し、将来の住民と自治体職員のために、現時点から、業務のあり方を変革していかなければならない。」と報告書は来るべき2040年にむけて、業務のありかたの抜本的な変革を求めています。
 では、どのように変革するのか。報告書は次のように続けます。「我が国が世界に先駆けてあらゆる分野で破壊的技術(Disruptive Technologies)(AIやロボティクス、ブロックチェーンなど)を導入していくならば、戦後の焼け野原からの最新の工場設備の投資が高度経済成長を生み出したように、新たな飛躍の絶好の機会となり得る。とりわけ、これは自治体が新たな局面を切り拓く好機である。従来の半分の職員でも自治体として本来担うべき機能が発揮でき、量的にも質的にも困難さを増す課題を突破できるような仕組みを構築する必要がある。」
 労働力不足から自治体行政の担い手が半分になるというようにも読めますが、破壊的技術の到来により、自治体の行政は半分の職員で担うようにすべきだ、と言っているようにも読めるのです。そして、報告書は「(2) 破壊的技術を使いこなすスマート自治体への転換」という節へとつなげます。


 「AI・ロボティクスが処理できる事務作業は全てAI・ロボティクスによって自動処理することにより、職員は企画立案業務や住民への直接的なサービス提供など職員でなければできない業務に注力するスマート自治体へと転換する必要がある。」「スマート自治体への転換に当たり、職員に求められる能力は変容する。高い専門性や企画調整能力、コミュニケーション能力が必要になることを踏まえ、組織に必要な人材を確保する観点から、長期的な視点で職員の能力開発や教育・訓練が求められる。」
 ここには、AI・RPA普及後の自治体職員の求められる職員像が示唆されています。

(*)「Gyosei Cafe」は法令出版社ぎょうせいのシステム事業部がお届けする、IT情報紙です!隔月で、自治体職員の皆様へお役立ち情報をお届けいたします。

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稲継裕昭

稲継裕昭

早稲田大学政治経済学術院教授

(いなつぐ・ひろあき)。大阪府生まれ。京都大学法学部卒、京都大学博士(法学)。大阪市職員、大阪市立大学教授等を経て2007年から早稲田大学政治経済学術院教授。著書に『自治体の人事システム改革』『プロ公務員を育てる人事戦略』『プロ公務員を育てる人事戦略Part2』『地域公務員になろう』『自治体行政の領域』『評価者のための自治体人事評価Q&A』(以上ぎょうせい)、『行政ビジネス』(東洋経済新報社)、『自治体ガバナンス』(放送大学教育振興会)等多数。

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