日本SDGsモデルの最前線―混迷の時代、羅針盤SDGsで協創力を発揮―「第5回未来まちづくりフォーラム」を開催

時事ニュース

2023.03.27

 「第5回未来まちづくりフォーラム」(実行委員長:笹谷秀光千葉商科大学教授)が2023年2月14・15日、東京都内の会場とオンラインのハイブリッドで開催された。

 同フォーラムは、持続可能なまちづくりの実現を志す自治体、企業、関連セクターが一堂に会し、最新事例の共有を通じてお互いの理解を深めるとともに、ネットワーキング企画を通じて新たな「協創力」を生み出すプラットフォームだ。

 第5回目となる今回のテーマは、「日本SDGsモデルの最前線―混迷の時代、羅針盤SDGsで協創力を発揮―」。新型コロナウイルス感染症、ロシアのウクライナ侵略など、世界を揺るがす事態が次々と起きている。こうした「混迷の時代」の今こそ、我が国においてSDGsを「混迷の時代の羅針盤」として「自分事化」し、社会・経済のグレートリセット(大変革)に向けて使いこなす必要があるとして、フォーラムを開催した。その一部レポートする。

脱炭素社会の実現と情報ツールとしての紙の役割 ~大田区×エプソン販売(株)

 1日目の2月14日は、「自治体と企業による共創事例ピッチ」として、自治体と企業の数々の共創の取組が紹介された。

 東京都大田区とエプソン販売(株)は、「自治体における脱炭素社会の実現と情報ツールとしての紙の役割」をテーマに発表した。

 大田区では、脱炭素社会の実現に向けた施策の一環として、区役所の紙の使用量削減に取り組んでいる。今の時代、もう紙は必要ないとのではと思われることもあるが、アンケート調査の結果から、70歳以上の区民は、区のホームページより紙の広報を利用していることがわかった。デジタルツールを持っていない区民にも正確に情報を伝えるためには、紙の広報をなくすわけにはいかない。

 そこで、エプソン販売(株)の乾式オフィス製紙機「ペーパーラボ」を導入した。区役所内にペーパーラボを設置することで、オフィス内で紙を再生できる。紙によるコミュニケーションを維持しながら、庁内の紙を削減することに成功した。

 職員に対しては、庁内で紙を再生することで、資源循環型社会を見える化できる。それと同時に、ペーパーラボの設置場所を環境啓発コーナーとして、区民等も見学できるようにして事業を“見せる化”した。

 再生紙は、特別な紙としてロゴマークを入れ、名刺、チラシ、ポスター、会議資料などに活用されている。このほか、再生紙でノートやペーパークラフトなどのグッズも作成した。また、子どもたちに不要な紙を持ってきてもらってペーパーラボで再生する取組も行われ、教育面でも効果を上げている。

 ペーパーラボの導入で、コピー用紙の購入量が減り、職員の意識改革にもつながったという。脱炭素化の取組を進める中で、住民サービスを維持向上しながら、紙の価値とデジタルの融合を図っている。

 このほか、「観光資源を掘り起こす~隠岐諸島におけるJTBの挑戦~」、「デジタル田園都市国家構想への長野原町の挑戦」、千葉市の「誰ひとり医療アクセスから取り残さない、医療MaaSの取組」などが紹介された。

 

デジタル田園都市国家構想の実現と地方創生SDGsの推進

 2日目の2月15日は、岡田直樹・内閣府地方創生担当大臣と小池百合子・東京都知事のオープニング・トークからスタート。

 政府では、2030年のSDGsの達成に向けて、総理を本部長とするSDGs推進本部のもと、全府省庁が一丸となって取組を推進している。こうした中、2022年12月に閣議決定したデジタル田園都市国家構想総合戦略において、デジタルの力を活用した地方の社会課題解決の重要な政策目標の一つとして、地方創生SDGsの推進による持続可能なまちづくりが位置付けられている。

 岡田大臣は、「デジタル田園都市国家構想総合戦略においては、SDGsに関する優れた取組を提案する地方公共団体を内閣府が選定するSDGs未来都市についても、構想の実現に向けたモデル地域ビジョンの一例として位置付けられた」として、「より一層の成功事例の普及を促進していく」と話した。

 また、地域におけるSDGs達成に向けては、官と民との連携が重要だとして、内閣府が設置した地方創生SDGs官民連携プラットフォームについて紹介。現在、自治体や民間企業など合わせて6900を超える会員が官民連携による地域課題の解決に向けて取組を進めているという。

 最後に、未来まちづくりフォーラムのこれまでの取組に敬意を表し、「SDGsの理念を通じた地域課題の解決について議論し、交流することを通じて、地域の活性化に向けた具体的な取組が全国に広がることを期待している」と締めくくった。

 

地球規模の課題解決をリードする東京都の姿

 続いて登場した小池都知事は、「SDGsの目標達成に向けては、様々なステークホルダーの参画が重要だが、その中でSDGsのローカライゼーションが世界共通の認識となってきている」として、自治体レベルでの取組の重要性について言及。SDGsという国際標準の目線に立って、地球規模の課題解決をリードする東京都の姿を紹介した。

 東京都では、直面する気候危機、エネルギー危機を乗り越えようと、電力を、H=減らす、T=つくる、T=ためる─この頭文字をとったHTTを合言葉に、都民や事業者と脱炭素社会に向けた取組を加速している。

 都内のCO2排出量は建物からの排出が約7割を占めることから、2050年に建物の約半分が、今後新築される建物に置き換わることを踏まえて、2022年12月に新築住宅などに太陽光パネル設置を義務付ける全国初の条例を制定した。2025年4月の施行に向けて準備を進めている。太陽光パネルの設置は、気候変動対策だけでなく、災害時の電力確保や光熱費の削減など、より強靭な都市の実現にもつながる。

 今後、東京都ではサステナビリティ、ハイテクノロジーをテーマに、世界共通の都市課題を克服するサステナブルハイテック東京(SusHi Tech Tokyo)を旗印に次世代につなげる都市像を世界に向けて発信していくという。

 さらに、「今を生きる私たちにとって、子どもは未来そのもの」であるとし、チルドレンファーストの実現を掲げ、各ライフステージを切れ目なく、シームレスに支援してきた都の取組を紹介した。8000人超いた待機児童が96%減となり、待機児童という言葉が死語となりつつあるという。今後は、18歳までの子どもを対象にした所得制限なしの月5000円の独自給付、第2子の保育料の無償化、卵子凍結の支援、結婚予定者への住宅の提供など、大胆な支援を展開する方針だ。

 「地球環境や少子高齢社会、人口減少社会への対応に加え、デジタル化やジェンダーギャップなど積年の課題が重くのしかかっている。幾重もの困難は、日本よ目を覚ませ!と言っているように思えてならない。時代が私たちに変革を求めている。厳しい状況だからこそ、ゲームチェンジの時で、その主役となるのは、他の誰かではなく、私たち自身だ」と力強く話した。

 そして、「SDGsを羅針盤に、私たち一人ひとりが知恵を出し合い、行動を重ね、光り輝く明るい未来をつくっていきましょう」と呼びかけた。

 

SDGsの網羅的体系をフル活用してSDGsをステップアップ

 キーノート・トークでは、未来まちづくりフォーラム実行委員長の笹谷秀光・千葉商科大学教授が登壇した。なまはげで有名な秋田県や、愛媛県西条市、PR大使を務める宮崎県小林市のSDGsの取組に触れながら、「まちづくりのポイントは、『センス・オブ・プレイス』(その場所を特別と感じさせる何か」)。どこに行ってもこれを感じる」と話した。また、そこに住んでいる人の「シビック・プライド」(都市に対する誇りや愛着)が大切だとした。

 SDGsの主流化にあたっては、①SDGsを使いこなす、②仲間づくり、③発信がカギとなるという。「仲間づくりがどんどんできてくるのがSDGsの妙味であり、産官学金労言を意識するとプラットフォームを整えやすい。発進面では、日本には三方良し(世間、相手、自分)があるが、陰徳善事で良い行いを隠してしまう。しかし、言わなければわからない。発信型(開示型)三方良しが重要だ」と述べた。

 さらに、「食品ロス、太陽光エネルギーなど各論がどんどん進んでいるが、各論で終わってはもったいない。忘れかけているSDGsの原点として、SDGsの優れた網羅的体系(総論)をフル活用する段階である」として、自身が開発したマトリックスを紹介。組織統治、公正な事業慣行、人権、労働慣行、消費者課題、コミュニティ課題、環境などの項目をSDGsの17の目標に当てはめて、全体像が見えるようにするものだ。「もう一つ重要なのは、これに担当部署を紐付けること。そうなって初めて組織としてSDGs が動く」と解説した。

 マトリックスで整理して発信する=規定演技で、次の段階として、重点を決め直して差別化する=自由演技だという。①SDGs1.0(立上期)、②SDGs2.0(行動変容期)、③SDGs3.0(変革期)のように、ステップアップしながら展開していくことが大切だ。

 

デジタル田園都市は、「まちづくり」という一つの山登り

 ゲスト・トークとして、「共助とDX、デジタル田園都市国家構想について」と題して、村上敬亮・デジタル庁国民向けサービスグループ統括官による講演が行われた。
 
 人口減少に伴い、供給が需要に合わせる経済へシフトしていくにあたって、足りないものは共助であり、共助のビジネスモデルの必要性を話した。また、デジタル田園都市は、「まちづくり」という一つの山登りであり、個別事業とエリアの連動(エリア論)が重要であるとした。

 そして、「どんなに最新のまちづくりになっても、皆で話す、一つの山を目指すことは昔から変わらない。あとは、人口減少下でのサービス業の生産性に対して、的確なデジタルの技術を当てて、日本中でよいまちづくりをすることが、デジタル田園都市国家構想」だとして、「参加者一人ひとりに、それぞれのまちづくりで活躍してほしい」と話した。

 

まちづくりとウェルビーイング ~幸せの4つの因子とは?

 続いて、前野隆司・慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授による「まちづくりとウェルビーイング」をテーマとした講演が行われた。ウェルビーイング(幸福、健康)が、まちづくりとどう関係するかを中心に話した。

 調査によれば、幸せな人は不幸せな人より7.5~10年寿命が長い。また、幸福感とパフォーマンスの関係では、幸福感の高い社員は創造性(3倍)、生産性(31%)、売上(37%)が高く、欠勤率(41%)・離職率(59%)が低いほか、業務上の事故が70%少ない。

 では、どうすれば幸せに働けるのか、生きていけるのか。他人と比べられる財(金、モノ、社会的地位)を得ることによる「地位財」型の幸せは長続きしないという。一方で、「非地位財」型の幸せは長続きする。前野教授らが明らかにした幸せの4つの因子は、①やってみよう因子(自己実現と成長)、②ありがとう因子(つながりと感謝)、③なんとかなる因子(前向きと楽観))、④ありのままに因子(独立と自分らしさ)。

 この4つの因子を活用しながら、「私たちが幸せということをきちんと考えて、それを楽しみながら皆で新しい世界をつくっていけば、私たちの未来は明るい。『世界一幸せな国は日本だね』と言われるように、ぜひなっていきましょう」と話した。

 ウェルビーイングは、デジタル田園都市国家構想の指標の一つとして用いられている。今後のまちづくりのキーワードになりそうだ。

 

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