3ステップで学ぶ 自治体SDGs
「3ステップで学ぶ自治体SDGs」発刊記念 著者インタビュー 笹谷秀光氏に聞く! 自治体SDGsのポイント Vol.3
地方自治
2021.01.19
自治体が企業等と連携してSDGsにどのように取り組んでいけばよいのかについて、「基礎」「実践」「事例」の3ステップでわかりやすく解説した全3巻の書籍『3ステップで学ぶ 自治体SDGs』((株)ぎょうせい刊)。自治体職員、自治体と連携して地方創生SDGsビジネスの展開を目指す民間企業の方々に手軽にお読みいただける実践書です 。
発刊を記念して、著者の笹谷秀光・千葉商科大学基盤教育機構・教授へのインタビューを3回にわたって掲載します。第3回目は、自治体でSDGsを推進するにあたっての首長の役割、各職員がSDGsを自分事化するにはどうすればよいか、関係者連携のポイント、そして最後に今後に向けたメッセージをお届けします。
(書籍の詳細はコチラ)
極めて重要な首長のリーダーシップ
――本書では、複数の首長が対談等で登場しています。SDGs推進における首長の役割は?
笹谷 SDGsのテーマは幅広く、全体調整が必要です。SDGsの5原則
は、①普遍性(いいことは他にも広げて、水平展開をしていく)、②包摂性(誰ひとり取り残さない、みんなに目配りする)、③参画型(みんなの理解と協力を得る)、④統合性(経済・社会・環境の三位一体)、⑤透明性。これらの原則を持つかなり大きなプログラムなので、首長のリーダーシップは極めて重要です。
例えば、第2巻でご紹介した静岡市では、田辺信宏市長のもと「静岡市創生・SDGs推進本部会議」を設置し、関係部署の局長等が意思統一して、各部署でSDGsを実装していくという仕組みになっています。このように首長のイニシアチブとコミットメントがあると、それに職員の皆さんが感度よく反応し、いろいろなイノベーションにつながる風通しのいい議論が起こります。また、首長自らが積極的に情報発信することで、「あの自治体では、こんなSDGsの取組みを進めている」と広く伝わり、仲間が増えます。
本書の対談などでご紹介した首長の皆さんは、きちんとしたSDGsに対する見識をお持ちで、そのことをわかりやすく発信しているのが印象的でした。世界規模の視野で課題を考えるSDGsを念頭に置いて政策を進めることを重視した総合計画「しあわせ信州創造プラン2.0」に基づいてまちづくりを推進する阿部守一・長野県知事(第1巻)をはじめ、「幸福」をキーワードとした「いわて県民計画 2019~2028」にSDGsの17目標を当てはめて取り組みたいと話す達増拓也・岩手県知事(第2巻)、多様性のある協創社会の実現と官民連携の重要性を強調する大村秀章・愛知県知事(第3巻)などです。すべて筆者が直接取材しています。
17の目標を自分の業務に当てはめてみる
――自治体でのSDGs推進にあたって、担当部署だけでなく、各職員がSDGsを自分事化するには、どうすればよいでしょうか。
笹谷 まずは、17の目標、169のターゲットをそれぞれが自分の業務に当てはめて、みんなでディスカッションしてみましょう。お互いに議論してみると、「あなたの業務は目標の何番だね」などと、SDGsを共通言語として、社会課題の認識が客観化できます。
自分事化のヒントが数多く見つかるプログラムとして、2021年2月24日に横浜で、私が実行委員長を務める「第3回未来まちづくりフォーラム」が開催される予定です。このフォーラムは、SDGsによる最先端の未来まちづくりについて、関係者が協働して価値を生み出すために3年がかりで産官学の関係者連携でつくり上げてきたプラットフォームです。先進的なSDGsの実践事例をじかに見たり聞いたりすることができます。内閣府や総務省などの関係省庁をはじめ、全国知事会、全国市長会、全国町村会などの後援もいただき、行政関係者と連携をとってプログラムを組みました。「第3回未来まちづくりフォーラム」及び同時開催イベント「 第2回全国SDGs未来都市ブランド会議」は、自治体の方々は参加費が無料です。会場への来場のほか、オンラインでも参加できますので、ぜひ多くの自治体関係者に参加してほしいですね。 〇「第3回未来まちづくりフォーラム」の詳細は、以下からご覧ください。 https://www.sustainablebrands.jp/event/sb2021/special-miramachi.html
「未来まちづくりフォーラム」やその前身の「まちてん」で講演する筆者
官民連携で取り組む未来のまちづくり
――SDGsの推進では、関係者の連携が重要になりますね。
笹谷 本書の帯に、「官民連携で取り組む未来のまちづくり」とある通り、SDGsの取組みにあたっては、官民連携を相当意識することが必要です。官だけではできない、民だけでもできないという複雑な課題が増えています。また、「地方で稼ぐ」とか、「地方でお金が回る仕組みをつくる」などと、よく言われるようになりました。民間企業が地域課題に取り組み、そのビジネスがうまく回って収益が上がり、税収につながって、雇用も生まれ、まちも人も良くなる。地方創生の現場ではこのような自律的好循環が重要です。それを招く必須要因が、経済・社会・環境の統合性を大事にしたSDGsなのです。
「社会や環境にいいね」といっても、それに経済性が加味されなければ続きません。第2巻では、「第2回未来まちづくりフォーラム」の実行委員を務めた、エコッツェリア協会・田口真司氏、NTTドコモ・山本圭一氏、エプソン販売・高橋俊介氏、PwCコンサルティング・下條美智子氏などの責任者の生の声を座談会形式で掲載しています。特にPwCコンサルティングの持つ分析力や体系構築力は印象的です。民間の優れた取組みに触れることができますので、ぜひお読みください。
産官学金労言による プラットフォームの活性化を
――最後に、自治体関係者、地方創生ビジネスを志向する企業、まちづくり関係者に向けて、メッセージをお願いします。
笹谷 官民連携、関係者連携については、SDGs17番目の目標「パートナーシップで目標を達成しよう」に掲げられています。パートナーシップを図るために重要なのは、①立場の違いを乗り越えた互尊互敬、②柔軟な思考力、③開かれた雰囲気です。③に関連してオープンな議論をするための場として、活動の共同基盤となるプラットフォームをつくることが重要です。プラットフォームには、従来からの産官学に金融・労働・メディアを加えた産官学金労言、さらにNPO・NGOなどの参画が求められます。
特に地方金融の役割も重要で肥後銀行の笠原慶久頭取と筆者のインタビュー記事は参考になります。大学ではRE100大学である千葉商科大学と地元の市川市との取り組みは先駆的です。関係者の連携に向けて様々な仕組みができ始めているので、積極的に参加してプラットフォームを活性化していきましょう。
SDGsは磁石のようなもので、同じ磁石を持っていると互いに吸い寄せられます。特に自治体においては、SDGs未来都市に選定されると、SDGs経営を推進する企業がどんどん集まって仲間づくりがしやすくなります。好循環が生まれ、パートナーシップに効果が期待できるでしょう。本書では、トヨタ自動車、セイコーエプソン、大成建設、モスフードサービス、伊藤園、肥後銀行などSDGs先進企業の最新の動きをご紹介していますので、参考にしてください。
まずは第1巻でSDGsの基本を学びましょう。続く第2巻で解説した実践的なメソッドは、自治体関係者のみならず企業がどのように参画するかのヒント集になっています。第3巻の事例は、まさにプラットフォームの分析に焦点を当てています。SDGsは、自治体、企業、関係団体、大学、メディアをはじめ、すべての人の「新常識」となりました。3部作を通じてお伝えした内容をうまく活用いただきながら、SDGsの実践に取り組んでほしいですね。
●執筆者Profile
笹谷 秀光(ささや・ひでみつ)千葉商科大学基盤教育機構・教授
1976年東京大学法学部卒業。 77年農林省(現農林水産省)入省。 中山間地域活性化推進室長等を歴任、2005年環境省大臣官房審議官、06年農林水産省大臣官房審議官、07年関東森林管理局長を経て08年退官。同年(株)伊藤園入社。取締役、常務執行役員を経て19年4月退職。2020年4月より千葉商科大学基盤教育機構・教授。博士(政策研究)。現在、社会情報大学院大学客員教授、(株)日経BPコンサルティング・シニアコンサルタント、PwC Japanグループ顧問、グレートワークス(株)顧問。日本経営倫理学会理事、グローバルビジネス学会理事、NPO法人サステナビリティ日本フォーラム理事、宮崎県小林市「こばやしPR大使」、未来まちづくりフォーラム2019・2020・2021実行委員長。著書に、『Q&A SDGs経営』(日本経済新聞出版)ほか。企業や自治体等でSDGsに関するコンサルタント、アドバイザー、講演・研修講師として幅広く活躍中。
■著者公式サイト─発信型三方良し─
https://csrsdg.com/
■「SDGs」レポート(Facebookページ)
https://www.facebook.com/sasaya.machiten/