3ステップで学ぶ 自治体SDGs
「3ステップで学ぶ自治体SDGs」発刊記念 著者インタビュー 笹谷秀光氏に聞く! 自治体SDGsのポイント Vol.2
地方自治
2021.01.18
自治体が企業等と連携してSDGsにどのように取り組んでいけばよいのかについて、「基礎」「実践」「事例」の3ステップでわかりやすく解説した全3巻の書籍『3ステップで学ぶ 自治体SDGs』((株)ぎょうせい刊)。自治体職員、自治体と連携して地方創生SDGsビジネスの展開を目指す民間企業の方々に手軽にお読みいただける実践書です 。
発刊を記念して、著者の笹谷秀光・千葉商科大学基盤教育機構・教授へのインタビューを3回にわたって掲載します。第2回目は、本書の執筆動機、各巻の特徴について、聞きました。
(書籍の詳細はコチラ)
抽象論ではなく現場で役立つ「基本」「実践」「事例」の3ステップ
――本書の執筆動機を教えてください。
笹谷 SDGsに関する書籍はたくさんありますが、抽象論ではなく現場で役立つものが必要だと思いました。SDGsの全容を正しく理解することは案外難しく、特に、どうすれば実践につながるのかという視点で基本を押さえておかないと迷路に入り込んでしまうからです。それから、SDGsの推進にあたっては、組織内でコンセンサスを形成し、浸透させるのがとても難しい。トップ、推進担当部署、現場の各部署の間で認識に差がある場合も多く見られます。そこで、私が実際に伊藤園での役員としての実践経験や企業などのコンサルテーションで培ってきた経験を活かして、実践の早道を示したいと考えたのです。
もうひとつSDGsの実践で重要なのは、関係者の連携です。特に本書の場合は、自治体と企業、そして市民間の関係者連携のコツを解説しました。冒頭でお話ししたように、私は産官学を渡り歩いてきたので、それぞれの強みや課題がわかります。特に、企業と自治体の橋渡し役ができないかとの思いで、「基本」「実践」「事例」の3ステップで本書を執筆しました。
第一歩を踏み出すためのQ&A
――第1巻『STEP① 基本がわかるQ&A』の特徴は?
笹谷 SDGsは17の目標、169のターゲット、232のインディケーターという3つの体系から成り立っていますが、特徴のひとつとして、自主的な取組みであることが挙げられます。やってもやらなくてもよいとなると、「もう少し周りの様子を見てからにしよう」と後回しになってしまい、SDGsスルーを招きかねません。第1巻では、「すぐに取り組まなくてはいけない」と気づいてもらえるようなSDGsの基本を理解するための約30のQ&Aを整理しました。
最近のデータによれば、経営層(自治体で言えば首長)と若者はSDGsに対する意識が高い人が増えていることがうかがえます。問題なのは日々の仕事に追われて意識が追いつかない中間層です。そこで、第一歩を踏み出してもらうために、SDGsの17の目標をはじめ、「17の目標は自治体の仕事とどう関わるの?」「導入しないデメリットは?」「地方の稼ぐ力をどうつけるのか?」など、自治体の幹部会議に出るようなクラスの人が意識統一できるように質問項目を設定しました。
ローカライズで SDGsを自分事化する
――第2巻『STEP② 実践に役立つメソッド』で伝えたかったことは?
笹谷 現時点のSDGsは、そろそろ勉強段階は終わりにして、まずはやってみましょう!という段階です。皆さんのメガネを“SDGsメガネ”にかけかえてください。そうすると、だんだん“SDGs頭”になって、“SDGs思考”が身につきます。自治体のSDGsについては、村上周三・一般財団法人建築環境・省エネルギー機構理事長が中心となってまとめた「私たちのまちにとってのSDGs」というガイドラインが大いに参考になります。そこで示された5つのステップ(①SDGsの理解、②取組体制、③目標と指標、④アクションプログラム、⑤フォローアップ)を私なりに解読してわかりやすく解説しました。
自治体の皆さんにとって特に難しいのは、ステップ3の「目標と指標」で優先事項を選定することではないでしょうか。SDGsの17の目標を見ると、「いいことだよね」と理解できます。しかし、その先にある169のターゲットを部署ごとの業務に落とし込んでいくのがすごく大変です。服にたとえると、SDGsは世界共通でつくった既成の洋服。それを自分の体(自治体)に合うように、丈を長くしたり、生地を変えるなど、仕立て直していかなければなりません。これをローカライズと言います。さらにSDGsには足りないものもあります。例えば、日本固有のおもてなしや“もったいない”精神など文化価値の高いものが我が国には数多くある。これらは新たな目標として自主的につくっていきましょう。SDGsは日本の良いところを見える化するツールとして使えます。
17目標、169ターゲット、232インディケーターは言わば規定演技のようなもの。それに当てはめるだけでなく、各自治体でどこを光らせたいのか、自由演技が求められます。お仕着せのものではなく、いかにSDGsを自分事化していくかが第2巻の重要な要素です。政府では自治体がSDGsのプログラムをつくるための相談体制を整えていますので活用するとよいでしょう。
キュレーターの視点で 事例をわかりやすく分析
――第3巻『STEP③ 事例で見るまちづくり』では、自治体を中心とした先進事例が多数紹介されていますね。
笹谷 先進事例を見るとき、問題意識がないままでは本質をつかめません。そこで私は「キュレーター」(=学芸員)としての解説を心がけました。キュレーターは、美術館で絵画のできた背景なども含めて紹介し、鑑賞者の理解を深める役割です。事例の見方に関するキュレーションを加えてコンパクトにまとめ、実際にすぐやってみようという意識につながるような事例分析をしています。
「SDGs未来都市」を中心に、①しごとづくり、②ひとづくり、③まちづくりの3つのカテゴリーに分けて事例を解説しています。内閣府が所管する「SDGs未来都市制度」は、自治体によるSDGsの優れた取組みを選定するもので、2018年に創設されました。現在、94自治体が選定されています。特に先導的な事業は「自治体SDGsモデル事業」として選定され、上限3,000万円の補助金が支給されます。2030年に向けてすでに変革のプロセスに入っている先進自治体を参考にして、ぜひ皆さんの自治体でも積極的に「SDGs未来都市」を目指してほしいですね。
未来まちづくり関連の最新の政策として、「スーパーシティ構想」も紹介しています。2020年6月、いわゆる「スーパーシティ構想」と呼ばれる、国家戦略特別区域法の一部を改正する法律が成立しました。この構想は、SDGsの実現にも貢献するので、ロゴマークにはSDGsのロゴも入っています。「J-Tech challenges SDGs」がキャッチフレーズで、規制緩和と最新技術をシンクロさせて、「まるごと未来都市」の実現を目指すものです。「スーパーシティ構想」はSDGsへの理解なしには進めることができないでしょう。今後の日本のSociety5.0や地方創生SDGsに大きな影響を与える「スーパーシティ構想」に注目してください。
政府のスーパーシティのロゴ
●執筆者Profile
笹谷 秀光(ささや・ひでみつ) 千葉商科大学基盤教育機構・教授
1976年東京大学法学部卒業。 77年農林省(現農林水産省)入省。 中山間地域活性化推進室長等を歴任、2005年環境省大臣官房審議官、06年農林水産省大臣官房審議官、07年関東森林管理局長を経て08年退官。同年(株)伊藤園入社。取締役、常務執行役員を経て19年4月退職。2020年4月より千葉商科大学基盤教育機構・教授。博士(政策研究)。現在、社会情報大学院大学客員教授、(株)日経BPコンサルティング・シニアコンサルタント、PwC Japanグループ顧問、グレートワークス(株)顧問。日本経営倫理学会理事、グローバルビジネス学会理事、NPO法人サステナビリティ日本フォーラム理事、宮崎県小林市「こばやしPR大使」、未来まちづくりフォーラム2019・2020・2021実行委員長。著書に、『Q&A SDGs経営』(日本経済新聞出版)ほか。企業や自治体等でSDGsに関するコンサルタント、アドバイザー、講演・研修講師として幅広く活躍中。
■著者公式サイト─発信型三方良し─
https://csrsdg.com/
■「SDGs」レポート(Facebookページ)
https://www.facebook.com/sasaya.machiten/