情報化に関するトピックを分かりやすく説明!よく分かる情報化解説 第69回 DX推進のための組織と人材(その1)

地方自治

2021.01.19

 この記事は、地方公共団体情報システム機構発行「月刊J-LIS」令和2年12月号に掲載された記事を使用しております。
 なお、使用に当たっては、地方公共団体情報システム機構の承諾のもと掲載しております。

連載 情報化に関するトピックを分かりやすく説明!
よく分かる情報化解説
第69回 DX推進のための組織と人材(その1)

(月刊「J-LIS」2020年12月号)

解説:元横須賀市副市長 HIRO研究所 廣川 聡美

学ぶべきPOINT
DX推進にどのような組織体が必要となるのか、情報部門、他部門との連携による推進チームの編成を考えます。

1 はじめに

 自治体DX、デジタル・ガバメントの推進は、手続きのオンライン化等の個別の政策に止まらず、行政サービス全体の品質やプロセス、効率性の見直しをはじめ、データの利活用、職員の働き方など、自治体行政全般に関わる政策です。広範囲に及ぶこと、既存の仕事の進め方を根本から変革することが必要となるため、相当に骨の折れる仕事になること等を考えると、その推進に当たっては、情報部門だけではなく、改革の対象業務の所管部門、行革、財政、人事など関連部門が協働する部局横断的な推進体制を確立することが不可欠です。本稿では、どういう組織体制で、どういう人材が必要となるのか、考えてみたいと思います。

2 改革推進チームの必要性

 自治体DXは、ICTを活用するという点から、情報部門が主な担当とみなされますが、情報部門だけで改革を主導するのは難しいものがあります。

 その理由は、1つには、どこか特定の部局だけが関わるのではなく、濃淡や順番はありますが、自治体の全ての部局に関わる政策であり、取り組まなければならない改革であることです。それぞれの部局が当事者意識を持って、自分たちが中心となって改革を進めるようにしないと、実のあるものとはなりません。

 もう1つの理由は、既存の情報部門は、自治体組織全体のマネジメントに関わるポジションにはないという点です。情報部門の実情は、人的リソースが不足している中でルーチン業務に忙殺され、仕事の重要性が正当に評価されていないこともあるでしょう。しかし、デジタル技術を活用する仕事であることを考えれば、情報部門が大きく関与する必要があることは明らかです。そこで必要なことは、情報部門の役割を再定義し、分担を明確化するとともに、関係部門とのコラボ体制を目に見える形で設置することです。具体的には、次節以降に述べます。

3 CIOの設置

 市区町村では、約86%の1,494団体がCIOを設置しており、その約8割は首長、副首長が兼務している状況です(総務省「地方自治情報管理概要」令和元年度)。重要な政策を、速やかに進めるためには、リーダーが号令をかけることは大事なことですので、未設置であれば、設置していただくことをお勧めします。兼務であれば、お金はかかりません。

 しかし、CIOは、設置していればよいのかというと、そうではありません。大事なことは、CIOが、その役割を理解し、CIOとして発言、行動してくれることです。CIOの役割は、デジタル改革の意義、重要性を職員に説き、推進方法を示し、必要なリソース(予算や人など)の手当てに尽力し、実施に際しては陣頭指揮を執ることです。リーダーが熱く語り、自ら先頭に立つ。その姿を目の当たりにすることによって、職員は真剣に受け止め、自らのこととして取り組みを進めるのです。これまでの「情報化」のフェーズから「デジタル改革」のフェーズに切り替わり、部分的な情報化ではなく、組織全体のデジタル改革が求められる中で、経営層のリーダーシップが強く求められていることは、申し上げるまでもありません。さらに、トップダウンの指示とボトムアップの動きが、うまく噛み合うことも不可欠です。改革に抵抗する、あるいは指示をスルーする勢力も存在するかと思いますが、彼らを正しい方向に導くためには、力技も必要なのです。

 そこで、重要なのがCIOの補佐をする職員(チーム)の存在です。首長や副首長の仕事の範囲は広く、特にこの分野だけに深く関わるというわけにもいきません。多忙なCIOに手際良くレクチャーを行い、発言や指示案の意図、内容、効果を説明し、理解してもらうことがその役割の1つで、実質的な推進役(チーム)ということができます。現在、その任に当たっているのは情報部門(の管理職)が多いと思いますが、DX推進に当たり、その役割を見直してみる必要があるのではないでしょうか。すなわちCIOの発言や指示の内容をこれまで以上に具体的で詳細なものにすること、そのタイミングや順序を戦略的にプログラムすること、各部門の取り組み状況の報告を求めること等を助言する役割を付加することなどです。

 CDO(Chief Digital Officer)を設置した自治体も出てきました。CDOとは、最高デジタル責任者のことで(CDOには、最高データ責任者の意味もあります)、設置の趣旨・目的はCIOと同様と思いますが、組織内外に対するメッセージ性をより強く示したということではないでしょうか。ネーミングはどうあれ、組織としてのガバナンスを働かせるためには、CIO、CDO及びこれを補佐するチームがしっかりと機能することが必要です。あらためて現状を見直してみることをお勧めします。

4 改革推進チームの編成

 改革推進チームは、担当組織(部署)と、庁内の関係部門職員(情報、行革、財政、人事など関連部門)で構成されるプロジェクトチーム(政策チーム)、及びワーキンググループ(作業チーム)で構成します。それぞれの役割を次に述べます。

(1)担当組織(部署)の設置

 予算管理や議会説明などの面からも、担当組織(課・室をイメージ)を決める必要があります。いずれにしても情報部門が関わることになりますが、できれば、既存の情報システム部門とは別組織として立ち上げるのが望ましいと思います。その理由は、仕事の内容・役割が異なるからです。

 具体的には、既存の情報部門の組織を次の3つの役割に分離拡張します。1番目は、情報基盤やネットワークを支える役割で、これは既存の情報システム部門の役割を受け継ぐ組織です。2番目は、オンライン化や作業の自動化等を進める役割の組織です。これは、事業原課と協力してDX推進に取り組むもので、既存の役割の延長もしくは拡大版と言えるでしょう。3番目は、自治体組織全体が新しいサービスを提供したり、課題の解決やビジョンの実現を図ったりすることを企画・推進する仕事です。この組織のメンバーには、情報部門だけではなく、改革の対象業務の所管部門、行革、財政、人事など関連部門の経験者を配置することが望ましいと考えます。

 3つのうち、2番目と3番目の役割を担う組織が、自治体DXの担当組織ということになります。政策面を担うのが3番目、実務面が2番目の組織です。限られた職員数の中で新しい組織を設置するのは難しい状況であると思いますが、既存職員数の中で工夫してやりくりすること等を検討してみることをお勧めします。なお、担当組織には、分かりやすいアピールする名称を付け、役割分担(事務分掌)を明確化するとともに、機動力のある職員を配置します。分かりやすい名称は、取り組み姿勢(本気度)を内外に示す効果があります。

(2)プロジェクトチーム(PT)の設置

 自治体DXを組織全体で進めるためには、前節の担当組織の他に、企画、財政、行革、人事、総務、産業振興、情報部門等との密接な連携が必要となります。先行してパイロット事業等を実施する場合には、その事業を担当する原課にも参加してもらいます。PT設置の理由は、既存の業務プロセスを根本的に見直す必要があるためであることは、言うまでもありません。そのためには、これらの部門に、一歩踏み込んで、積極的に協力してもらうことが不可欠です。故に、PTのメンバーとして参加してもらうのです。既存の規則や慣行と、どう整合を取るかではなく、規則や慣行をどのように見直すか、あるいは柔軟に解釈するかという視点に立った取り組みが必要なのです。そのためには、仲間に引き入れることが一番です。どうしたら可能になるか衆知を集めること、共に知恵を絞ること、メンバーが持つスキルやネットワークを活用することがPTに期待することです。なお、PTは、正式な設置以前に、自然発生的な勉強会として立ち上げることが可能です。意欲ある若手の管理監督職が自主的に集まって、自治体DXやスマート自治体、デジタル・ガバメントについて学び、我がまちをどうするか議論を始めておくことで、リードタイムを短くすることができます。そのような取り組みが、組織全体の機運を盛り上げるきっかけとなるのではないでしょうか。

(3)ワーキンググループ(WG)の設置

 上記PTに加えて、若手職員による全庁的WGを編成することをお勧めします。WGの役割は、業務プロセスの見える化や見直しをはじめ、特定の課題解決など改革の作業をパイロット的に進め、ノウハウやスキルを身に付け、改革本番に役立てるとともに、全庁職員に伝えてもらうことです。改革は一度で終わりではなく、永続的かつ日常的に、当たり前のように実施する必要があり、そのためには職員が職員を育てる循環の輪を形成していく必要があります。また、このようなWGの仕事を通じて培った能力とネットワークは、他の困難な仕事においても必ず役に立つと思います。WGのメンバーは、所属にはあまりこだわらず、元気が良い、熱心な職員を選ぶと良いと思います。なお、WGメンバーは、所属の原課の期待も大きく、様々な仕事を任されていると思います。WGの活動が加わることにより、気持ちの上でキャパを超えることにならないように、十分な配慮をするとともに、原課の仕事よりもWGの仕事を優先せざるを得ない場面も想定して、併任辞令を発令するなどの配慮をする必要があります。

5 全庁推進体制の確立

(1)推進本部会議等の設置

 デジタル改革は、どこか特定の部局だけが関わる政策ではなく、順序や濃淡はありますが、自治体の全ての部局に関わる政策であり、取り組まなければならない改革です。住民と直接に接するサービスフロント部門だけでなく、間接部門も例外ではありません。組織全体としての生産性を高めることが求められているのです。

 そのためには、これまで述べてきたCIOの設置、改革推進チームの編成などと併せ、全部局が参加する推進体制を確立することが必要です。と言っても、新たな組織を設けるということではなく、部長会議などの幹部会議を、「デジタル改革推進本部」などの形で位置付けることで対応できます。会議の回数を増やすことなく、幹部会議の終了後に、少し時間をもらって、DXやデジタル・ガバメントの意義、国の政策動向や計画、取り組み方法等を説明することから始めます。まず、部局のリーダーに当事者意識を持ってもらうことが大事です。

 推進本部の役割は、3つです。1番目は、理解形成と機運の醸成、2番目は、基本方針や計画等の審議・決定、3番目は、推進情報、課題及び解決策(案)の報告・承認です。CIOを座長とし、座長から、組織を挙げて推進する必要があること等を発言してもらいます。この時、座長には、用意した原稿を読み上げるのではなく、できる限り自分の言葉で発信してもらえるように、しっかりと事前レクチャーをしましょう。発言してもらう内容は、誰にでも分かりやすい内容とすることも大事です。専門用語は極力使わないこととします。人間は、よく分からないことには積極的にはなれません。逆に、十分に理解できれば自信となり、やがて人に教えたくなるものです。時間がかかるかもしれませんが、理解者を増やす努力を続けましょう。

 興味を持つ幹部には、ウェブ会議の使い方、動画の作り方や送り方、チャットの使い方などを覚えてもらう機会を設けると良いのではないでしょうか。これらのツールは、世代を超えたコミュニケーションツールとして、幹部の皆さんが、業務に加えて個人的にも役立ててもらうことができれば、デジタル技術を我がコトと捉えてくれるのではないでしょうか。

(2)DX推進担当職員の設置

 各課に、DX推進担当職員を選任、配置します。これまでも、情報化推進担当者などの名称で、同様に配置を行ってきた自治体もあろうかと思いますが、目前のデジタル改革は、前述のように、自治体の業務、サービス、働き方など全般にわたるものですので、この機会にあらためて選任し直すとともに説明会や研修を開催して、理解を深める必要があります。

 DX推進担当者には、まずは改革の機運醸成の動きの、原課側のハブとなってもらうとともに、その課の所管事業が改革対象となった場合には、WGメンバーとして参加してもらうことになります。DXの現場への参加を通じて、ノウハウとスキル、そしてマインドを受け継いでもらい、それがやがては全職員に広がることを期待しています。繰り返しになりますが、改革は永く続きます。改革のDNAを、組織全体に、しっかりと行き渡らせることが大切です。そのための組織づくりと、人づくりに取り組んでいきましょう。次回は、職員の人材育成について考えてみたいと思います。

 

この記事の続きはJ-LIS1月号に掲載しています。 

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