【ICT】自治体職員のためのデジタル技術の基礎知識―自治体のデジタル・トランスフォーメーション(月刊J-LIS2020年9月号より)

キャリア

2020.10.08

●自治体職員のためのデジタル技術の基礎知識(連載)―自治体のデジタル・トランスフォーメーション
 狩野英司(一般社団法人行政情報システム研究所主席研究員)

月刊「J-LIS」2020年9月号

※この記事は、地方公共団体情報システム機構発行「月刊J-LIS」2020年9月号に掲載された記事を使用しております。なお、使用に当たっては、地方公共団体情報システム機構の承諾のもと掲載しております。

行政にとってのDXとは何か

 最近、行政のデジタル・トランスフォーメーション(デジタル変革。以下「DX」)に向けた取り組みが様々な自治体で展開されるようになりました。自治体のDXとは何かについては後述しますが、一言でいえば、「デジタル技術を活用して行政サービスを変革すること」です。

 DXという言葉は、現在、非常に幅広い意味で用いられていますが、もともとこの言葉を最初に提言したスイスのウメオ大学ストルターマン教授は、2004 年に発表した論文(1の中で、DXを「デジタル技術が人間の生活のあらゆる面に引き起こす/影響を及ぼす変化」と表現していました。

 このときは、「デジタル技術が」もたらす変化を意味していました。しかし、その後、DXは、「組織が」デジタル技術を駆使してもたらす変革の意味で使われるようになりました。日本でこうした意味付けを、そしてDXという言葉自体を世の中に普及・定着させたのは経済産業省のいわゆる「DXレポート」です。政府のIT戦略(2もこの流れをひいており、DXを「将来の成長、競争力強化のために、術を活用して新たなビジネスモデルを創出・柔軟に改変すること」としています。これらは企業を念頭に置いた定義です。

 一方で、公共分野については、世界的にはやや異なる定義付けが与えられています。国際的なIT調査会社のガートナー社は、「この用語(DX)は、公共部門の組織では、サービスのオンライン化やレガシー刷新といった控えめな取り組みを指すのにも広く使われる」としています。DX推進組織の草分け的存在である豪州のデジタル・トランスフォーメーション庁は、自らを「政府によるデジタルサービスの簡素化・明確化・迅速化のための改善を支援する」組織と位置付け、「人々の政府サービス体験を改善することに努めている」と説明しています。

 行政にはそもそも「ビジネスモデル」という概念がほとんどありません。行政にとってのビジネスとはすなわち、税金を原資として行う行政サービスに他なりません。したがって、行政サービスの変革こそが行政にとってのDXといえるのです。

DXの目的・位置づけ

 しかし、一口に「行政サービスの変革」といっても、捉え方は無数にあります。実際に、自治体によってDXの捉え方は大きく異なっています。表-1は、DXに関するミッションステートメントを公表している自治体での位置付けの例です。地域の活性化に力点を置くもの、行政リソースの再配置や効果の最大化に力点を置くもの、住民福祉に力点を置くものなど、様々です。

 重要なことはデジタル化そのものではなく、デジタル技術を活用して何を実現するかです。例えば、人口流入で待機児童が問題となっている自治体と、過疎化で人口流出が止まらない自治体では、取り組むべき課題も施策もまったく異なります。それぞれの課題に対し、自治体が新たに手にしたデジタル技術という武器を使って、何と戦うかが問われてくるということです。このときの課題設定において忘れてはならないのは、次の2つの視点です。

①住民サービスの視点
 行政組織はどうしても内向きの業務効率化に目が向かいがちですが、そこだけに捉われると、住民サービスの視点が欠落しがちとなるうえ、発想も狭まり、真の業務改革を阻害することにもなりかねません。行政サービスの在り方を追求した結果、そもそも業務自体を廃止すべきであることが明らかになることもあります。

②全体最適の視点
 行政サービスの変革は、現場のニーズに立脚する必要がありますが、単に個々の住民のニーズに応えているだけでは不十分です。いかに標準化や共通化、部品化、構造化などの全体の視点に立ってデジタル技術の活用をデザインし、全体最適を確保していくかが重要となります。情報システムの設計思想を持つということです。

DX推進の組織化

 このように、DXは組織全体として、住民サービスの視点と全体最適の視点を踏まえながら、地域ごとの課題に応じて方向性を定め、実際の施策へと体系的に落とし込んでいかなければなりません。そのためには、部門横断的な組織づくりがどうしても必要になってきます。DXを推進する自治体では、大抵、表-2のようなDXの横断的推進体制を設置しています。

 さらに、推進体制を作っただけでは、現場は動きません。真のDXは、課題起点、住民起点であるがゆえに、現場の巻き込みが不可欠となります。広く職員一般へとDXの意義を浸透させなければ、アイデアも出てこないし、施策への協力も得られません。それどころか、現場での不信感や反発すら招きかねません。実際、多くの場合、DXを推進しようとすると、組織内の抵抗に直面することになります。こうした障壁を克服するには、組織風土や組織文化を変えていかなければなりません。最近、様々な自治体で、DXを念頭に置いたリテラシー教育が行われるようになっていますが、その背景にはこうした課題認識があります。

DX推進の3つの要件

 以上のように、DXの推進には、自治体を挙げての次の取り組みが必要となります。

 ① 組織リーダーの自覚と覚悟を組織の方針として落とし込んでいくこと
 ② 方針を自治体の施策に落とし込んでいくための横断的な体制を作ること
 ③ 実際の変革に関わる現場の職員のリテラシー向上を図ること

 そして、実際に変革をけん引するのは、現場のリーダーです。はじめの一歩は小さくて構いません。デジタル技術を活用して、何かひとつでも行政サービスを変えてみる。それを発展させたり、他部門に「横展開」させたりするなかで、全体の仕組みを作っていくのが王道であろうと考えます。

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(1)Erik Stolterman, Anna Croon Fors, Information technology and the good life
(2)世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画(2020.7.17 閣議決定)
※ 表-1、表-2 は、「県→市」としたうえで、50 音順に並べている。

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