時事問題の税法学

林仲宣

時事問題の税法学 第45回 電子マネーの功罪

地方自治

2020.02.03

時事問題の税法学 第45回

電子マネーの功罪
『税』2019年7月号

電子マネーの普及率

 情報バラエティ番組のコメンテーターとして、ご贔屓の古市憲寿氏は、時にウケ狙いともとれる暴言で話題になる。日時を失念したが、「電子マネーが使えず小銭が貯まるので、田舎は嫌い」という趣旨の発言をした時には思わず共感した。もちろん、「嫌い」ではなく「貯まる」の方である。

 週末は東海道の宿場町で城下町でもあるふるさとで過ごすが、電子マネーを利用できる店舗や自販機は少ない。新幹線の待合室にあるキヨスクは当然、使えるが、同じ室内にある老舗の弁当屋では利用できない。駅ビル地下にある大手のドラッグストアは、かつて千葉県松戸市長として話題になった創業者の氏名を冠した店舗だが、電子マネーが使用できるレジは限られている。

 もっとも電子マネーが使えなくて嘆くのは地方ばかりではない。神奈川県中央部、2つの私鉄が乗り入れ、駅前には商業施設が林立する人気の街に住む、80歳に手が届く女性から、小銭が貯まって困ると聞かされた。彼女が通うスーパーでは、電子マネーが使えず、キャッシュレスはクレジットカードのみという。確かにそういうスーパーは多い。少額の支払いにわざわざカードを使うのは気が引けるし、ついつい計算が面倒で紙幣を出すから小銭が貯まる。近所のATMは、小銭の預け入れができないので貯まる一方だと笑った。鉄道系電子マネーの普及に恩恵を受けたのは元気な高齢者と思う。切符購入を気にせず、カード1枚で路線を乗り換えて行けるが、これも大都市圏だけの話かもしれない。

電子化のメリット

 高齢者といえば、愛知県名古屋市が市営地下鉄及び市バスが無料となる敬老パスは、驚くことに65歳から交付されるが、敬老パスは、ICカードで、電子マネーにもなる。このICカードは、名古屋圏の鉄道各社により作成された鉄道系電子マーで、地下鉄、市バスは無料であるが、お金をチャージしておけば、全国で使える。65歳から導入した背景には、昨今、問題となっている高齢者ドライバー対策の一環かもしれないが、いくら車社会といっても、徒歩5分の所でも車で往復する名古屋市民は多いから、高齢者対策の効果は薄い。しかもICカードの通勤定期券にお金をチャージして電子マネーとして使用できることを知らない人もいる。電子マネーが使える店舗や自販機が少ないので、当然といえる。

 最近では、テレビでキャシュレス化をうたう電子マネーのCMが流れ始めた。「デジタル報酬広がる」という記事が気になった(日経新聞5月18日夕刊)。働いたその日に報酬を電子マネーで受け取れる。フリーランスの立場で働く人向けにこんなサービスが広がっている。銀行口座に後日、現金が振り込まれるのを待つことなく、すぐに買い物などで使える、という。東京都在住の女性は最近、ベビーシッターとして働いた報酬を電子マネーで受け取った。仲介サイトに登録して働いた後、通常は報酬が翌月に銀行口座に振り込まれる。スマホなどから当日払いの手続きをすると、その月に働いた分の報酬から必要な金額を電子マネーで受け取れる。午前中に働き、すぐ申請すれば夕方にも着金し、電子マネーに対応する電子商取引サイトや店舗での買い物などに使える利点がある。

通貨としての電子マネー

 会社員向けでも経費精算などに使われ始めたことから、今後は、「デジタル給与」を前提に、現金支給が原則とする労働法関係の改正議論も始まるようだ。

 しかし複数の電子マネーが鎬を削る現状を考えると、支払者、受給者、利用先店舗の3者が納得するためには、電子マネーの統一である。通貨と考えれば、政府管掌電子マネーが創設されても不思議ではないが、経済活動の統制という批判も出てくるかもしれない。資金移動や取引の電子化と一元化で、脱税やマネーロンダリング、詐欺犯罪は監視される。防犯カメラとプライバシー侵害の論理でも感じていたが、真っ当な生活をしている者には、家庭内では揉めることはあっても、生活に影響はないといっていいだろうか。

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