時事問題の税法学
時事問題の税法学 第44回 医療費控除の簡素化
地方自治
2020.02.02
時事問題の税法学 第44回
医療費控除の簡素化
(『税』2019年6月号)
医学と税法
極めて個人的な話だが(本連載はいつもそうだというご指摘は否定しない)、4月上旬、眼科の手術で都内の大学病院に、1週間ほど入院した。この病院は、昨年6月、NHKのドキュメンタリー番組で隣接する旧施設から新築移転した模様が放送された。見舞客は異口同音に、「ホテルみたい」といっていた。術後、真っ先に見舞いに来てくれた同級生は、かつてこの病院の旧施設で癌手術を受けていたので、施設の変貌ぶりに驚いたという。
術前術後の診察は、医学生も立ち会い、若い担当医も同席した。担当医は、大学の職制では、助教や助手という立場だろう。この2年間、外来診察では、ソフトな対応の教授と1対1であったため気がつかなかったが、教授の担当医への指示は、まさしく教育という雰囲気だった。担当医も外来診察の前後、早朝から夕方まで勤務体制は、同世代のサラリーマンより高額の収入であるとはいえ、ハードな生活といえる。
医学は、理論と実際が診察・臨床を通じて着実に表裏一体となっているから、実務は重要といえる。税法の分野も理論と実際が重なっているから、大学院で実務経験のある社会人学生や地方公務員研修施設で接する地方税務職員への講義内容にも参考になった。
医療分野でも進むIT化
窓から若者のあこがれの街、渋谷の夜景が広がる病棟でも同様だった。若い看護師たちの接し方も最適で、中年の看護師長の統率ぶりも納得できた。
大学の専任教員時代、他学部教員と同席する会議に参加する機会も多かった。親しくなった看護学部の女性教員は、専門が老年看護学だったことを思い出したが、高齢者への接し方は、老年看護学の実践なのだろう。
今後、AI(人工知能)が医療に及ぼす影響は大きいと指摘されているが、医療の分野では、人的要素は最後まで、残さざるを得ない。もっともこの病院でもIT化は進んでいる。外来診察、入院患者、見舞客もバーコードが付いた診察用紙、リストバンド、入館証で管理されている。スタッフ、患者、見舞客は、エレベーターホールから病室フロアにはバーコードを読み取らせないと入場できない管理システムが導入されていた。
退院直後、日経新聞は、一面トップで、「医療費控除、手続き簡素化21年分から」「マイナンバー活用公的サービスの電子化加速」と報じた(4月17日)。記事によれば、「医療費控除の手続きを全ての人を対象に自動化する。マイナンバーカードの活用による新しいシステムを作り、1年間の医療費を自動計算して税務署に通知する仕組みだ。2021年分の確定申告をメドに始める。確定申告の煩わしさを軽減する効果を実感できるようにして公的サービスの電子化を一段と加速する」という。
政府は2021年3月にマイナンバーカードを健康保険証として利用できるようにし、新システムは保険診療のデータを持つ社会保険診療報酬支払基金と国民健康保険中央会のシステムを政府が運営する「マイナポータル」のシステムとつなぎ、国税庁のシステムとも連携し控除の申告を完全に自動化する、ことになる。医療費の領収書を保存しておく必要もなくなる。
このシステムが導入されると控除対象医療費=保険診療と限定されるから、いままで確定申告の際に混入していた曖昧な領収書も排除されることになるが、通院費用などは加算することになるのだろう。
予防接種と医療費控除
そういえば10連休の初め、成田空港で働いている20代の男性がはしかに感染していたことが報道された。はしかというと子どもの病気というイメージがあり、この歳になると両親に確かめるすべもないが、子どもの頃、罹患した記憶もある。大人には重症となるというから用心が必要という。同様に風疹も妊婦に与える被害が甚大なので、予防接種の縁がない世代には警鐘が鳴らされていた。
昨秋、インフルエンザとともに風疹の予防接種もした。年末年始、妊娠中の教え子たちと会う機会が多かったので、対策を講じた。ただこの費用は医療費控除の対象にはならない。感染症対策としては控除対象としてもいいかもしれない。