【新刊】自治体病院の<現在>に触れる――『人口減少・地域消滅時代の自治体病院経営改革』(城西大学経営学部教授 伊関友伸)
地方自治
2019.12.16
(株)ぎょうせいはこのほど、『人口減少・地域消滅時代の自治体病院経営改革』(城西大学経営学部教授 伊関友伸)を刊行する運びとなりました。本書は公的・公立病院の再生に向けた行政・医療機関・住民の協働をテーマにした書であり、現場に精通した専門家が、税金投入への批判の多い自治体病院について、その存在意義と経営改革のあり方について本質的な議論を試みています。
ここでは、本書の「はじめに」と「第1部 自治体病院の現状/第1章自治体病院とはどのような病院か」の冒頭部分を抜粋してお届けいたします。(編集部)
はじめに
住民の命を守る身近な自治体病院であるが、その経営がどのようになっているのかについては専門的で分かりにくいものになっている。実は、病院職員や首長・議員など自治体関係者も知らないことが多いのが自治体病院の経営でもある。
本書のテーマは「自治体病院の存在意義」である。これは筆者の自治体病院研究のメインテーマでもある。本文でも論述したが、税金が投入されている自治体病院への一部の医療関係者の批判は非常に厳しいものがある。批判に対して反論するには、データに基づく多面的な論考が必要となる。そのため、当初はできるだけ分かりやすい本とするつもりであったが、結果として難しい記述の多い本となってしまった。ただ、少なくとも「自治体病院は税金投入されており非効率だからなくなってしまえ」という批判に対する一定の論述はできたかと考えている。地域において医療を残していくためには、思い込みや感情に基づく議論ではなく、数字や事実を基にした冷静な議論が必要であると考える。筆者は、全国で比較的安いコストで質の高い医療を提供していくために自治体病院の存在は欠かせないと考えている。
本書の構成は3部に分かれている。第1部は自治体病院の現状、特に自治体病院の存在意義について多面的に論述を行った。前著の出版から本書の出版まで時間がかかったため、これまでの著作と見解を異にした部分も多くなった。特に、第3章の「本格的」少子高齢化社会・地域消滅の時代における自治体病院の役割という視点は、これまでの著作にはない考えとなっている。
第2部は自治体病院をめぐる外部環境として厚生労働省や総務省などの病院政策について分析を行った。第6章では、自治体病院の存続に大きな影響を与える可能性のある病院の統合再編の問題について詳しく論述を行っている。自治体病院や公的病院の統合再編の問題は、これからの地域医療における最重要課題の一つであると考えている。
なお、2019年9月26日、厚生労働省の会議において、統合再編などの具体的対応方針の再検証を要請する対象となる424病院の実名が公表され、地方の中小規模の病院を中心に不安が広がっている。このため、新たに緊急コラム「厚生労働省の地域医療構想における再検証要請の実名公表」を追加執筆し、実名公表の問題点を指摘している。
第3部はどうすれば自治体病院の経営は良くなるかについて議論を行った。自治体病院の経営改革のあり方や具体的経営改善策、地域住民や地方議会の果たす役割について論述を行っている。第9章の具体的経営改善策では、付録として全国自治体病院等施設基準届出状況一覧(試作品)を(株)ぎょうせいのWebサイトからダウンロードできるようにしている。役に立つツールであると考えるので活用を期待する(詳細は、本書巻末を参照)。
本書は、筆者にとって2014年に出版した『自治体病院の歴史─住民医療の歩みとこれから』以来5年ぶりの本となる。論文自体は編集委員を務める医学書院『病院』での論文や全国市長会の機関誌『市政』のコラム、そのほか様々な媒体の依頼論文の執筆など、ずっと文章を書いてきた。しかし、仕事に追われ、まとまって本を執筆する時間が取れず、出版が先送りになってしまった。さらに、最近では地域医療構想や新しい専門医制度、医師の働き方改革など、わが国の医療のあり方を大きく変える制度変更があり、正直、制度を追いかけるのに精一杯であった。筆者の置かれた研究環境は、研究をサポートする研究員も学生もいないため、データの収集、分析、論文執筆については、基本全て一人で行っている。気をつかわないでよい反面、データの確認や論文執筆には時間がかかる。自分に課せられた試練として、目の前のできることに精一杯取り組んできた。記述の誤りについては全て筆者の能力の不足である。
本書を通じて自治体病院の経営についての関係者の理解が進み、これから一層の危機に直面することが確実な地域医療の再生に貢献できれば幸いと考える。
2019年11月
城西大学経営学部教授 伊関 友伸(いせき ともとし)
自治体病院とはどのような病院か
第1部 自治体病院の現状 / 第1章 自治体病院とはどのような病院か
1)自治体病院とは
私たちは、日ごろ何気なく「自治体病院」「公立病院」という言葉を使っているが、自治体病院とはどのような病院なのか。わが国において、地方自治体によって開設されている病院は自治体病院と呼ばれている。公立の病院として「公立病院」と呼ぶ場合も多い。地方自治法第244条は、住民の福祉を増進する目的で「公の施設」を設置することができることを規定している。住民の健康を守るための「公の施設」として設置されたのが、自治体病院といえる。筆者は、地域の住民の健康を守る、地方自治にとって重要な役割を果たす行政施設として「自治体(立)病院」と呼んでいる。
自治体病院は、都道府県・市区町村単独の行政機関として開設される病院が多いが、複数の地方自治体が「一部事務組合」という組織を設立して病院の運営を行う場合や2003年に制定された「地方独立行政法人法」により、独立した法人として運営される病院も存在する。図表1−1は、厚生労働省の2016年10月現在の設置主体別の病院数と病床数の一覧である。医療法において「病院」は、20床以上の病床を持つ医療機関で、19床以下は「有床診療所」となる。そもそも、わが国の医療機関の特徴として、様々な経営形態の組織が病院を経営していることがある。自治体病院は、全病院数の11%(931施設)、病床数の14.4%(224,813床)を占めている。
(本書 第1部 第1章 第2節以降に続く)