時事問題の税法学 第22回 税務行政の将来像

NEW地方自治

2019.07.26

時事問題の税法学 第22回

税務行政の将来像
『月刊 税』2017年8月号

税務行政のスマート化

 国税庁は、6月23日、「税務政行の将来像ースマート化を目指してー」という文書を公表した(国税庁HP)。具体的には、①税務手続を抜本的にデジタル化することにより、納税者が税務署に出向かなくても、申告等の手続が簡便に完了する環境が構築され、税務行政の効率的な運営にもつながる、②税務署の内部事務や行政指導事務の集中処理などの業務改革(BPR)を推進することにより、事務運営の最適化を進め、こうした取組により創出したマンパワーも活用しつつ、国際的租税回避への対応、富裕層に対する適正課税の確保、大口・悪質事案への対応などの重点課題に的確に取り組み、適正・公平な課税・徴収の実現を図ることで税務行政のスマート化を目指すものであり、それにより、納税者の信頼の確保に努める、というものである。これはおおむね10年後のイメージを示したものとなっている。

 地方税務行政との関係では、①地方税当局で作成された所得税申告等のデータ引受、②申告情報等の地方税当局へのデータ引継、③地方税当局からの扶養是正データ等の引受、の連携・協調が示されている。

 この国税庁の文書に関する新聞報道では、人工知能(AI)の導入が注目されている(日経新聞6月24日)。AIを使い、納税者がインターネットのチャットで相談できるようにしたり、相談内容を分析し、適切な回答を自動表示できるようなシステム開発などを検討する。また税務調査の分野でもAIの活用を目指すという。過去の納税状況などの情報を分析して、調査の必要度が高い企業や個人をAIが判定する。調査先の最終的な選定はベテラン職員の勘に頼る側面も大きいのが実情であるが、こうしたノウハウをAIに学習させることなども検討していくという。

 直接、間接に得た実例に基づく知識と公開公表されている膨大な事例に関する情報を検索し、比較衡量して結論を導く作業は人間には限界があるが、AIには可能であろう。医療の分野は最適といわれてきた。確かに検査数値や症状に対して、限られた医師の症例経験に加えて膨大な症例記録を照合し、疾病の種類とその治療法を医師に提示するシステムが実現されれば、誤診が減るだろう。

 そう考えると税務相談もAIに相応しい業務といえよう。しかし税務手続に関しては問題ないが、法令解釈、とくにグレーゾーンについては、課税強化の回答が頻出する公算が大きい。

AIによる税務相談

 現状では、①法令の対象条文と立法趣旨、②法令解釈に関する課税側の見解(国税庁長官通達・国税庁質疑応答事例など通達の内容解説)、③識者の見解、④判例・国税不服審判所裁決事例、⑤判例・裁決事例の解説・評釈、などを総合的に検討することになる。当然、AIにはこれらの情報がベースとなり、事実関係に従いAIが判定することになるだろう。

 しかし留意すべきは、これらの情報は、いわば「課税ありき」が前提として整備された内容である。もちろん判例・裁決事例では、納税者の主張も斟酌されるが、いわゆる納税者の勝訴率は極めて低い、つまり納税者の主張はほとんど容認されない現実がある。そうなると税務相談ではAIの判定が尊重され、個別事情が加味されない結論が出る可能性が高い。

 しかしAIの回答が精緻なものとされるなら、裁判官や審判官もAIの判定をもとに判断したり、納税者もAIの判断に従うことで不服審判や訴訟を断念するような時代が来るかもしれない。

 10年後の税務行政が変貌するならば、それは地方税務行政にも連動することはいうまでもない。見方を変えれば、賦課課税である地方税の分野では、AIによる税務相談は納税者には理解しやすい回答が出てくるような気がする。ただ地方税は、国税のように全国一律に適用されるものではない。地方税のAIは、前述の国税情報と同レベルの情報(国税庁を総務省に置き換えるが)に加えて全国の各自治体の税務行政についての情報が網羅され、比較検討された結果が示されるようなシステムが必要である。

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