時事問題の税法学

林仲宣

時事問題の税法学 第43回 節税保険

NEW地方自治

2020.02.01

時事問題の税法学 第43回

節税保険
『税』2019年5月号

生命保険の意義

 ほぼ同世代といってもいい竹内まりやのバラード、「人生の扉」に、「満開の桜……をこの先いったい何度見ることになるだろう」という歌詞がある。彼女が51歳の時の作品だそうだが、この春、東京の桜の開花のとき、卒然と心臓疾患で逝った教え子の男性は51歳だった。4年前にも、彼と同級の男性と永訣の悲しみを味わった。厄年ではないが、男の50歳も節目の年齢かもしれない。

 もっとも毎朝、スポーツクラブのロッカールームで行き会う80歳前後のお年寄り達にいわせると、70歳の壁があるという。ただ50歳と70歳では、家族に対する、いわゆる生活責任の重さに大きな違いがある。働き盛りで逝ってしまうと、遺族の生活保障は重大な問題となる。「保険のおばちゃん」のセールストークではないが、やはり生命保険の意義は大きい。年末調整の際に多数の生命保険の控除証明書が添付されているのを見かけるが、これは保障よりも貯蓄を考慮した生命保険の人気が根強いことを物語っている。これもテレビCMの受け売りであるが、個人の場合にはライフサイクルに応じた保険の見直しは必要だろう。

バレンタインショック

 各地で桜満開が報じられた頃、「保険のおばちゃん」が、「業界ではバレンタインショック」といっていると嘆いた。パンフレットも大量に廃棄し、現在、販売できる保険商品はないといいきった。国税庁が、節税保険と揶揄される法人向け生命保険について、保険各社の是正を求めた結果だ。

 この節税保険とは、法人の経営者を対象とする生命保険であり、支払った保険料全額が損金の額に算入でき、課税所得を削減できるという保険契約を指す。当該事業年度に保険契約ができれば損金算入ができるので、決算処理により課税所得が明らかになった時期でも間に合う。

 国税庁の狙いは、一般に「一定期間災害保障重視型定期保険」といわれる保険商品だった。経営者が災害により死亡や高度障害状態に対して保障する内容のもので、経営者に万一のことがあった場合に、死亡保険金等を事業存続のための事業資金として活用することが可能となる。

 ただ、災害等に巻き込まれて、死亡や高度障害に陥った中小企業の経営者が増えているはずもない。この種の経営者保険は、トラブル対策を目的とするのではなく、途中解約を前提とする保険契約であり、高額な返戻金が魅力とされていた。この節税保険について、国税庁は、2月13日に節税保険の税務上の取り扱いを見直すと保険業界に伝えたため、多くの保険会社は保険商品のセールス活動を自粛した。これがバレンタインショックの真相である。大小を問わず、3月決算の企業は多いから、絶妙なタイミングで国税庁は動いたことになる。

 返戻金は、益金の額に算入されるから利益として、課税対象である。通常は、返戻金を役員退職金や設備投資などの資金にあてるために、計画的に保険を解約する。しかし、税務上、返戻金の使途が適正な費用と国税当局が容認しなければ、単に納税時期の先送りになる怖れも出てくる。

後回しの返戻金対策

 土木工事会社の社長が、遊漁船で海釣り中、アンカーロープが右足に絡み、海中に転落して死亡したことから、経営者保険契約を締結していた保険会社4社から死亡保険金総額約1億9000万円を受領した会社は、故社長に1億円の死亡退職金を支給したところ、税務署長は、計算過程は省略するが、最終月額報酬、勤続年数、功績倍率などの判定要素をもとに、支給額のうち、約5700万円が不相当に高額であると指摘した。これについて、熊本地裁平成25年1月16日判決は、税務署長の指摘を容認し、福岡高裁、最高裁も地裁の判断を支持した。

 この事案における経営者保険は、保険料の全部又は一部が損金となり、解約や満期で受け取る保険金を当てにすることから、節税保険とは本質的に同じであり、返戻金の使途に国税当局が注目した。どうしても決算対策として目先のことが先行してしまい、返戻金対策は後回しとなる。「保険のおばちゃん」のセールストークにも、契約時については詳しいが、返戻金に対する税務上のアドバイスはない。

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特集:問答解説 平成31年度 地方税法の改正

月刊 税2019年5月号

2019/05 発売

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