地方公共団体に対する認可申請と行政手続法 弁護士 里 雅仁

自治体法務

2022.03.25

 複雑な法制度の中で適切にビジネスを進めるためには、司法の場での事後的な救済を待っていては遅く、自らが行おうとするビジネスについてあらかじめ規制当局と折衝し、時には時代にそぐわなくなった規制の変更を求めてルールメイキングそのものに関与していく必要があります。こうしたニーズは、技術革新、価値観の多様化により社会変化が加速度的に進む現代においてはとりわけ大きいものといえ、今後ますます増加していくものと思われます。このたび、(株)ぎょうせいは、日本組織内弁護士協会第4部会(国、地方公共団体等)の会員で、国、地方公共団体、独立行政法人などのパブリックセクターに現に所属する、または所属した経験のある弁護士、および同協会パブリックアフェアーズ研究会等に所属し民間企業においてガバメント・リレーションズを担当する弁護士の有志の執筆にかかる『企業法務のための規制対応&ルールメイキング―ビジネスを前に進める交渉手法と実例―』を発売しました。本書には、地方自治体にも大いに参考となるものと思われますので、特に関係する事例の解説を抜粋して紹介します。

 

地方公共団体に対する認可申請と行政手続法
弁護士 里 雅仁

 

〈Case3-⑦〉
 医療法人A(以下、「法人A」という)は、X県知事に対して、医療法46条の6第1項ただし書の認可に係る申請を行う予定です。
 次の①~③の場合、法人Aは、行政手続法の観点から、どのような対応をとることが考えられますか。なお、②と③については、審査請求や訴訟の提起以外の対応を検討中です。
 ① 申請にあたって、認可の条件や認可処分がなされる見込み等を確認する場合
 ② 認可申請から約2か月が経過したにもかかわらず、処分が行われない場合   ③ X県知事は法人Aに対して不認可処分を行ったものの、X県知事が法人Aに対して交付した処分通知書には、処分理由として「医療法第46条の6第1項ただし書の規定に該当しないため、不認可とする。」とだけ記載されていた場合

 

【考えられる対応】

① 審査基準を確認し、認可にあたって必要な条件や考慮される事項等を確認する。
② 標準処理期間の設定の有無を確認し、審査の進行状況等について問い合わせる。
③ 不認可処分の理由を具体的に示すよう文書で求める。

 なお、②と③については、審査請求や訴訟を提起し、行政手続法違反等を主張することも考えられる。

1  行政手続法が定める申請に係る処分についてのルール

 行政手続法(以下、「行手法」という)は、申請に対する処分などについて、行政庁や行政機関が経るべき手続等を定めている。具体的には、処分に係る審査基準(注1)を設定・公開する必要性(行手法5条)や、標準処理期間(注2)を定める努力義務(同法6条)などが規定されている。そのため、許認可等の申請にあたっては、行手法の定めるルール等を知っておくことが有益である。

 なお、多くの地方公共団体では行政手続条例を定めているが、行政手続条例と行手法では、その適用範囲が異なる。すなわち、地方公共団体の機関がする処分のうち、法令(注3)の規定に基づく処分に関して、行手法が適用される。

 他方、地方公共団体の機関がする処分のうち、条例または規則の規定に基づく処分に関しては、各地方公共団体が定める行政手続条例が適用される(行手法3条3項)(注4)。もっとも、行政手続条例には、行手法と同じ内容が規定されていることが多い。

2  行政手続法活用のポイント

2.1 審査基準の確認
 法令の規定により処分を行う地方公共団体は、処分に係る審査基準を設定し公開しておく必要がある(行手法5条)ことから、申請にあたって認可の条件や認可処分がなされる見込み等を確認する場合には、審査基準を確認することとなる。

2.1.1 審査基準が設定・公開されている場合
 設定・公開された審査基準と異なる基準で処分をするには合理的な理由が必要であると解されており、審査基準が設定・公開されている場合は、審査基準に沿って判断される可能性が高い(大阪地判平成26年4 月22日(平成23年(行ウ)172号)裁判所ウェブサイト参照)。また、処分基準(行手法2条8号ハ)に関してではあるが、設定・公開された処分基準について、行政庁に対する一種の拘束力を認めた判例(最判平成27年3月3日最高裁判所民事判例集69巻2号143頁)もある。このように、審査基準が設定・公開されている場合、審査基準に沿って判断される可能性が高いことから、まずは、認可にあたって必要な条件や考量される事項などを審査基準で確認することとなる。

 この点、法令の規定により処分を行う地方公共団体の多くは、審査基準を設定し、公開している(行手法5条)。そのため、法令に基づき許認可申請を行う場合は、地方公共団体のホームページ等で、対象となる審査基準の名称とその閲覧方法(ホームページ上で公開されているのか、窓口で閲覧することとなるのかなど)を確認する。なお、地方公共団体によっては、要綱の形式で審査基準を定めている場合もある。

2.1.2 審査基準が設定されていない場合の対応
 処分によっては、審査基準が未設定となっていることも少なくない(注5)。審査基準が未設定となっている場合には、その理由を確認し、理由に応じた対応が必要となる。

 この点、多くの場合、未設定の理由は、各地方公共団体が公開している審査基準の一覧などで確認することができる。審査基準が未設定となっている理由については、「審査基準が法令の定めに尽くされているもの」、「申請実績がないまたは将来的に見込めないもの」または「あらかじめ具体的な基準を定めることが困難なもの」に分類している地方公共団体が多い(北海道「申請に対する処分に係る審査基準・標準処理期間」など)。

 審査基準が未設定となっている理由を確認した後は、理由に応じて次のように対応する。まず、「審査基準が法令の定めに尽くされている」ことを理由に審査基準が設定されていない場合、法令で規定された要件や法令を所管する省庁から発出された通知等を審査に係る基準として考えることになる。これは、省庁から発出された通知自体を、各地方公共団体の内部手続を経たうえで、審査基準として引用している地方公共団体がある(注6)ためである。例えば、北海道は、法令の定めに尽くされていることを理由に、医療法55条6項の規定による医療法人の解散の認可に係る審査基準を設定していない。この場合、同法55条6項、医療法施行規則34条(解散の認可申請時に必要な添付書類について規定)、関連通知(注7)などをもとに、認可に係る要件や申請に必要な書類等を確認する(通知等の確認が重要であること等については、後述2.1.3も参照)。次に、「申請実績がないまたは将来的に見込めない」または「あらかじめ具体的な基準を定めることが困難」であることを理由に審査基準が設定されていない場合は、地方公共団体に対して、審査基準や申請に必要な情報について問い合わせることが考えられる(行手法9条2項)。仮に、審査基準などが示されない場合には、法令の解釈等に関して発出された通知等や逐条解説、あるいは、対象となる処分について他の地方公共団体が設定・公開している審査基準を参考にすること等が考えられる。

2.1.3 許認可を定めた条文の趣旨等を確認する場合
 審査基準を確認したものの、審査基準として設定された要件等が抽象的である、あるいは許認可にあたって処分権者が有する裁量の範囲が不明である等の理由で、許認可を定めた条文の趣旨等の確認が必要となる場合がある。

 この場合、まずは、法令の解釈等について法令を所管する省庁が発出する通知(通達)の有無を確認する。通知等には立法趣旨等が記載されている点において重要であることはもちろん、前記2.1.2のとおり、発出された通知自体を審査基準として引用している地方公共団体もあることから、通知等の確認は特に重要である。省庁によってはホームページで通知等に関するデータベースを公開しているため、これを活用して、通知等の有無を確認することとなる。なお、法令を所管する省庁が発出する通知には、技術的助言(地方自治法254条の4第1項)と処理基準(同法245条の9第1項)があり、後者の場合には、地方公共団体が事務処理を行うにあたってのよるべき基準となることにも注意が必要である。

 以上のほか、許認可を定めた条文の趣旨等の確認にあたっては、法令の逐条解説、裁判例、裁決(各地方公共団体に対して申し立てられた審査請求に対する結果。各地方公共団体で出された裁決と答申は、総務省の「行政不服審査裁決・答申データベース」(注8)で確認が可能)、または他の地方公共団体が設定・公開している審査基準の調査が有益である。

2.2 標準処理期間の確認と進行状況等を示すよう求める
 地方公共団体は、標準処理期間を定めるよう努め(行手法6条)、申請に係る情報の提供に努めなければならない(同法9条)。

 そのため、〈Case3-⑦〉②のように認可申請から約2か月が経過したにもかかわらず処分がなされない場合、まずは、標準処理期間の設定の有無(行手法6条)とその期間を確認する。また、標準処理期間の設定の有無または期間超過の有無にかかわらず、申請に係る審査の進行状況や処分時期の見通しを示すよう求めることもできる(同法9条1項)。

 なお、標準処理期間を超えて申請後相当の期間が経過している場合には、審査請求または訴訟で、不作為の違法確認を求めることも考えられる。

2.3 不認可処分の理由を具体的に示すよう文書で求める
 地方公共団体は、許認可等を拒否する場合は、処分の理由を示さなければならない(行手法8条)とされていることから、〈Case3-⑦〉③のような処分理由の提示を受けた法人Aとしては、X県知事に対して、不認可処分の理由を具体的に示すよう文書で求めるべきである。

 提示すべき理由の程度については、不利益処分をする場合の理由提示(行手法14条1項)に関してではあるが、「どの程度の理由を提示すべきかは、……同項本文の趣旨に照らし、当該処分の根拠法令の規定の内容、当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無、当該処分の性質及び内容、当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである」とした判例(最判平成23年6月7日最高裁判所民事判例集65巻4号2081頁)がある。また、同判例は、「処分に際して同時に示されるべき理由としては、処分の原因となる事実及び処分の根拠法条に加えて、本件処分基準の適用関係が示されなければ、……いかなる理由に基づいてどのような処分基準の適用によって当該処分が選択されたかを知ることは困難であるのが通例であると考えられる」とし、処分基準の適用関係を示すことまで求めている。この判例が述べる一般論は、申請拒否処分についての理由の提示を規定した行手法8条においても同様に該当するといわれている。

 また、処分に際して理由が示されないことまたは提示された理由が不十分であることは、処分の取消事由(行手法5条違反)となるため、法人Aとしては、審査請求または訴訟を提起し、手続違反(理由提示の不備)を理由に処分の取消しを求めることも考えられる。もっとも、理由提示の不備を理由に処分が取り消されたとしても、あらためて、理由を(詳細に)提示されたうえで同じ処分(不認可処分)がなされる可能性は十分ある。すなわち、手続違反の主張が審査請求または訴訟で認められたとしても、必ずしも、認可処分がなされるわけではない。早期に認可を得たい場合には、直ちに審査請求または訴訟を提起するよりも、文書により理由提示を求め、不認可処分の理由を分析したうえで条件を整えて再度申請するといった対応が適切な場合もある。そのため、不認可処分を受けた場合には、処分理由の確認と(法令の趣旨から)妥当性等を確認することが重要となる。

3  実践例

 〈Case3-⑦〉の事例は、福岡地判令和2年11月4日(令和2年(行ウ)2号)判例集未登載/TKC文献番号[25567255](以下、「福岡地裁判決」という)類似の事案をもとに作成したものである。福岡地裁判決では、医療法人の理事長医師の例外認可(医療法46条の6第1項ただし書に係る認可)の申請に係る不認可処分の取消しと当該認可の申請について認可することが求められ、いずれも認容された。

 例えば、〈Case3-⑦〉の法人Aが福岡県に対して医療法人の理事長医師の例外認可に係る申請を行おうとした場合、上記2で説明した流れに沿って認可の基準や認可がなされる見込みを検討するとしたら、次のようなプロセスを経ることが考えられる。

 まず、福岡県のホームページのサイト(「行政手続法及び福岡県行政手続条例に基づく行政処分一覧」)に公開された「申請に対する処分一覧(行政手続法適用)」を確認すると、「医療法人の理事長医師の例外認可」(医療法46条の6第1項ただし書に係る認可)については、「医療法に基づく『申請に対する処分』に係る審査基準および標準処理期間」(以下、「本件基準等」という)が設定され、主務課に備え置く方法で公開されていることがわかる。そこで、法人Aとしては、本件基準等で認可に係る基準を確認し、認可にあたって必要な条件や考慮される事項等を検討することとなる。その際、本件基準等の確認と併せて、認可について規定した医療法46条の6の解釈等について通知等の有無を「厚生労働省法令等データベースサービス」(注9)で調べると、「医師、歯科医師以外の者を理事長とする認可」(同条1項)に関しては「医療法人制度の改正及び都道府県医療審議会について(昭和61年6月16日健61政発第410号)」が発出されていることがわかる(なお、当該通知は技術的助言として示されたものである)。このように、法人Aが福岡県に対して医療法人の理事長医師の例外認可に係る申請を行う場合には、本件基準等と当該通知を踏まえて、認可の条件や認可処分がなされる見込み等を確認することとなる(【考えられる対応】①)。

 次に、〈Case3-⑦〉②のように認可申請後約2か月が経過したにもかかわらず処分が行われない場合には、標準処理期間の設定の有無等を確認し、福岡県知事(申請に係る事務を所管する部署)に対して、申請に係る審査の進行状況や処分時期の見通しを示すよう求めることが考えられる(【考えられる対応】②)。この点、福岡地裁判決の事案では、申請後2か月経っても処分がされなかったことから、認可を求めて審査請求が行われ、審査請求人の請求を認容する裁決が出されている(注10)。このように審査請求や訴訟による解決も考えられるところではあるが、福岡県は、審査基準と併せて標準処理期間設定・公開しており、標準処理期間については、医療審議会の終了日から起算して15日とされている(注11)。申請後2か月経っても処分がされない場合には、最終的には審査請求等による対応も視野に入れて検討することになろうが、まずは、福岡県知事に対して、申請に係る審査の進行状況や処分時期の見通しを示すよう求め、併せて、医療審議会の開催の有無や開催予定日についても確認することとなろう。

 なお、〈Case3-⑦〉③のような処分理由の提示を受けた場合、上記2.3で述べたとおり、まずは、X県知事に対して、不認可処分の理由を具体的に示すよう文書で求めることとなる(【考えられる対応】③)。

(注1) 申請により求められた許認可等をするかどうかを法令の定めに従って判断するために必要な基準(行手法2条8号ロ)。

(注2) 申請に対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間。

(注3) 法令とは、法律または法律に基づく命令(告示を含む)のことをいう。

(注4) 行手法と行政手続条例の適用関係については、総務省のホームページに掲載されている「行政手続法Q&A」(総務省「行政管理局が所管する行政手続・行政不服申立てに関する法律等行政手続法Q&A」〈soumu.go.jp〉)のQ2のAを参照。

(注5) 平成18年7月11日付けの総務省作成の報道資料「行政手続法の施行状況に関する調査結果(概要)―地方公共団体―」参照。

(注6) 例えば、北海道は、公開している「申請に対する処分に係る審査基準・標準処理期間」の「審査基準」の欄で、国の通達や通知を引用している。

(注7) 「医療法の一部を改正する法律の施行に関する件」(昭和25年8月2日厚生省発医第98号厚生事務次官通知)。

(注8) 総務省「行政不服審査裁決・答申データベース」〈http://fufukudb.search.soumu.go.jp/koukai/Main〉。

(注9) 厚生労働省ホームページ「厚生労働省法令等データベースサービス」〈https://www.mhlw.go.jp/hourei/〉。

(注10) 裁決日2019年3月13日。総務省「行政不服審査裁決・答申データベース」(前掲注8)で検索が可能。

(注11) 前掲(注10)の裁決文の別紙を参照。

本稿は、日本組織内弁護士協会(JILA)/監修、里雅仁・木村健太郎・江﨑裕久・江黒早耶香・矢田悠/編著『企業法務のための規制対応&ルールメイキング―ビジネスを前に進める交渉手法と実例―』の一部を抜粋したものです。

 

アンケート

この記事をシェアする

  • Facebook
  • LINE

新規事業を進めるにあたって障害となる法律・規制の壁を突破するための方策を解説!

オススメ

企業法務のための 規制対応&ルールメイキング

―ビジネスを前に進める交渉手法と実例―

 

2022年3月 発売

本書の購入はこちら

すぐに役立つコンテンツ満載!

地方自治、行政、教育など、
分野ごとに厳選情報を配信。

無料のメルマガ会員募集中

関連記事

すぐに役立つコンテンツ満載!

地方自治、行政、教育など、
分野ごとに厳選情報を配信。

無料のメルマガ会員募集中