時事問題の税法学
時事問題の税法学 第9回 納付書
地方税・財政
2019.07.01
時事問題の税法学 第9回
納付書
(『月刊 税』2016年7月号)
納付書の印刷ミス
こよなく郷土を愛する立場からすれば不本意な話題がある。東海道の宿場であり城下町でもある自治体が発送した固定資産税納付書に不備があった。コンビニで納税できなかったのである。納税できないためコンビニを2軒、ハシゴしてくれた事務所のスタッフが、市役所のHPで「お詫び」を見つけた。
新聞報道(平成28年5月13日「中日新聞」「毎日新聞電子版」)によれば、納付書のバーコードがコンビニで読み取れず納付できない印刷ミスがあったという。印刷業者が、本来の44桁の数字に加え、発注指示用の3桁のアルファベットを付加して47桁のバーコードを印刷したのが原因であり、市は納品を受けた後、実際にバーコードを読み込めるかどうかの点検をしていなかった。
対象は約6万7千人で、金融機関での支払には問題がないが、市は昨年コンビニで納付した約1万8千人と希望者に正しいバーコードを印刷した通知書を再送付するという。確かにほどなく新しい納付書は届き、期限内納税を終えることができた。再送付は、迅速だった。
報道で示された本年度の対象者と昨年度のコンビニ利用者との計算であるが、約27%の納税者がコンビニ納税を利用したことになる。しかも5月10日に発送した通知書を受け取った納税者約100人から「コンビニで納付できない」と連絡があり、ミスに気付いたというから、市民の納税意識は高い。身びいきかもしれない。
平成16年の地方自治法施行令の改正により地方税のコンビニ納税が解禁されたときには、その効果を大いに強調した(本誌平成16年8月号20頁)。平日の9時から15時の間に金融機関の窓口に出かけることが難しい人も少なくないから、コンビニ納税が普及するのも当然だった。滞納対策としての納税環境の整備が提唱されはじめたのもこの時期だった。その後、国税も事前手続きが必要だが、コンビニ納税を導入している。
万能ではないコンビニ納税
ところで、コンビニにおつりがないように納税額をきっちり封筒に入れて、持参する人が多かったらしい。おつりが不要な場合はレジが開かない。記録が残らないから、そのままお金を着服してしまう不埒な店員もいる、とコンビニ経営者から聞いたことがあった。事実、着服防止のためレジでお客にモニターで確認させるシステムに変更されたから(「朝日新聞」平成22年8月15日)、不祥事は多かったのかもしれない。
ただコンビニが身近にあるという前提で、その効果を礼賛したため、コンビニが少ない地域では効果は低いという指摘もあった。実をいえばごく最近、山間にある古い町並みを、地元の観光ガイドによる案内で歩いた。戦国時代に女城主が守った山城として歴史に名を残す城下町である。2時間ほどの散策の間、コンビニが1軒もなかったことに、参加者の多くから驚きの声が上がっていた。自販機は並んでいたから、景観を維持するために出店規制をしているとは思えない。お節介だが、この城下町がある自治体のHPによれば、平成25年度からコンビニ納税ができるようになったと告知されていた。ただゆったりと時が流れる静かな街では、街角で見かけた郵便局と信用金庫の出張所で事が足りるのかもしれない。
もっとも住民税や固定資産税など地域に密着した税目なら、指定金融機関でいい。ただ法人住民税、とくに分割法人として支店等が存在する自治体に納税する場合には混乱が生じる。中小企業を相手にする税理士業務では、申告手続きは税理士が行うが、納付書は、納税額を記入したうえで企業に渡すことが多い。自治体の指定金融機関が地域限定の場合には、本社から支店等に送ることになる。時間に余裕があるときはいいが、申告期限が迫っているときには慌てる。
今月でも和歌山県下のある自治体の納付書には、「この納付書は近畿2府4県の郵便局しか使用できない」と明記されていた。地域外の金融機関等で使用できる納付書を事前申請で交付する自治体もあるが、少なくとも当該自治体の区域外に本店等がある分割法人であることを、課税側は承知しているはずである。納税者に対する配慮に欠けるといっていい。