感染症リスクと労務対応

弁護士法人淀屋橋・山上合同

【労務】感染症リスクと労務対応 第4回 時差出勤、テレワーク等を活用する際の手続や実施上の留意点

キャリア

2020.03.18

新型コロナウイルスに関連して、給料、休業補償、在宅勤務、自宅待機など、これまであまり例のなかった労務課題に戸惑う声が多く聞かれます。これら官民問わず起こりうる疑問に対して、労務問題に精通する弁護士(弁護士法人淀屋橋・山上合同所属)が根拠となる法令や公的な指針を示しながら、判断の基準にできる基本的な考え方をわかりやすく解説します。(編集部)

時差出勤、テレワーク等を活用する際の手続や実施上の留意点

(弁護士 白石浩亮)

【Q4】

企業のウイルス対応として、時差出勤、テレワーク等を活用する際の手続や実施上の留意点を教えてください。

【A】

〔1.時差出勤、2.テレワーク、3.その他〕に分けて、以下それぞれの手続きや留意点を解説します。

1.時差出勤

 (1) 時差出勤とは

 時差出勤とは、始業時間を本来の所定始業時間より早く、または、遅くすることにより、混雑する時間帯の通勤を回避するものです。わが国において官公庁や民間企業の始業時間は、午前9時~10時前後に設定されていることが多く、その始業時間前の時間帯に、通勤が集中することになります。このため、特に都市部の通勤ラッシュ中の公共交通機関は、大変な過密状態にあり、他者との接触は避けられません。この点に関しては、2020年3月9日付けの新型コロナウイルス感染症対策専門家会議「新型コロナウイルス感染症のクラスター(集団発生)のリスクが高い日常生活における場面についての考え方」において、満員電車内の環境が、これまでクラスターの発生が確認された場所に共通する条件に該当する場合がありうる、との考え方が示されています。この考え方によれば、通勤ラッシュ中のバスや電車内にウイルス感染者がいた場合、通勤時間中にウイルスに感染する可能性は否定できないことになります(ただし、前記のような共通する条件を満たせば当然にクラスターが発生するわけではありませんし、前記「考え方」においても、満員電車では、近距離での会話や発語はあまりないと考えられる旨の指摘もなされていますので、過度に恐れる必要はないと考えられます)。これに対し、時差出勤を導入することにより混雑した時間帯の出勤を回避した場合、車内でもある程度は距離をとることができますので、通勤中にウイルスに感染するリスクは相対的に小さくなります。
 法的にみた場合、時差出勤とは、始業・終業時間の変更となります。所定労働時間自体は変わりませんので、始業時間を前倒しにすれば終業時間も前倒しの早い時間になりますし、始業時間を遅くした場合には、終業時間は後ろ倒しで遅くなります。

 (2) 導入する際の手続

 時差出勤を導入する場合、多くの企業では、就業規則において始業・終業時間を変更することができる旨を定めています。このような就業規則上の定めがある場合には、少なくとも短期的には就業規則の改訂等をすることなく、当該定めに基づいて時差出勤を導入することができます。
 反対に、このような就業規則上の定めがない場合には、始業・終業時間の変更について新たに規定を設けなければなりません。広い意味では、労働条件の不利益変更にあたりますので、変更の必要性や変更内容の合理性に注意する必要があります。

 (3) 時差出勤を導入する場合の留意点

 就業規則において、始業・終業時間の変更についての定めがある場合、従業員の同意によらず変更できるようになっているのが一般的です。とはいえ、感染予防のためとはいえ、時差出勤により生活のリズムが変わることになるのは負担ですし、ウイルスのために社会全体が不安を感じている中で、一方的に始業・終業時間を変更されることは、従業員の不満が蓄積する懸念があります。従業員の士気を低下させないためにも、従業員の意見を聴取したうえで始業・終業時間を変更することが望ましいといえます。

 

2.テレワーク

 (1) テレワークとは

 テレワークとは、インターネットなどの情報通信技術((ICT)を活用した就労形態です。テレワークの形態としては、在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィス勤務があります。そもそも通勤が必要ありませんので、通勤中の感染を防止することができます。テレワークは、育児や介護を理由とする従業員の離職の防止、遠隔地の優秀な人材の雇用、災害時に事業を継続しやすくなるといったメリットがあるとされており、今回のような感染対策としても有用とされています。
 なお、厚生労働省が「テレワーク総合ポータルサイト」を作成しています。同サイトでは、導入事例や参考となる資料が紹介されていますので、導入にあたって参考にしてください。

【参考リンク】
テレワーク総合ポータルサイ
https://telework.mhlw.go.jp/

 (2) 手 続

 テレワークは、働き方自体を大きく変えるものですので、就業規則またはその細則(「テレワーク規程」等)により定めることが必要です。定める内容としては、テレワークを命じることに関する事項や、テレワーク用の労働時間を設ける場合、その労働時間に関する事項、通信費等の負担に関する事項等があります。これ以外にも、テレワークを実施するにあたってのルールを作成し、就業規則等に定めておくことも考えられます。

 (3) テレワーク導入にあたっての留意点

 ① 労働基準法が適用されること
 テレワークにより働く従業員に対しても労働基準法が適用されることに注意しなければなりません。直接働いている様子を現認することができませんので、労働時間の管理には特に注意する必要があります。始業時・終業時にどのような方法で報告させるか(電子メールや電話、勤怠管理ツールを活用している例があります)、在席・離席確認をどのような方法で行うか、等についてあらかじめルールを定めておく必要があります。

 ② テレワークに向いた業務、人材
 テレワークはすべての業務で実施できるとは限りません。業務の内容、業務に要する時間、使用する書類の有無(紙媒体か電子化されているか)、使用するシステムやツール、セキュリティや情報漏えいリスク、関係者とのコミュニケーションといった要素を勘案して、テレワークの実施に向いた業務かどうかを見極めることが重要です。
 また、テレワークは、他者の視線の有無にかかわらず自律的・自己管理的に仕事を進めることが必要となりますので、これができる人材には向いていますが、自律的に働けない人や、他者の視線がないとパフォーマンスが下がる人には不向きです。対象者の選定についても注意を払う必要があります。

 (4) 助成金

 ウイルス感染拡大防止のためにテレワークを新規導入する中小企業は、時間外労働改善助成金(テレワークコース)の支給(補助率2分の1、上限額100万円)を受けることができます(Q3参照)。

3.その他

 上記の時差出勤やテレワーク以外にも、フレックスタイム制や必要に応じた時短措置を講じることも考えられます。
 また、職場で業務を行うにあたっても、適切に換気し、人の密度を下げるよう工夫すること、近距離での会話を控えることが重要です。これらに加えて、手指衛生と咳エチケットの励行、共用品を使用しないようにすることが、ウイルス感染予防に有用です。

(この記事は令和2年3月時点の情報に基づいています)

 

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弁護士法人淀屋橋・山上合同は、あらゆる分野の法律問題について、迅速・良質・親切な法的サービスを提供している法律事務所。2020年3月現在64名の弁護士が所属。連載を担当したメンバーは、主に企業側に立って、雇用や労働紛争に係る相談対応、法的助言から裁判手続、労働委員会における各種手続の代理人活動等を行っている。

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