感染症リスクと労務対応
第3回増補版【労務】感染症リスクと労務対応 企業に有用な助成金について
キャリア
2020.03.24
目次
新型コロナウイルスに関連して、給料、休業補償、在宅勤務、自宅待機など、これまであまり例のなかった労務課題に戸惑う声が多く聞かれます。これら官民問わず起こりうる疑問に対して、労務問題に精通する弁護士(弁護士法人淀屋橋・山上合同所属)が根拠となる法令や公的な指針を示しながら、判断の基準にできる基本的な考え方をわかりやすく解説します。(編集部)
この記事は令和2年3月17日に掲載し、3月24日に一部内容を更新・増補しました。
新型コロナウイルス関連で検討しうる助成金
(弁護士 堀内 聡)
【Q3】
新型コロナウイルス関連で企業に有用な助成金があれば教えてください。
【A】
政府から、以下のような助成金の支給が公表されています。
(この記事は令和2年3月時点の情報に基づいています)
(この記事は令和2年3月時点の情報に基づいています)
1.新型コロナウイルス感染症に係る時間外労働等改善助成金(テレワークコース、職場意識改善コース)の特例
時間外労働等改善助成金とは、時間外労働の制限その他の労働時間等の設定の改善および仕事と生活の調和の推進のため、在宅またはサテライトオフィスにおいて就業するテレワークに取り組む中小企業事業主に対して、その実施に要した費用の一部を助成するものです。
令和2年度分の受付はすでに終了していましたが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、令和2年2月17日以降、①テレワークコース、②職場意識改善コース、について、特例コースが設けられました。
(1) 対象となる中小企業事業主
労災保険の適用事業主である、以下の企業が対象となります。
(2) 特例措置の概要
特例措置の概要は下表のとおりです。これらの助成金は、令和2年3月9日から交付申請の受付が開始されていますが、交付決定前であっても、令和2年2月17日以降の取組みについては、助成の対象となるとされています。
【参考リンク】
・時間外労働等改善助成金(テレワークコース)(厚生労働省ホームページ)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/syokubaisikitelework.html
・時間外労働等改善助成金(職場意識改善特例コース)(厚生労働省ホームページ)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/syokubaisiki.html
2.雇用調整助成金の特例
雇用調整助成金とは、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、労働者に対して一時的に休業、教育訓練または出向を行い、労働者の雇用の維持を図った場合に、休業手当、賃金等の一部を助成するものです。
(1) 助成内容
(2) 支給要件
① 新型コロナウイルス感染症の影響を受ける事業主
新型コロナウイルス感染症の影響に伴う経済上の理由として、以下のような例があげられています。
・取引先の事業縮小により受注量が減少して事業活動が縮小した場合
・国や自治体等からの自粛要請の影響で客数が減少して事業活動が縮小した場合
・風評被害による予約のキャンセル等で客数が減少して事業活動が縮小した場合
② 休業等の初日が、令和2年1月24日から令和2年7月23日までであること
(3) 特例措置の内容
雇用調整助成金の特例措置の内容は、以下のとおりです。
① 新規学卒採用者など、雇用保険被保険者として継続して雇用された期間が6か月未満の労働者についても助成対象とする。
② 過去に雇用調整助成金を受給したことがある事業主について、
a 前回の支給対象期間の満了日から1年を経過していなくても助成対象とし、
b 過去の受給日数にかかわらず、今回の特例の対象となった休業等の支給限度日数までの受給を可能とする(支給限度日数から過去の受給日数を差し引かない)。
③ 令和2年1月24日以降の休業等計画届の事後提出を、令和2年5月31日まで可能とする。
④ 生産指標要件(売上高対前年比10%減少)の確認期間を3か月から1か月に短縮する。
⑤ 事業所設置後1年未満の事業主についても助成対象とする(この場合、売上高減少は令和元年12月と比較する)。
⑥ 最近3か月の雇用量が対前年比で増加していても助成対象としています。
なお、①および②については、3月中旬頃追加予定とされています。
この助成金の支給を受けるためには、休業が終了してから2か月以内に支給申請を行う必要があります。
(4) 緊急特定地域についての追加特例措置
北海道知事が緊急事態を宣言したことを踏まえ、北海道においては、令和2年2月28日から令和2年4月2日までの間、上記(1)~(3)の特例措置に追加して、以下の特例措置が講じられています。
① 雇用調整助成金は、雇用保険被保険者を助成対象としていますが、上記期間内における上記地域の事業者が休業等を実施した場合、1週間の所定労働時間が20時間に満たない労働者も助成対象に含めることとされています。
② 上記期間内における上記地域の事業所が休業を実施した場合の助成率を、中小企業の場合は3分の2から5分の4へ、大企業の場合は2分の1から3分の2へ引き上げられます。
③ 生産指標の最近1か月間の月平均値が、前年同期と比べ10%以上減少している事業主であることを必要としていますが、上記期間内における上記地域の事業者が休業等を実施した場合、生産指標要件を満たしたものとして扱われます。
【参考リンク】
・雇用調整助成金
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html
・雇用調整助成金に関する主な問合せ先一覧
https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/koyojyoseimadoguchi.pdf
・新型コロナウイルス感染症の影響に伴う雇用調整助成金の特例措置に関するQ&A(令和2年3月10日版)
https://www.mhlw.go.jp/content/000606556.pdf
3.新型コロナウイルス感染症に係る小学校等の臨時休業等に伴う保護者の休暇取得支援(新たな助成金制度)
小学校等の臨時休業に伴い子の世話をする必要がある保護者が休暇を取得しやすくするよう、新たな助成金が創設されました。
(1) 支給要件
ア 以下の①または②の世話を保護者として行うことが必要となった労働者に対し、
イ 労働基準法上の年次有給休暇とは別途、賃金を全額支給する有給の休暇を取得させた事業主
① 新型コロナウイルス感染拡大防止策として、臨時休業した小学校等(※)に通う子
※小学校等:小学校、義務教育学校(小学校課程のみ)、特別支援学校(高校まで)、放課後児童クラブ、幼稚園、保育所、認定こども園等
② 風邪症状など新型コロナウイルスに感染したおそれのある、小学校等に通う子
対象となる「保護者」とは、親権者、未成年後見人、その他の者(里親、祖父母等)であって、子どもを現に監護するもののほか、子どもの世話を一時的に補助する親族も含まれます。
(2) 助成内容
休暇中の賃金相当額が助成されます。ただし、大企業、中小企業とも日額上限8330円です。
対象となるのは、令和2年2月27日から3月31日の間に取得した休暇で、半日単位有休や時間単位休暇も対象となりますが、勤務時間短縮は対象外です。
また、もともと学校が休みの日(春休みや日曜日)や、放課後児童クラブ等の施設が利用可能な日は対象外とされています。
(3) 留意点
① 中学校、高等学校に通う子の保護者については支給対象外である点
② 労働者に取得させる休暇は、給与全額を支払う必要があり、その日額が8330円を超える場合、差額は当該企業が負担する必要がある点に留意が必要です。
【参考リンク】
・新型コロナウイルス感染症に係る小学校等の臨時休業等に伴う保護者の休暇取得支援(新たな助成金制度)について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07_00002.html
4.その他
経済産業省が「新型コロナウイルス感染症で影響を受ける事業者の皆様へ」と題するパンフレットを作成しており、資金繰り、設備投資・販路開拓、経営環境の整備について案内しています。https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/pamphlet.pdf
また、国とは別途、助成金を支給する地方自治体もあります。
たとえば、東京都は、上記で紹介した厚生労働省の助成金とは別途、テレワーク環境整備のための助成金の支給を行っています。
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/taisaku/saigai/1007261/1007458.html
そのほか、助成金ではないものの、資金繰り等の支援については、首相官邸ホームページで支援策が紹介されていますので、参考にしていただければと思います。
https://www.kantei.go.jp/jp/pages/coronavirus_info.html
今後もさらに助成金の詳細が決定されたり、追加的な措置が講じられる可能性もありますので、引き続き、管轄省庁のホームページなどで最新情報を確認する必要があります。
この記事は令和2年3月17日に掲載し、3月24日に一部内容を更新・増補しました。
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