本から学ぶ 財政課心得帖
『ザ・ゴール―企業の究極の目的とは何か』(エリヤフ・ゴールドラット/著)―どこに問題があるかボトルネックを探せ
キャリア
2020.01.03
第14回 どこに問題があるかボトルネックを探せ
「何が問題なのかがわかれば、その問題は半分以上解決したようなもの」と、言われることがあります。何か問題が起きると、つい対症療法的に一時しのぎの対応をしてしまいますが、それでは局所的には改善されても全体的にはあまり状況は変わらないということになりがちです。初めに掲げた言葉は、慌ててその場限りの対応をするより、まずは真の問題を突き詰めるべきと教えています。
役所の仕事でも、同じようなことが起こっていないでしょうか?
ある所属の仕事が回っていないからと人員を増やしたのに、結局時間外勤務はほとんど減らなかったり、一部の業務を委託に切り出したものの、全体の効率はあまり変わらなかったり。こうした事例は、対応すべき問題を見誤ったために生じたものと考えられます。
予算編成に向けては、各所属からいろいろな要望が出されてきます。限られた予算ですから、問題解決につながる意味のある使い方をしたいものです。そのためには、闇雲に手を打つのではなく、「何が問題なのか」を見定めたうえで、効き目のある一手を打たなければなりません。
そこで、今回はエリヤフ・ゴールドラット著の『ザ・ゴール』を紹介します。著者はイスラエルの物理学者です。科学的な思考法はビジネスの世界にも応用できるのではないかと考え、新たなビジネス理論を打ち立てました。
『ザ・ゴール』は、そんなゴールドラット博士の代表作です。全世界でベストセラーを記録し、日本でも売れ続けています。小説仕立てになっているため、楽しみながら博士の理論を学ぶことができるのが魅力で、自治体の現場にも応用できる知恵が満載です。
〇「ゴール」は何か?
本のタイトル『ザ・ゴール』には、正しい「ゴール」、すなわち「目標」を持つことがすべての出発点になるという意味が込められています。「目標」が間違っていると、それに向けての努力も的外れなものになってしまいます。
『ザ・ゴール』の舞台となっているのは部品を製造する民間の工場です。主人公の工場長は、効率よく生産することを目標とし、人も機械もなるべく休ませないように働かせていましたが、相談した大学時代の恩師にそれは正しいやり方ではないと指摘されます。その工場はうまく運営できていなかったのですが、それは機械の性能が低いのでも、働いている人に問題があるのでもなく、誤った目標のもとに誤った取り組みをしていたためだったのです。
民間企業と役所では、目指すところは異なります。しかし、正しい目標を掲げることが大切であることは変わりません。予算の是非を考える際にも、まずは目指すところを考える必要があります。そもそもどうしたいのか、誰にどうなってほしいのか、という目標がはっきりしていれば、そのために必要な対応も見えてくるはずです。
〇「制約条件」を探せ
『ザ・ゴール』で唱えられたマネジメント理論は、一般に「制約条件の理論(TOC:theory of constraints)」と呼ばれています。TOCとは、目標の達成を妨げる制約条件に注目し、最小の努力で最大の効果をあげる経営管理手法です。ここでいう「制約条件」は、「ボトルネック」とも言われます。
例えば、ある工場が1つの製品を作る工程にA・B・Cの3つがあるとして、A工程では1時間に40個、B工程では15個、C工程では20個が生産できるとします。この場合、AやCに余力があったとしても、結局でき上がる製品の個数は、ボトルネックとなっているB工程の15個が限界となります。つまり、A工程やC工程に携わる人がどんなに頑張って生産性を上げても、B工程が変わらない限り全く意味がないということになります。
そのため、TOCでは、①まず制約条件を探し、②他のプロセスをその制約条件に従わせるととともに、③その制約条件を徹底的に活用する、というステップで状況を改善していきます。
役所の仕事は工場と異なる点も多いですが、プロセスを踏んで仕上げていくという点では共通点が多くあります。また、役所が直接取り組んでいるものではなく、補助金などを使って奨励している事業であっても、うまく進んでいないとすれば、どこかに制約条件、ボトルネックが潜んでいる可能性があります。
〇「制約条件」の制約を広げろ
業務工程の中でボトルネックであると名指しされると、あたかも仕事の能率を下げる元凶であるかのように捉えられるかもしれませんが、そうではありません。制約条件は、業務全体の生産性を左右する最重要工程であり、全体の課題として取り組む必要があるのです。
先に挙げたA工程40個、B工程15個、C工程20個の例では、このままではボトルネックであるB工程に制約されて15個しか作れませんが、例えばA工程からB工程に人を移し、B工程の能力を20個に上げれば、全体の生産量も増えることになります。つまり、制約条件に集中して手を打つことによって、全体の生産性が上がるのです。
役所の仕事は、流れ作業的に行うことはあまり多くありませんので、工程が明確に分けられていないことがほとんどだと思います。しかし、考え方は同じです。業務を分析し、ボトルネックとなっている作業を探し、そこを強化していきます。あちこち手を打たず、ボトルネックに集中することが大切です。
〇全体最適を目指して
役所に限らず、どんな組織もつい目の前の課題解決に懸命になりがちです。1つの課題を潰してやれやれと思うと別のところに問題が生まれて、次はそちらにかかります。いつも何かの対策をしているので忙しく働いているのですが、全体の効率はそれほど上がっていないということも少なくありません。これでは、手間や経費が無駄に費やされてしまいます。
『ザ・ゴール』という本が全世界で売れているのは、世界中で同じような問題が起こっているからでしょう。適切な手を打つのは、いつの時代でも、どこの国でも、簡単ではないのです。予算編成においても同様です。必要なところに必要な予算を要求しているつもりが、実際には制約条件ではないところを強化するような予算が出されていたとすると、お金をかけて全体最適から遠ざかってしまうことにもなりかねません。
全体最適を目指し、所管課と一緒に、先入観にとらわれず制約条件探しをしてみてはいかがでしょう?要求された予算を査定することだけが財政課の役割ではないはずですから、ともによりよい予算を作るいい機会になるかもしれません。
【今月の本】
『ザ・ゴール―企業の究極の目的とは何か』(エリヤフ・ゴールドラット/著、三本木 亮/訳、稲垣 公夫/解説)
(ダイヤモンド社、2001年、定価:1,600円+税)