本から学ぶ 財政課心得帖

林誠

『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』(森岡 毅/著)―予算編成に向けてアイデアを生み出す準備を

NEWキャリア

2020.01.01

第13回 予算編成に向けてアイデアを生み出す準備を

『地方財務』2019年9月号

 9月になりました。まだまだ暑い日が続きますが、それでも少しずつ秋が深まっていきます。そして、いずれ予算編成の冬が来ます。
 どの自治体も、毎年度厳しいやりくりを経て予算を組まれていると思います。今度の冬も大変な日々になるでしょうか?苦労するのは仕方がないにしても、同じやり方の繰り返しではなく、なんとか工夫をして乗り切りたいものです。特に今年は、「働き方改革」の初年度でもありますので、仕事の進め方を見直し、時間外も極力短くしたいところです。
 しかし、12月、1月と冬が深まってからでは新しい取組みをするのも難しくなります。まだ夏の熱気が残る今のうちに、アイデアの出し方を仕込んでおきましょう。
 そこで、今回は森岡毅さんの『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』を紹介します。著者の森岡さんは株式会社ユー・エス・ジェイの元CEOだった方です。窮地にあったUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)のV字回復を先導し、ディズニーランドと並ぶ人気テーマパークに生まれ変わらせた立役者と言われています。
 厳しい制約の中、後ろ向きに走るジェットコースター(「バックドロップ」と呼ぶそうです)をはじめ、常識破りの手法で次々にヒットを飛ばした森岡さんの体験から、アイデアの生み出し方が学べます。

〇まずは「目的」を徹底的に吟味する

 何か新しいことを始めようとするとき、新奇な思い付きに飛びついてしまうことがありませんか。ふと湧いたアイデアはいかにもよさそうに見えますし、出された意見を却下するとその場のノリも悪くなりかねないので、つい「イイネ!」と言ってしまいそうになります。
 しかし、森岡さんは、いきなりアイデア出しをするのではなく、まずは「目的」をじっくり考えるべきだと主張されています。時間をかけて目的を突き詰め、明確に定義することが大切だというのです。そして、その目的が正しいと判断したなら、できない理由を考えて目的自体を「無理だ」と嘆くことに時間を使わないようにするべきだとします。具体的なアイデアを考え始めるのは最後の最後でいいと言うのです。
 この考え方からすれば、おそらく「来年度に向けていい予算編成を行う」といった感じでは、突き詰められた「目的」にはなっていない気がします。もっと明確に、具体的にしなければ、スタートラインに立てないのでしょう。
 何をどうしたい、ということを考え抜いて、まずは目指すに足る「目的」を設定しましょう。

〇ストックを蓄える

 納得できる「目的」を定められたとしても、いざ何か「アイデアを出せ」と言われると、急には浮かばないのが普通でしょう。では、どんな準備をしておけばいいのでしょうか?
 森岡さんは、アイデアを思い付くためには、蓄積された豊かな情報が必要だと考えています。それを「ストック」と呼び、ストックが強ければ強いほど、直面する問題に対しての解決策を思い付きやすくなるとします。いわゆる「引き出しが多い」と呼ばれる存在です。
 ここで言うストックとは、業務に直接関係する情報や知識のことだけではなさそうです。森岡さんは「寄り道も大切」と言っておられ、仕事とはつながらないようなことであっても、どんどん吸収しておくべきだとします。
 いろいろなことを蓄えておけば、新たな発想につながります。全く関係ないと思われていた知識が、ひょんなときに役に立つこともあります。森岡さんが「気がつかないことは考えられない」と言っておられるように、幅広いストックがアイデアを生み出す元となります。
 財政課職員も、できる限りいろいろなことに興味を持っていたいところです。細かい財政知識もさることながら、広い世間知が財政課の業務に役立つことは、皆さん経験されておられるところだと思います。他の課の職員から、「よくそんなこと知ってるなあ」と一目置かれる立ち位置でありたいものです。

〇真似る

 森岡さんは、斬新なアイデアを次々に生み出しているように見えますが、実はゼロから生み出したものはほとんどないのだそうです。自分で何でもゼロから始めようとするのは日本人の悪い癖であり、「使えるアイデアがないか、誇りを持って世界中から探す」と言います。「全てのアイデアは人様のアイデアの断片の組み合わせ」とまで割り切っておられます。
 そうは言っても、企業間では、真似ようと思っても、隠されてしまうこともあるかもしれません。しかし、自治体同士なら気持ちよく教えてくれる場合がほとんどでしょう。つまり、自治体は真似るチャンスにあふれているのです。
 「パクリ」「二番煎じ」などと言われるのは気持ちがいいものではありませんが、目指すのはいい行政運営を行うことであり、オリジナリティに固執する必要はありません。他の自治体で行われている優れた取組みを、勇気を持って真似て、自分の自治体に合わせてアレンジすることは成功への近道かもしれません。

〇必死に考えればアイデアは降りてくる

 各自治体が使える資源には限りがあります。使えるお金にも限りがあります。しかし、アイデアには限界がありません。森岡さんは、「お金がなくても、アイデアだけは頭の中に眠っている」として、「アイデアこそ最後の切り札」だと言います。
 では、ストックを蓄え、参考になる事例を探していれば、そのうちいいアイデアが浮かぶのでしょうか。おそらくそうではないでしょう。ほとんどの場合、結局思い付かず、前例を踏襲するか、見切り発車してしまうかになると思います。
 そうならないために、何かいいアイデアを生み出すコツのようなものはないのでしょうか。
 森岡さんは、「無理だと思わず絶対にあきらめず執着し続ければアイデアの神様が降りてくる」と言い切ります。そして、「考え付くまで考え抜く」という姿勢が大切だとします。手軽なコツがあるわけではありません。
 ちょっと精神論っぽいですが、どんな困難な状況でも、慌てず、あきらめず、粘り強くやっていれば、きっとアイデアは降りてくると言うのです。さらに、アイデアが出てこないのは、出てくるまで考えていないからだと言います。
 予算編成に向けて、「これはちょっとしんどいなあ」ということもあるかもしれません。しかし、そこからが勝負です。あきらめずに考え続ければ、きっと打開するアイデアが湧いてきます。この本を読むと、そんな勇気をもらうことができます。

【今月の本】
『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』(森岡 毅/著)
(KADOKAWA、2014年、定価:1,400円+税)

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月刊 地方財務

2019年9月 発売

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林誠

所沢市経営企画部次長

1965年滋賀県生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。日本電気株式会社に就職。その後、所沢市役所に入庁。一時埼玉県庁に出向し、現在に至る。市では、総務部門、財政部門、政策企画部門、商業振興部門に所属。役所にも経営的な発想や企業会計的な考え方も必要と中小企業診断士資格を、東京オリパラに向けて通訳案内士資格を取得。著書に、『お役所の潰れない会計学』(2007年、自由国民社)『財政課のシゴト』(2017年、ぎょうせい)、『“議会答弁書”作成のコツ』(2017年、ぎょうせい)。

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