大阪維新改革―その時何が行われたのか? 『検証 大阪維新改革 橋下改革の軌跡』(ぎょうせい)より
地方自治
2019.12.27
大阪府・市議らが制度設計を議論する法定協議会が2019年12月26日開かれ、「大阪都構想」が了承となりました。大阪市を廃止して特別区を設置する「大阪都構想」が2020年11月にも2度目の住民投票の公算です。
小社は2015年11月、『検証 大阪維新改革 橋下改革の軌跡』(上山信一/編集・主著者 | 紀田馨/共著者)を刊行しております。橋下徹氏の知事就任直後から大阪府・大阪市の特別顧問を務めてきた上山信一、大阪府議会議員を務めた紀田馨の両氏が解説した著作です。改めて、維新改革、最初の住民投票までを総括した《原点》ともいえる本書の冒頭部分(1-3頁)より抜粋し、ご紹介させていただきます。
序章 解説:維新改革とは何か
維新改革の主たる担い手は、行政機関としての府庁と大阪市役所である。しかし、改革項目の中には、橋下徹氏と松井一郎氏が維新の会の政治家として地元議会と折衝し、あるいは政府や各政党に働き掛けて実現したものが多い。また、地下鉄・バスの民営化や都構想などの重要テーマは、首長選挙や議会選挙、さらに住民投票の争点とされ、政治力をテコとした改革が進められてきた。
結果はどうか。総じて議会の同意を必要としない改革はスピーディーに進んだ。しかし、市営地下鉄・バスの民営化や府市の病院・大学の統合など、市議会の議決を必要とする案件は頓挫している。野党会派は両議会で過半数を占める(ただし、府議会では2011年4月から2013年12月まで維新の会が過半数を獲得)が、彼らは府市連携、事業統合、民営化などの抜本改革には総じて否定的である。
ともあれ維新改革の特徴は、通常の自治体が普通は挑まないスケールの大きな課題(民営化、事業統合など)を掲げ、実現に向け挑戦し続けるという首尾一貫性にある。そこで本章では、まず維新改革の全体の足取りと改革の原動力となった政治的背景を解説する。
1 なぜ維新改革は分かりづらいのか
維新改革、あるいは橋下改革に関しては、さまざまな報道がされてきた。特に2015年5月の都構想の住民投票は全国の注目を集めた。また、地下鉄やバスなどの民営化条例案が市議会で否決されたニュースも記憶に新しい。一方、国政レベルで橋下氏がリードした「日本維新の会」「維新の党」の動向にも注目が集まった。賛成派は「都構想も民営化も地元議会が反対する。国政レベルからも実現策を講じるべき」という。一方、反対派は「橋下氏は手を広げすぎ」と批判する。だがこれらも含め、維新改革そして橋下氏についてはあまりにもさまざまなニュースが錯綜し、「いろいろあり過ぎてよく分からない」というのが多くの人の率直な感想だろう。
○3つの分かりにくさ
維新改革が理解しにくい理由はおそらく3つあるだろう。
第1に、改革の中心柱にある大阪市を廃止し、府と統合して大阪都を作るという都構想は、前代未聞の提案で多くの人はすぐにはイメージしにくい。最近は、スコットランドやスペイン・カタルーニャの独立運動がニュースになり、日本でも道州制論がある。しかし、都道府県と市町村の垂直統合の提案は初めてである。
第2に、橋下氏が国政政党のリーダーであると同時に大阪市長であるため、次元の違うニュースが同時に流れて人々を混乱させる。その典型が従軍慰安婦発言問題だろう。大阪市長としての仕事ぶりの是非と国政政党のリーダーとしての発言は直接には関係がない。ところがどうしても連動したニュースとして扱われる。
第3に、府議会と市議会での各会派と首長の駆け引きがあまりにも激しく、多くの人は何が起きているのかフォローできない。その典型が都構想の協定書を巡るバトルだろう(詳しくは本書第25章で解説)。議会では重要案件を巡って与野党双方が手の込んだ裏ワザを次々に繰り出す。多くの住民は、本来の争点が何なのか、なかなか理解できない。
しかし、この7年間で大阪のまちは確実に変わりつつある。議会の議決を必要としない行政改革や政策の見直しは、知事、市長の采配の下で、どんどん進んでいる。(下記図表参照・以下序章第2節に続く)
(本書刊行時点の図表)