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書評『自治体の仕事シリーズ 財政課のシゴト』
ぎょうせいの本
2019.03.27
『自治体の仕事シリーズ 財政課のシゴト』(所沢市財政課長 林誠/著、ぎょうせい、2017年)
財政課のガイドブックとして気軽に読み進められる良書
気象庁によれば、今年の入梅は平年あるいは昨年より早いようだが、各地の水がめの貯水量はどうだろうか。
そして、多くの自治体では、6月議会の対応も終わり、ほっと一息ついているころだろう。
ところで、評者の仕事柄、市町村の企画財政部門との付き合いが多い。予算決算に追われる職員の声を聞くことや、国の補助金や交付金などの財源探しの問い合わせなども少なくない。そこで、財政部門への理解を深めるため、本書を手に取った次第である。
著者は、大学卒業後、民間企業を経て所沢市役所に入庁。総務、財政、政策企画、商業振興の各部門を経験している現役の自治体職員である。半年近く前に本欄で取り上げており、覚えておられる読者も多いだろう。
「はじめに」にあるように、本書は、自治体の財政課に配属された方、財政課の仕事に興味を持った方や、ざっくりと自治体の財政課、財政事務について知りたいという方に向けて執筆されたものである。いわば、「ガイドブック」であり「財政課の歩き方」であり「自治体財政の案内図」である。
著者の人柄であろうが、気軽に雑談をしているかのような雰囲気で読み進めることができるのは、門外漢や初心者に易しい本である。
財政課に対する著者の位置づけは、明確である。縁の下の力持ち的な存在で、「あくまでも事業課を支える存在」であり、「他の部署の仕事が円滑に進み、役所の政策が少しでも前に進むように、陰ながら力を尽くす」部署であるとしている。とかく、「官房系」の部署が偉いかのような「勘違い」があるが、7頁の図1―2にある「下支えする位置づけを明確化した組織図」は評者には目から鱗であった。
財政課配属の新人から中堅層まで役立つヒントが満載
本書を一読すると、財政課以外の「役所での働き方のヒント」にも触れられているのがわかる。例えば、「それまでのやり方をそもそもから見直し、改善を提案できるのは、新しく配属された人間の特権」であるとか、「所管課に足を運び、無駄話の一つもしたいところです。そんな関係のなかから、いろいろ教えてもらえることも出てくるかもしれません」など、財政課配属職員のみならず、社会人1年生にも勉強になるだろう。
その一方で、初心者だけではなく、中堅どころに対しても役に立ちそうな、綺麗事の理想論ではなく現実的な観点を持つように表現されているのも、特徴と言えるだろう。
例えば、「こうして地方交付税の不思議さを嘆いたところで、なかなか制度の大枠は変わりません」であるとか、ふるさと納税について「趣旨がどうのと泣き言を言っていても始まりません。他の自治体に負けないように、返礼品やPRで頑張ると決めたのなら頑張るしかありませんし、返礼品競争には参加しないと決めたのなら、税収減を覚悟して財政運営をしていくしかありません」など、まったくそのとおりである。
構成も、財政課の業務内容や配属職員に求められる力、1年を通じての業務の流れ、押さえておくべき事項の順で整理され、奥は深いが気軽に読むことができるよう、工夫されている。
このほか、合間合間に挟まれた「コラム」も興味深い。特に「名刺を持たない?」「思考停止はダメ」「『言った』『言わない』」などは、気になった。本編に入れる内容ではないものの、読者の役に立つ情報であることは言うまでもない。
なお、前見返しに、財政課年間スケジュールが掲載されているところが、気の利いた作りである。第3章の「シゴトの流れ―財政課の1年」もそうだが、年間スケジュールと業務内容を時系列で整理しておくことは、頭の整理となるだけでなく、引継ぎにも使え、また業務の棚卸にもつながる。
よく考えて作られた1冊である。
なお、「いろいろな報道で、財務省が地方の『無駄遣い』に顔をしかめている、といった表現に出くわしますが、地方から見れば、様相はまるで逆です。なぜなら、国は歳入が足らなければ赤字国債を発行すれば済むという、ほぼタガが外れた状態にあるのですから」などのセリフは、共感を覚える自治体職員も少なくないのではないか。
軽妙洒脱な語り口ではあるが、ワサビの利いた辛口の内容も含まれているところが、著者の真骨頂かもしれない。
本書の構成は以下のとおりである。
はじめに
第1章 財政課とはどんなところ?
―役所での位置づけと役割
第2章 財政課職員としての心得とシゴトのコツ
第3章 シゴトの流れ―財政課の1年
第4章 業務お役立ち情報
おわりに