月刊「ガバナンス」特集記事
月刊「ガバナンス」2022年1月号 特集:2022年、自治体の針路──アフターコロナで何が問われるか
地方自治
2021.12.24
目次
●特集:2022年、自治体の針路──アフターコロナで何が問われるか
2022年がスタートする。新型コロナウイルス感染症が世界を揺がしたこの2年間。新たな変異株の出現や海外の状況からはいまだ終息とは言い難いが、日本の感染状況やワクチンの接種状況などを見れば、ウィズコロナとともに、アフターコロナを見通す時期に来ているのではないか。コロナ禍以前からすでに日本は人口減少、気候変動、デジタル化など大きな変化のただ中にあり、自治体や地域はさまざまな課題に直面していた。コロナ禍はそうした課題をより加速させた面もある。今月号ではコロナ後を見据えてこれから自治体に問われることについて考えてみたい。
■これからの地方自治と改革/牧原 出
これまでの感染症対策の問題点を検証することは必要不可欠である。従来の検証の仕組みが短期的な国の対応をめぐるものであったのに対して、新型コロナ対策は、長期化していく。しかるべきタイミングで検証を継続して行うことが義務づけられるべきである。様々な試行錯誤を経ながらでも、検証のあり方を含めて、検討しかつ実践することが重要な一年になるのではないだろうか。
牧原 出 東京大学先端科学技術センター教授
オミクロン株により、次の年も新型コロナの感染拡大の波が何度か訪れるのではないかという見通しも生まれつつある。地方制度改革においては、当面の新型コロナ対策との関わりで検討されるべき改革課題の検討がまずは必要となる。
■行政手続が拓く自治体法政策の可能性──行政ドックの法務戦略/北村喜宣
どのような組織にも、「慣性」が作用している。これまでそうだったから今もそうしているし、これからもそうする。行政手続法を知らない原課においては、同法により義務づけられている対応が十分にされない実務が拡大再生産されている。それが放置されているのは、審査請求や取消訴訟が提起されないため、他律的チェックの機会がないからである。されれば確実にダメ出しされる対応も、幸いなことに「不戦勝」を続けている。
■地域医療の再構築をどう進めるか/伊関友伸
新型コロナウイルスの終息後、今後発生することが予想される新興感染症に関して、どのように医療体制や病床を確保していくべきか。前提となるのは、新興感染症に対する対応策について、特効薬のような抜本的な解決策はないことである。より良い医療体制の確立のため、少しずつ修正していくしかないと考える。医療体制の変革は漸進的に進めるのが現実的であり、成果も出ると考える。
■ウィズ・コロナ時代の地域エネルギーガバナンス/的場信敬
コロナからの復興とエネルギー・気候問題は、人間社会のあり方、人々の生き方そのものを問い直し、市民の幸福と地域の持続可能性を追求するという点で共通している。この実現のためには、包括的な戦略と地域を巻き込んだエネルギーガバナンスの視点が不可欠であり、市民と国際的な議論や国の政策との結節点になる基礎自治体の役割は決定的に重要である。
■コロナ禍を経て地域公共交通はどう変わるべきか/加藤博和
日本では、地域公共交通が時流から取り残され、魅力的な移動手段となっていなかった。そこをコロナ禍が直撃し、未曽有の危機に陥っている。地域公共交通が「リアルに出かけたい」と思える地域を「つくり」「守り」「育てる」存在になるために殻を破ることが、地域を持続可能とするための必須要件である。そのために、いま自治体が認識を改め具体的に行動しなければ、次のチャンスはない。
■デジタル庁発足でデジタル行政はどう変わるか/田井 誠
デジタル庁創設から4か月が経過し、IT業界の影響を色濃く受けた独特な組織の全貌が徐々に明らかになってきた。早速、新型コロナウイルスワクチンの接種記録システム(VRS)の修正やガバメントクラウドの準備など地方自治体の業務に大きく関わる案件に携わり、注目を集めるなど話題に事欠かない。ただ、入退室管理の厳しい民間ビルの高層階に拠点を構える同庁の実態は、少し見えづらい。現場で日々取材に当たる者の一人として、この新組織がデジタル行政にどう影響を与えていくのか、現状や経緯の説明を交え、報告したい。
■自治体の個人情報保護制度はどうなるか/三木由希子
デジタル改革関連法の一環で、個人情報保護法が大幅に改正された。改正保護法は、現行の行政機関個人情報保護法をもとにした規律に統一する内容になっており、自治体への影響は大きい。2023年度の改正保護法に向け、自治体はさまざまな対応を迫られ、具体的には新たな条例の制定をしなければならなくなる。デジタル改革関連法の一環で、個人情報保護法が大幅に改正された。改正保護法は、現行の行政機関個人情報保護法をもとにした規律に統一する内容になっており、自治体への影響は大きい。2023年度の改正保護法に向け、自治体はさまざまな対応を迫られ、具体的には新たな条例の制定をしなければならなくなる。
■地域の中小企業をどう再生するか/小出宗昭
このような状況下なのに倒産件数は史上まれにみる低さだ。政府による資金繰り支援による成果だと思う。ただこれは問題を先送りしているだけではないのか。今後何が起こるかは、リーマンショック後の状況を思い出せば予想がつく。今回はさらに多くの企業が同じ状況に陥る可能性が高く、深く懸念する。このような中で中小企業にとって必要な支援は、今の売上をあげ、少しでも利益を増やしていくための具体的な知恵やアイデアを提供する高度なコンサルティングサポートだろう。
■危機を見据えた人材マネジメント戦略を/大谷基道
これまでの自治体人事は、平時のみを想定したものであった。しかし、有事は毎年のように発生しており、自治体人事も非常時まで視野に入れておく必要がある。非常時を見据えた人事マネジメント体制を構築する場合には、採用、育成、配置、処遇、職場環境などを互いに連関するものとして捉え、トータルな人事システムとして見直していくことが強く求められよう。
【キャリアサポート面】
●キャリサポ特集
ウェルビーイングな自治体組織
コロナ禍、頻発する激甚災害……。日常業務に加え、非常時の対応が日常化しつつある自治体現場にあって、職員のモチベーションの維持・向上は喫緊の課題です。その解決策の一つに、“健康”や“幸せ”を軸にした組織運営があります。
職員の健康・幸せは、地域住民の健康・幸せにもつながります。年の初めに、ウェルビーイング(幸福・健康)な働き方について考えてみませんか。
〈インタビュー〉一般社団事法人社会的健康戦略研究所代表理事・浅野健一郎さんに聞く
◇データから仮説を立て組織・地域のウェルビーイング度を高めよう
幸福や健康などと訳されることの多いウェルビーイング。最近では企業のウェルビーイング経営がにわかに注目を集め、社員の幸福・健康を通じ、社会のウェルビーイング度も高めようという流れが生まれ始めている。まだまだ聞きなれない言葉だが、そもそもウェルビーイングとは何か。健康経営やウェルビーイング度を高める活動に10年以上取り組み、ウェルビーイングの国際標準策定にも奔走する社会的健康戦略研究所代表理事の浅野健一郎さんに聞いた。
〈取材リポート〉
◆「幸せつながる健幸都市」を掲げ市民も職員も“健幸”を目指す/愛知県安城市
愛知県安城市は、第8次総合計画(計画期間2016~23年度)の将来都市像を「幸せつながる健幸都市・安城」と定め、「健幸(ケンサチ)」を合言葉に市民及び職員の健康と幸福を追求している。まさにウェルビーイングの実践だ。また20年度からの後期計画については、SDGsの17の目標との関連をより意識し、「ケンサチはSDGs」をスローガンに両者の一体的推進を図っている。事業者や市民、特に子どもたちを積極的に巻き込み、全市的な取り組みへ発展しそうな勢いだ。
●連載
■管理職って面白い! メラビアンの法則/定野 司
■「後藤式」知域に飛び出す公務員ライフ
非常時の経験を後世の人たちに伝えることの大切さ/後藤好邦
■誌上版!「お笑い行政講座」/江上 昇
■〈公務員女子のリレーエッセイ〉あしたテンキにな~れ!/水野あすか
■自治体DXとガバナンス/稲継裕昭
■働き方改革その先へ!人財を育てる“働きがい”改革/高嶋直人
■未来志向で考える自治体職員のキャリアデザイン/堤 直規
■そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室/関根健夫
■宇宙的公務員 円城寺の「先憂後楽」でいこう!/円城寺雄介
■次世代職員から見た自治の世界/中西咲貴
■“三方よし”の職場づくり/元吉由紀子
■誰もが「自分らしく生きる」ことができる街へ/阿部のり子
■新型コロナウイルス感染症と政策法務/澤 俊晴
■地方分権改革と自治体実務──政策法務型思考のススメ/分権型政策法務研究会
●巻頭グラビア
自治・地域のミライ
下鶴隆央・鹿児島市長
子どもたちの未来のために「鹿児島に稼げる仕事を」
2020年11月29日に行われた鹿児島市長選挙で初当選した下鶴隆央氏。「時代の動きに対応した新たな発想」の市政が必要とし、100項目に及ぶマニフェストを掲げた。それから1年。子どもたちの未来のために「鹿児島に稼げる仕事をつくる」ことに邁進する下鶴市長は、「次世代にチャンスがある社会を残したい」と話す。
下鶴隆央・鹿児島市長(41)。1年前、100項目のマニフェストを掲げて初当選。子どもたちの未来のために鹿児島に稼げる仕事をつくる必要性を強調。「次世代にチャンスがある社会を残したい」と語る。
●連載
□童門冬二の日本列島・諸国賢人列伝 隆景家から頼家への転生(六) 芋代官を手本にする頼杏平
●取材リポート
□新版図の事情──“縮む社会”の現場を歩く/葉上太郎
遅すぎ、狭すぎる帰還困難区域での着手【11年目の課題・除染2】
原発事故、続く模索
除染は今も行われている。放射線量が高くて「帰還困難」とされた地区の一部を、政府が「特定復興再生拠点区域」に指定し、遅まきながら除染しているのだ。だが、指定の範囲は狭い。しかも、発災から10年以上が過ぎ、住んでいた家はボロボロだ。一方では避難先への定住が進んでおり、果たしてどれくらいの住民が戻るのか。最も汚染が酷かった福島県浪江町津島地区の区長を訪ねた。
□現場発!自治体の「政策開発」
アートと伝統文化の融合で文化・芸術創造のまちを発信
──中之条ビエンナーレ(群馬県中之条町)
山あいの豊かな自然と名湯に恵まれた群馬県中之条町は、2年に1度の国際現代芸術祭「中之条ビエンナーレ」を開催している。海外も含めたアーティストが街なかの施設や自然を舞台に作品を展示・発表し、地域文化との融合や住民との交流で独自の文化・芸術を創造する画期的な取り組みだ。コロナ禍となった第8回ビエンナーレでは、リモートやオンラインも活用しながら開催し、芸術祭の新たな可能性を発信した。
□議会改革リポート【変わるか!地方議会】
議会モニターや若者の声を政策の「種」として改革を推進──愛知県知立市議会
愛知県知立市議会は21年12月定例会から、傍聴者が分かりやすいよう議場や委員会室のスクリーンへの議会資料の投影を始めた。また、21年12月22日から22年1月7日まで、議会図書室を冬季休業期間中の生徒に対する自主学習スペースとして開放する事業を実施。これらはいずれも議会モニターや高校生の声がきっかけだ。市民の声を踏まえ、改革が加速する同市議会を取材した。
●Governance Topics
□20年の活動に区切りをつける最終総会を開催/日本自治学会
日本自治学会は21年11月27日、最終総会を開催した。地方分権一括法が施行された2000年に設立され、20年以上にわたり、地方分権への研究や議論を行ってきた同学会は、この総会で活動に区切りをつけて解散し、これから新しい展開を模索していく予定だ。
□市職員の震災体験を語り継ぎ、未来に備える/あれから10年スペシャルPart2
仙台市職員の震災体験などを語り継ぐイベント「あれから10年スペシャル」が11月21日にオンラインで開催された。東日本大震災から10年が経ったが、今振り返ることで見えてくることも多く、改めてこうした活動の大切さを感じるものとなった。
●連載
□ザ・キーノート/清水真人
□新・地方自治のミ・ラ・イ/金井利之
□市民の常識VS役所のジョウシキ/今井 照
□地域発!マルチスケール戦略の新展開/大杉 覚
□“危機”の中から──日本の社会保障と地域の福祉/野澤和弘
□自治体の防災マネジメント/鍵屋 一
□市民と行政を結ぶ情報公開・プライバシー保護/奥津茂樹
□公務職場の人・間・模・様/金子雅臣
□今からはじめる!自治体マーケティング/岩永洋平
□生きづらさの中で/玉木達也
□議会局「軍師」論のススメ/清水克士
□「自治体議会学」のススメ/江藤俊昭
□From the Cinema その映画から世界が見える
『なれのはて』/綿井健陽
□リーダーズ・ライブラリ
[著者に訊く!/『ヘルシンキ 生活の練習』朴 沙羅]
●カラーグラビア
□技・匠/大西暢夫
数十年先まで使い続けてもらいたい──棕櫚箒職人・木下宏一さん(福岡県うきは市)
□わがまちの魅どころ・魅せどころ
雄大な自然に抱かれた「農(みのり)と輝(ひかり)の大地」で/岩手県八幡平市
□山・海・暮・人/芥川 仁
日常を取り戻しつつある暮らしの充実感──宮城県石巻市雄勝町桑浜
□生業が育む情景~先人の知恵が息づく農業遺産
トキと暮らす郷。根づく固有の農文化
──トキと共生する佐渡の里山(新潟県佐渡市)
□人と地域をつなぐ─ご当地愛キャラ/ざおうさま(宮城県蔵王町)
□クローズ・アップ
再建と“観光地”化の間で──宮城県名取市閖上、津波被災地の思い
■DATA・BANK2022 自治体の最新動向をコンパクトに紹介!
[特別企画]
◇DXによって自治体改革をどう進めるか?②
「デジタル変革」を推進し、行政サービスの質の向上をめざす──福島県磐梯町
◇「いつでも、どこでも」から「誰でも」の世界を目指して
──メインテーマに込めた思いを聞く/地方自治情報化推進フェアオンライン2021
※「もっと自治力を!~広がる自主研修・ネットワーク」は休みます。