書評『ソーシャルビジネスで地方創生―地域を甦らせた映画のまちづくり―』

NEWぎょうせいの本

2019.03.27

『ソーシャルビジネスで地方創生―地域を甦らせた映画のまちづくり―』(渋川智明/著、ぎょうせい、2015年)

『地方財務』2016年2月号

「まちづくり鶴岡」のソーシャルビジネスとその担い手

 本書は、山形県の日本海沿岸にある人口約13万人の鶴岡市を舞台に、持続可能な世代間連帯社会を構築するために日々、奮闘しているソーシャルビジネスに基づいた活動と、それに取り組む人々のストーリーを中心に展開する。

 鶴岡市は、平成17年10月の市町村合併により、県内人口第2位の都市となり、市域は東北地方で最も広く全国でも7位の自治体である。また、作家・藤沢周平(鶴岡市出身)の時代小説に登場する架空の海坂藩のモデルとなった土地と言われている。

 本書演じ手は、地銀の「荘内銀行」、商工会議所、行政、市民らが一体となって取り組むソーシャルビジネス「株式会社まちづくり鶴岡」。出し物は、同社が運営する映画館「まちなかキネマ」設立。粗筋は、プラン立案の経緯、設立への道筋、映画産業をめぐる歴史と現状、地方中都市が置かれた現状と課題、具体的な取り組みと改善への道筋、今後の展望だろうか。

 「鶴岡まちなかキネマ」は、旧絹織物・紡績工場跡地1万㎡を利用した映画館である。

 市街地の中心部に位置する跡地と残された工場建物群の活用法をめぐり、大型スーパーやパチンコ店など娯楽施設の誘致が挙げられたが、最終的に「映画館」の設立が選ばれた。これは、城下町鶴岡の歴史や風土、地域の特質などに依る。

 本書事例の鍵は、地元の荘内銀行である。跡地を本店建て替え地としたらどうかと話を持ち込まれた同銀行で、専務(現頭取)が、「本店の建て替えは必要だが、跡地の利用とは別問題。現在の場所は、先人たちが地域とともに金融機関として営々と地歩を築き上げてきたところ。現在の場所は変わりたくない。松文の跡地は有効活用しなければいけない。地域経済発展の起爆剤として有効活用する。そのことが結果的に銀行の発展にもつながる」と主張したそうである。

歴史と伝統を尊ぶ思いが映画館復活に

 専務の頭にあったのは「鶴岡の歴史と伝統を生かした施設を造り、そこを集客拠点にして、文化的な発信力を付け、地域内外に向け発信する。そのことがまた人を集め、商店街が活性化し、地域経済やそこに暮らす人たちの暮らしが豊かになる」という骨太の考えだった。

 地域金融機関が全て、このような視点を持つならば、決してバブルなどは起こらなかっただろう。この専務の健全で良識ある哲学が、鶴岡の街中を再生させたと言えるのではないか。

 銀行内部や商工会議所での映画館設置への反対意見に対しては、同行内の「ふるさと振興室」が映画館とのセット事業として、①隣接した商店街の空き店舗で市内工業団地従業員向けの託児所、②商店街の空き店舗を改装したクラフトショップ開設を立案するなど、主体性を発揮した。

 運営主体となる株式会社まちづくり鶴岡は、商工会議所を含む市内民間事業者が出資し、行政の出資はない。民間が出資・主導し、地銀などが資金基盤を支えるという全国的にもほぼ類例のない「まちづくり会社」である。

 先の専務は「本銀行は地域とともにこの地で金融業を営み、130年の歴史がある。松文工場跡地の建物を歴史的産業遺産として保存・復活して、そこに映画館を復活させてほしい。そんな地域の強い要望がある。鶴岡らしいプランを実行し、隣接する商店街を活性化させる。まさにこれは地域に役立つソーシャルビジネスで、本銀行の社会的使命でもある」と語ったが、このような経済人が地域に残る土地柄は、城下町ならでは、なのか。

 評者の印象でも、旧城下町には、生まれ育ったまちに愛着を持ち、伝統文化を大切に守り育てる誇り高い方が多いように思える。

 荘内銀行は、平成7年より、「庄内価値開発研究会」を立ち上げ、庄内の精神文化継承や人材育成を打ち出すなど、意識が高い組織である。

 著者は、法政大学大学院兼任講師(非常勤)である。毎日新聞社の社会部編集委員を経て、平成17年に山形県酒田市にある東北公益文科大学教授に就任。公益学部長、大学院研究科長を務め、現在は同大名誉教授でもある。

 同大学には、域学連携で酒田市飛島の島おこしに取り組み、活性化に貢献いただいていることも付言しておきたい。

 本書の構成は、以下のとおりである。

  • 第1章 まちなかキネマ
  • 第2章 地方力が甦らせる映画ビジネス
  • 第3章 日本映画産業の現状と課題
  • 第4章 「まちなかキネマ」とコミュニティ、自治体、地方銀行の協働
  • 第5章 日本のソーシャルビジネス
  • 第6章 人口減少社会における地方創生・再生への取り組み
  • 第7章 街に生まれたソーシャルビジネス(事例)

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地銀、商工会議所、行政、市民が取り組んだソーシャルビジネスの実例

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『ソーシャルビジネスで地方創生―地域を甦らせた映画のまちづくり―』2015年9月

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