【新刊】いま考えておきたいこれからの感染症対策『感染症危機管理と自治体』

ぎょうせいの本

2023.03.10

 出版社(株)ぎょうせいはこのたび、『感染症危機管理と自治体』を発刊します。本書では、これまでの新型コロナウイルス感染症への対応を「国」「自治体」「住民」の3つの視点から検証。日本の行政システム全般にも共通する課題を洗い出しながら、これからの自治体に求められる「感染症危機管理」の在り方を検討します。
 2023年秋ごろには「内閣感染症危機管理統括庁」の設置が目指されるなど、「感染症危機管理」への関心が高まっている昨今。3年にもおよぶコロナ禍の経験を今後の行政運営に活かしていくために、ぜひご一読ください。(編集部)

(書籍の詳細はコチラ)

 

コロナ感染症と対応策―国の施策、自治体の努力、住民と情報

 本書は今も多くの人びとを悩ませるコロナ感染症について、3つの課題に焦点をあて問題点を探ろうとした論集である。

(本書はじめにより)

第Ⅰ部 公共政策としての感染症対策

 第Ⅰ部は、政府の感染症対策を扱う。日本で政府は他の国々と異なり、感染症対策に警察力を使用してこなかった。都市のロックダウンも実施していない。強権的な手段によらないソフトアプローチと呼ばれる手法で、コロナ感染症を抑え込もうとしてきた。ただ、政府の感染症対策には司令塔が存在しないという問題がある。司令塔のない対策は、しばしば迷走する。本書が論点とする最初の課題である。
 こうした問題点を対象にする第Ⅰ部では、第1章で中邨章が日本政府のコロナ対策に司令塔が存在しない理由を公共政策という視点から説明する。その後、日本におけるマスク着用率の高さと健康危機管理の必要性を指摘している。第2章では西村弥が、政府レベルの対応を対策本部の体制と、専門家を集めた会議体に着目し、コロナ発生から2022年7月までを3期に区分し分析している。第3章で鈴木潔は、コロナ感染症対策の政策手段として、国と自治体が採用してきた、「直接規制」「啓発」「経済的インセンティブ」「直接供給」の4つの類型に焦点を合わせる。その上で、それぞれの政策の有効性や限界を検証している。

 

第Ⅱ部 コロナ対策と自治体の対応

 本書の2つ目の課題は、自治体の役割に注目し、市町村レベルにおけるコロナ対応を検討することにある。日本で感染症対策を実施する主体は、国と都道府県である。市町村にはほとんど権限が与えられていない。しかし、感染症対策の現場は基礎自治体である。権限が乏しいとはいえ、市町村は感染症から住民を守る必要性に迫られる。この矛盾は地域保健や公衆衛生という政策分野で顕在化している。今回、保健所の役割にも関心が集中した。本書はそうした自治体に関係する課題に注目し、市町村の感染症対策に関わる努力を説明している。
 上掲のような課題を対象にする第Ⅱ部では、第4章を担当する安部浩成が地方公務員の眼を通して自治体のコロナ感染症対策の観察を進める。安部はコロナ禍を経験して、地方行政はいくつか欠陥を表面化したと言う。それを改善する手がかりは、電子政府化の実現というのが、安部の主張である。第5章は飯塚智規が現行の基礎自治体における感染症対策は、予防中心の政策目標と、応急対応に力点を置く政策目標とが、異なった法律と計画によって構成されている点を問題視する。その上で両者を有機的に連結させる必要性を説いている。

 

第Ⅲ部 自治体情報と市民行動への影響

 本書の3つ目の課題は、感染症が拡大する状況で住民と情報との関係を分析することである。今回、警察力の使用に代わって、住民の行動を自主的に変容させることが重要になった。住民の行動変容は、日本政府が実施したソフトな感染症対策の成否を決める重要な要件である。本書では、情報発信の主体が誰かによって、住民サイドの行動がどう変わるかを計測することに努めている。また、社会不安が増すと誤情報やデマが出るが、今回も買いだめなどの異常行動が発生している。本書では市町村をターゲットに、この問題を新しい視点から検討している。
 住民と情報が第Ⅲ部の主要テーマになるが、菊地端夫は第6章を進めるにあたり、代表官僚制論を手掛かりにサーベイ調査を実施した。結果、女性知事による行動変容の協力メッセージが、特に女性住民の共感を呼ぶことを確認している。最後の第7章では、野上達也がコロナ感染症の流行という状況の中で、「誤情報・デマの流布」の発生する原因を精査し、その動機や社会に与える影響、不規則な行動に対する対策などを、市区町村を軸に解説している。


 本書が描き出した国の施策についての問題点、自治体の感染症に対応する努力、それに住民と情報の関係という3つの課題が、幾分でも研究者や実務家の皆さんになにがしかの示唆を与えるところがあれば、関係者の望外の喜びとするところである。

 

●編著者プロフィール

中邨 章(なかむら・あきら)
明治大学名誉教授・研究特別教授。日本危機管理防災学会名誉会長。
明治大学教授、副学長・大学院長などを経て、2011年から現職。Ph.D.(南カリフォルニア大学、政治学博士)。2016年からアメリカ国家行政院フェロー。その間、国際連合行政専門委員会委員(ニューヨーク本部)のほか、国際行政学会副会長(ブリュッセル)、アジア行政学会会長、総務省自治大学校特任教授などを歴任。近著に『自治体の危機管理』(ぎょうせい、2020年)、『地方議会人の挑戦』(同、2016年)など多数。

 

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「国」「自治体」「住民」3つの視点から新型コロナへの対応と課題を分析。

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新型コロナから考えるこれからの公共政策


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