知っておきたい危機管理術/酒井 明
侵入窃盗を未然に防ぐ家づくり・街づくりのポイントとは?
キャリア
2019.04.15
知っておきたい危機管理術 第31回 侵入窃盗リスクへの対応
我々は通常、交通事故のような事故リスクは念頭におくが、犯罪リスクとは無縁であると考えているのではないか。
数年前、私は、自宅のガラス窓が割られ、鍵が壊されるという窃盗事件に遭った。被害は許容できる金額を盗まれただけで済んだが、その後、風などのちょっとした音に敏感になって落ち着かない時期が続いた。職場近くに借りている倉庫に侵入されたこともある。鍵を壊され、中を荒らされた。また、私の知人は、自宅の駐車場に置いてあった高級車を盗まれ、中東のドバイで発見されたことがある。国際窃盗団によって日本から多くの高級車が盗まれ、そのグループが摘発され、車の所有者に連絡があったということである。日本には車検制度があるため、状態がよい中古車が多いと、世界中の中古車窃盗団から注目されているというのである。
このように、我々の周りには、交通事故のような事故リスクのほかに、窃盗のような犯罪リスクも日常的に存在するのである。
発生件数が多い窃盗
日本の犯罪で最も発生件数が多いのは窃盗である。警察庁の資料によると、窃盗犯にもいろいろな類型がある。住居を対象とするものでは、家人が不在の屋内に入り金品を盗む「空き巣」、家人が寝ているときに屋内に入り盗む「忍び込み」、家人が食事等をしているすきに盗む「居空き」がある。家人と鉢合わせした場合、強盗に変身し危害を及ぼすことがある。そのようなときは、相手との力関係等の状況判断によって対応が異なるが、すばやく侵入者に気づかれないように110番し、抵抗しないで時間稼ぎをするのがよいだろう。その他、事務所関連の建物を狙う「事務所荒らし」、学校等の建物を狙う「学校荒らし」、倉庫や工場関連の建物を狙う「倉庫荒らし」等がある。
侵入の方法には、鍵穴に特殊な工具を差し込み、錠シリンダーを操作してドアの錠を開ける「ピッキング」、バール等を使用し扉をこじ開ける「こじ開け」、道具を用いて直接錠を破壊し開錠する荒っぽい手口の「錠破り」、錠の周囲のガラスを割って手を差し入れて錠を開ける「ガラス破り」、ドア外側からドリルで穴をあけて工具を差し入れ内部の錠開閉用つまみ(サムターン)を回して開ける「サムターン回し」等がある。
警察庁の資料によると侵入窃盗の発生場所では、住宅が6割を占め、一戸建て住宅が一番多い。侵入窃盗の手口では空き巣が半分近くを占めている。一戸建て住宅の侵入の手段はガラス破りが多く、進入口は表玄関、ベランダ、縁側の窓と多岐にわたっているのに対し、4階以上のマンション等は施錠開けが多く、侵入口は圧倒的に表玄関となっている。
対策はどうする?
このような侵入窃盗への対策はどうするか。絶対に壊れない錠や窓はない。侵入するのに5分以上かかれば70%が侵入をあきらめるというデータがある。これは、侵入に対する耐久性が5分以上の防犯効果の高い鍵や錠にするだけでかなり安全性が確保されることを意味する。まずは玄関の二重ロック、ドアチェーンを付ける、防犯ガラス、防犯フィルムを付けることから始めてはいかがか。また、見通しの悪い囲いや樹木などを取り除く、長時間の旅行をする場合には近隣とのコミュニケーションを取っておくということも大事である。
侵入窃盗犯は下見の段階で次のようなことを行う。郵便受けの中に手紙や新聞があるかで居住者の状況を確認し、家屋への侵入のしやすさのほかに、逃走ルートが確保できるかを重視する。さらに防犯システム設置の有無も確認し、家人の防犯意識を推量するのである。
安全な建物の要素は4つ
都市防犯研究センターが行った侵入窃盗容疑者45名のアンケート結果から、安全な建物の要素として「監視性」「視認性」「抵抗性」「報酬性」の4つが取り上げられている。
「監視性」は防犯センサーやベルを取り付ける、家の周囲に砂利を敷いて足音が聞こえるようにする、犬を飼う等である。「視認性」として家の塀は敷地内が見える程度の高さにする。「抵抗性」ではドアや窓に鍵を2つ付ける、戸締りを完全にする習慣を身につける、窓ガラスを割れにくいものにし、侵入に時間と手間がかかるようにする。「報酬性」は金のありそうな家に見せないことをあげている。
侵入窃盗犯の関心が最も高いのは、リスクがどのくらいあるかの「リスク認知」である。「見られている」ことが、最も怖いのである。このことは、犯罪防止のためには、コミュニティレベルでは監視カメラ等による監視、見通しのよい街づくり、住民レベルでは侵入窃盗を防ぐための上述の手段を積極的に選択することによって侵入窃盗の被害を最小限に防ぐことが可能となろう。