クレーム対応術

関根健夫

相手を満足させる聞き方とイライラさせる聞き方の違い|クレーム対応術3【カスハラ対策】

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2025.03.21

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出典書籍:『ガバナンス』2014年6月号

自治体職員のためのトラブルの対処法を学ぶ!カスハラ対応図書特集

今さら聞けないクレーム対応術 3
『お客さまの話をどのように聞けばよいのですか?』
/月刊ガバナンス 2014年6月号


2025年4月1日、東京都などで「カスタマーハラスメント(カスハラ)防止条例」が施行されました。
これにより、企業や自治体にも適切な対応策の整備が求められています。

本サイトでは、月刊『ガバナンス』で好評を博した連載「クレーム対応駆け込み寺」の内容を引用して掲載。
第3回目の本記事では相手を満足させる聞き方とイライラさせる聞き方の違いを解説します。

カスハラ・クレーム対応の参考としてチェックしてください!

この記事で分かること

・聞き方に対してイライラされる理由
・相手を満足させる聞き方のコツ
・より良い相槌の打ち方、例文

主張には三つの欲求がある

 クレームを言うお客さまは、聞き手に対して三つのことを望んでいる。

 第一は、聞いてくれるだろうという期待。第二は、こちらの気持ちをわかってくれるだろう、自分の立場を認めてくれるだろうという期待。第三は、自分が主張していることを、相手や社会は認めてくれるだろう、認めてくれるべきだ、認めてくれるかもしれないという期待である。

 聞き手である私たちが、これらの期待に応えきれていないと、お客さまは不満を持つ。クレームへの対応では、こちらが真剣に聞いていないと、お客さまはイライラして「なぜ聞かない!」「とにかく聞け!」などと、怒ることになる。真剣に聞いてくれない印象は不信感を増す。

 クレームを言わざるを得なかった気持ちをわかってあげないと、お客さまはさらに不満を増し、「だって、そうだろう」「そう思わないか」などと、ますます強く主張してくる。お客さまがクレームを言い続けるのは、まだ言い足りない、まだ相手にわかってもらっていない、もっと言って主張を通そうと思うからだ。

 相手方の話を聞くこと、気持ちを理解しようとすること、こちらの事情をわかりやすく説明することは、コミュニケーション上のスキルの問題であり、努力を重ねることは誰にでもできる。そのことを習慣づけることが、能力を向上させる。

 しかし、お客さまが主張されている内容そのものを、こちらが受け入れることができるかどうかは、コミュニケーション上のスキルの問題ではない。法や条例などの制度や、常識などの事情により判断されるべきことだ。 必ずしも、お客さまの主張をすべて受け入れられるわけではない。多くのお客さまは、そのことを感覚的に理解しているはずだ。だから、時間をかけてしっかり聞き、気持ちを理解し、誠意をもって説明すれば、多くのお客さまには「仕方がないな」と思っていただける。

 お客さまの話を「はい」「はい」と聞いていたら、「『はい』じゃないだろう」と相手方がイライラして怒り出したという事例を聞く。このケースは、こちらが聞いているという実感をお客さまが得ていないことが原因だ。 もちろんクレームの内容について怒りを感じていることもあるが、その前提として、お客さまの立場やクレームの内容について、こちら側の理解が十分でないと思っているからである。

相手を満足させる聞き方のコツ

 人の話を聞くときに、相づちを打つことは常識だ。相づちを打たずに聞くと、相手方には聞いてくれている実感が伴わない。「はい」という相づちを打ちながら話を聞くことは、冷静に対応する姿勢として基本的に正しい。 しかし、言葉は万能ではない。思い余ってクレームを言っている立場の人であれば、その冷静さが気に入らないという感情もある。言葉づかいは、相手方の印象の問題でもあるわけだ。

 「はい」という相づちが悪いわけではない。かといって「うん」とか「ああ」といった、ため口を叩くわけにもいかない。そこで、言葉と動作を組み合わせる。うなずくことや、時にはオーバーなリアクションを伴って、「へえ、そうだったのですか」などと、驚きのニュアンスを含めるとよい。

 さらに「それからどうなったのですか?」 「最後はどうなったのですか?」 「他にありませんか?」などと展開すると、こちらが真剣に聞いていること、積極的に聞いていることを感じてもらえるだろう。これでクレームを言う側のイライラ感は、相当に軽減するはずだ。

「ええ」「はい」「結構です」は承諾?

 話を聞くときには「はい」の他にも「ええ」「わかりました」「結構です」などと相づちを打つことがある。相手の発言に「ええ」「わかりました」などと相づちを返せば、上品なイメージをもって、的確に相手の話を受け付けたことになる。「結構です」と言えば、丁寧なイメージを与えながらも、ある状況においては断りの意思を表すことができる。これらは、通常の会話であれば問題になることはないだろう。

 しかし、クレームへの対応は、利害が絡んでいる。これらの言葉が、まるで相手方の主張を承諾したかのような受け取り方をされることがある。セールス、営業、交渉事の場面などでも同様の傾向がある。相手方は、何とか認めてほしいと思って主張しているので、その前提で利己的に聞こえてしまうのだ。中には、意地悪く言質を取ろうと考えている人もいるかもしれない。

 言葉を変える努力も必要だ。「ええ」の代わりに「そうですか」と言ってみるとか、単に「わかりました」と言うのではなく「お話の内容については、わかりました」などと、意味を限定する言葉を付け加える。言い方に変化を持たせるのだ。

 「結構です」は「お断りします」に置き換えるとか、言葉を二重にすれば誤解されることもないだろう。ただし、はっきり断ると、強い印象、冷たい印象を与えることがあるので「ご期待に添えず、申し訳ございません」などのマジックフレーズを付け加えるとよいだろう。

 言葉に唯一の正解がない以上、クレームへの対応では、言葉を選ぶことも大切なスキルだ。このことを日常のお客さま対応で習慣づけ、そのセンスを磨くしかない。

 

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関根健夫

関根健夫

人材教育コンサルタント

1955年生まれ。武蔵工業大学(現、東京都市大学)卒業後、民間企業を経て、88年、アイベック・ビジネス教育研究所を設立。現在、同社代表取締役。コミュニケーションをビジネスの基本能力ととらえ、クレーム対応、営業力強化などをテーマに、官公庁、自治体、企業等の研修・講演、コンサルティングで活躍中。著書に、『こんなときどうする 公務員のためのクレーム対応マニュアル』『事例でわかる公務員のためのクレーム対応マニュアル 実践編』(ぎょうせい刊)。

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