相手を動かす話し方

八幡紕芦史

相手を動かす話し方 第1回 好感のもてる異動先での自己紹介

キャリア

2019.06.27

相手を動かす話し方
第1回 好感のもてる異動先での自己紹介

月刊『ガバナンス』2008年4月号

 人事異動で新しい職場に赴任した田中君。異動初日を迎え、心機一転、清々しい気分で出勤した。「おはようごさいます」と元気に挨拶をすると、全員が一斉に注目する。田中君は一瞬、不安に駆られる。新しい上司や見知らぬ職員たち。上司はどんな人だろうか。周りとうまくやっていけるのだろうか。

 そんなことを考えていると、上司が「このたび、ウチの職場に異動してきた田中君だ」と全員に紹介した。そして、「田中君、キミから自己紹介を…」と背中を押された。「はっ、はい、あのう…」と、頭を掻きながら田中君は話し始めた。

 

 この連載では、さまざまなケースを設定しながら、相手の心を動かす話し方のコツを学んでいく。

 初回は自己紹介について考えてみよう。〝自己紹介か…〟と軽視しないでいただきたい。一度、与えてしまった悪い印象は、それを修正するには多大な時間と労力が必要だ。さて、田中君は、どのような自己紹介をすればよいのだろうか。

 好感のもてる自己紹介をするには、次の3点に注意しよう。

①コンパクトにまとめる

②相手の期待に応える

③姿勢や態度に注意する

自己紹介はコンパクトに!

 もし、自己紹介は自分の言いたいことを言うものだと思っているなら、相手は欠伸(あくび)をかみ殺すのに苦労するだろう。たとえば、自己紹介で、ぜひとも子ども時代のエピソードを紹介したい、学生時代のクラブ活動についても少しは語ってみたい、これまで経験した職場についても紹介しておかなければと思う。それに、現在の自分を知ってもらうためには、家族構成も紹介した方がいい。趣味はカラオケだから、得意なジャンルも言っておきたい。

 しかし、相手はどのように思うだろうか。相手は自分とは何の関係もない話を延々と聞かされることになる。毒にも薬にもならない話を長々と聞かされると、当然のことながら話の途中で嫌気がさす。それだけならまだいいが、〝最後に…〟と言いながらも、さらに自己紹介が続く。そうなると、最初の興味は、途中から怒りに変わってしまう。

 多くの人は、情報を与えれば与えるほど相手は理解してくれる、と思っている。話をしている途中で、伝わっているかどうか不安に思い始めると、もっと説明しなければと思う。それでも相手はわからない表情をしている。わからないなら、もっと詳しく説明しなければと思う。そのうちに自分でも何を話しているかわからなくなってしまう。情報を与えれば与えるほど相手は混乱する。自己紹介においても、このセオリーを無視してはいけない。

〝自己紹介はコンパクトに〟を信条とすべし。もし、〝手短に…〟とか、〝ひとり1分ずつで…〟などと時間を制限されるなら、何が何でも時間内で終えることだ。内容はともかくとしても、短く終えるだけで相手によい印象を与える。コンパクトはインパクトだ。いくら興味のある話をされても、それが長ければ、長いだけで反感を買ってしまう。印象深い自己紹介をしたいなら、相手が聴きたいだろうと思われることを、ひとつだけ取り上げて紹介しよう。

相手の期待に応えよう

 しかし、取り上げたひとつの話題が、その場にふさわしくなければ、相手は〝だから何なんだ?〟と思う。たとえば、あなたがいくらクラッシック音楽に精通しているとしても、モーツァルトのオペラ『フィガロの結婚』に感動したときの話をする必要はない。それを話したければ、コンサートでお見合いするときの自己紹介ですればいい。自己紹介は、相手の期待に応える内容でなければならない。

 新しい職場に赴任して自己紹介するなら、はじめに相手が何を期待しているか考えてみることだ。たとえば、相手は、自分たちが働いている職場の第一印象を聴いてみたいと思っているだろう。人は他人からどう見られているか気になる。特に、初対面の相手ならなおさらだ。

 そこで、まず、自分が受けた職場の印象を話してみよう。たとえば、「赴任するまでは不安に思っていたが、皆さんに会えて安心した」とか、「このような明るい職場で働くことができて嬉しい」、あるいは、「気さくな人たちばかりで仕事をするのが楽しみだ」などと。そうすれば、相手は、あなたの自己紹介を聴きたいと思うはずだ。

 次に、新しく赴任した職場の人たちにどんな貢献ができるか、語ってみよう。単に自分の得意なことや経験談を話すだけでは、相手は〝ふ〜ん〟と思うだけで終わってしまう。元気が取り柄なら、「毎朝、元気に挨拶をして職場を明るくしたい」とか、計算が得意なら「数字のチェックはお手伝いします」、あるいは、人と接するのが好きなら「住民からのクレーム対応はお任せください」などと、相手にとって何かメリットになることを紹介する。そうすれば、あなたは職場の人気者になれるだろう。

姿勢や態度に注意し自己紹介を楽しむ

 大勢の前で話をするときや初対面の人に自己紹介をするときは、きっと緊張するにちがいない。ひょっとすると、頭が真っ白になって、何を言っているかわからない状態に陥るかもしれない。その結果、小さい声でぼそぼそ喋ったり、早口でまくしたてたり、あるいは、うつむき加減で自信がなさそうな態度で話をする。

 人に何かを伝えるときは、2種類の方法を使う。1つ目は、言語を使って伝える方法。2つ目は、言語以外、つまり非言語を使って伝える方法。非言語には、姿勢や態度、声の大きさ、顔の表情、身ぶり手ぶりなどがある。たとえば、「皆さんにお会いできて嬉しいです」と、言葉を使って伝える。ところが、緊張して顔が引きつっているとか、目線を合わさず、おどおどした態度なら、きっと、相手は〝本当は嬉しくないのではないか〟と思ってしまう。つまり、言語で伝える内容と非言語で伝える内容が一致していなければ、人は非言語を信用するわけだ。

 それに姿勢や態度は、その人の人格を表す。正しい姿勢と態度であれば人格的に優れているというメッセージを伝える。しかし、崩れた姿勢や横柄な態度であれば人格的に問題があるかもしれないというメッセージを伝える。そこで、自己紹介で人前に立ったときは、きちんとした姿勢と相手を尊重する態度で話をすることだ。そうすれば、周りに良い印象を与えることができる。

 背筋を伸ばして人前に立つと、自然と気持ちに余裕が生まれ、自信をもって話をすることができる。緊張するのは、人前で話をすることを楽しんでいないからだ。〝こんなことを伝えたい〟とか、〝楽しい話だから聴いてほしい〟など、熱意をもって語りかければ、人前であがることはない。これからは、自己紹介を楽しんでみよう。

 

著者プロフィール

八幡 紕芦史(やはた ひろし)

経営戦略コンサルタント
アクセス・ビジネス・コンサルティング(株)代表取締役、NPO法人国際プレゼンテーション協会理事長、一般社団法人プレゼンテーション検定協会代表理事。大学卒業とともに社会人教育の為の教育機関を設立。企業・団体における人材育成、大学での教鞭を経て現職。顧問先企業では、変革実現へ、経営者やマネジメント層に支援・指導・助言を行う。日本におけるプレゼンテーションの先駆者。著書に『パーフェクト・プレゼンテーション』『自分の考えをしっかり伝える技術』『脱しくじりプレゼン』ほか多数。

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2008/04 発売

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