『運を支配する』(桜井 章一、藤田 晋/著)―憂いを無くし運を呼び込む
キャリア
2019.12.13
第11回 憂いを無くし運を呼び込む
財政課は数字を扱っています。数字は嘘をつかず、簡潔に事実だけを示します。
「大型事業をやり過ぎて、借金がかさんでしまった。一遍に消えてなくならないかな」などと願っても、叶うはずもありません。借金は、返す以上に借りれば増えていくばかりです。当たり前の話ですが、健全な財政運営を続けていくためには、しっかりした予算を作り、適正に執行していくしかありません。一発逆転の秘策はないもの、と考えるべきでしょう。
それでも、この7月は天に祈りたくなる財政課職員もいるかもしれません。普通交付税の算定額が発表されるからです。もし、普通交付税額として期待値を込めた数字を計上していて、これを大きく割り込むようなら貯金が底をついてしまう、といった予算を組んでいる場合、ハラハラしながら発表を待つことになりかねません。
少し余裕を見て計上していたとしても、交付税を多くもらえるに越したことはありませんので、ドキドキして結果を待つことになるでしょう。幸運が舞い込むことを祈りながら。
こんなときだけ祈っても叶えてもらえるはずはない、とわかっていても、祈ることしかできないので祈ることになります。運を天に任せて。
さて、今回ご紹介する本は、桜井章一さんと藤田晋さんの共著である『運を支配する』です。「運」というと、どうにもならないものと考えがちですが、果たしてそうでしょうか?財政課が運に身を任せるこの時期に、運の本質について書かれた本をご案内したいと思います。
著者の一人である桜井章一さんのことをご存じない方もおられるかもしれません。「二十年間不敗」と言われる麻雀打ちです。運の要素が強いとされる麻雀において、20年間負けなかった(キャッチフレーズ的なものだとは思いますが)秘密は、運を味方につけていたからでしょう。何十冊もの本を出版されている著述家でもあります。
藤田晋さんは、アメーバブログなどで知られる株式会社サイバーエージェントの創業社長であり、26歳のとき、当時の史上最年少で上場を果たしました。藤田さんは、麻雀が強いことでも有名で、学生時代、桜井さんが主宰する「雀鬼会」に通っていたという縁があるそうです。
勝ち続けているお二人は、「運」を支配しているのでしょうか?
○「運」とは何か?
「運」については、それぞれの人の思いがあるでしょう。不本意な人生を歩んでいると感じている人は自分のことを「運がない」と考えているでしょうし、幸せな日々を暮らしている人は「幸運だ」と思っているでしょう。
では、周りから見れば、とんでもない強運を持っているように見える桜井さんと藤田さんは、「運」についてどう考えているでしょう。
桜井さんは、「運は不合理なものではない」とします。ある人に運がくるのは、必然の道筋があると言うのです。普段からしかるべき準備をし、正しく行動していれば、「運がその人を選ぶ」と言います。藤田さんも、状況を見定め、しかるべきタイミングで動いた人が結果を出すのであり、運の良し悪しに逃げてはいけないとします。
さらに桜井さんは、「運の総量は無限」と言い切ります。いいことがあると、運を使い切ってしまったのではないかと心配する人がいますが、運に選ばれるふるまいをしていれば、次々に幸運が舞い込むはずだと言うのです。藤田さんも、「正しい選択」「正しい努力」をしていれば、運は複利のように積み上がると考えています。
〇不平等さを嘆かず運を引き寄せる
たとえ「運」を引き寄せることができるとしても、あまりにも所与の環境が違い過ぎると嘆きたくなる人もおられるでしょう。自治体もそうかもしれません。都市部のように人も企業も集まっている地域と、どんどん過疎化が進んでいる地域では最初から条件が違い過ぎるように見えます。
最初の条件が違えば、たとえ運を引き寄せられてもどうにもならないのでしょうか。
お二人は、そう考えてはおられないようです。
藤田さんは、経営者としてビジネスと麻雀に共通点を見出しています。その一つが「不平等である」という点です。将棋や囲碁などほとんどの競技においては、始まった段階では五分の条件であるのに対し、麻雀では牌が配られた段階で有利不利が大きく分かれており、その不平等さがビジネスに通じるというのです。確かにビジネスでは、ごく少数で始めるベンチャーと何千人、何万人もの従業員を抱える大企業が同じ土俵で戦うことがあります。
小さい会社が勝つためには、不平等な状況のなか、忍耐を重ね、時には負けを受け入れながら、勝負所を見極めていかなければなりません。不利な状況を嘆き、不運を呪ってみても、状況は悪くなるばかりです。条件が違うなかで戦うしかないのは、自治体だけではなさそうです。
雀士とベンチャー経営者という、いかにもイケイケで押して来られそうなお二人ですが、負けのほとんどは自滅であり、大切なのは忍耐だと言います。また、手を抜くことを覚えると、ツキが逃げるとも考えておられます。
〇清めて「運」を迎え入れる
桜井さんは、自身が主宰されている麻雀道場において、「準備、実行、後始末」の大切さを訴えておられるそうです。何事も、しっかり後始末し、次の「準備、実行、後始末」につなげる。そうすれば、何かが上手くいかなかったとき、運のせいにすることなく、次に活かしていけるはずだと言います。
藤田さんは、「相手のことを想像する力」を強調します。自分だけの都合で物事を進め、相手に迷惑をかけるようなことをしていると、いつの間にか他人の恨みを買って、運気を下げてしまうというのです。反対に、想像力を働かせて相手のことを思いやっていれば、応援してくれる人も増え、おのずと運気は上がっていくとします。
自分ではなんともできないからこそ、「運」というのでしょう。実際、「運がいい」「運が悪い」としか言いようがない状況に出くわすことも少なくないと思います。しかし、だから何もできない、運はたまたまのもので誰にもなんともできない、と考えてしまうとそれまでになってしまいます。
桜井さんや藤田さんのように、運を味方につけて、ずっと勝ち続ける人もいるのです。そして、そこには理由がありそうです。どうやら、できる限りの準備をしっかりして、心や身の回りを清め、最後まであきらめないということがポイントのように思えます。
普通交付税額の発表を前に運を天に任せている皆さん。十分な準備はできていますか。
【今月の本】
『運を支配する』(桜井 章一、藤田 晋/著)
(幻冬舎、2015年、定価:800円+税)