公務員に最も求められるのは「言葉力」!――お役所言葉は宇宙語!?〜苦い経験から学ぶ
キャリア
2019.11.29
このたび法令出版社(株)ぎょうせいから『伝えたいことが相手に届く!公務員の言葉力(ことばぢから)』(山梨秀樹/著)が公刊の運びとなりました。「組織において大切なのは、こちらの意図と中身が相手に正確に届き、理解され、吸収され、相手に共鳴、そして共振してもらえるような伝え方である」という考えに立ち、自治体業務の様々な場面でのコミュニケーションをわかりやすく解説した書です。
公務員による住民説明・文書作成・広報・部下指導など、さまざまな場面を設定しながら、管理職から若手職員まで参考になる事例を多数紹介した本書から、内容の一部を抜粋してお届けいたします。(編集部)
お役所言葉は宇宙語!?〜苦い経験から学ぶ
住民をはじめ、庁外の人々に対して「お役所言葉」は通用しない。行政用語は街を歩く人々には宇宙語のようなもので、とにかくわかりにくい。そして、役人の説明は、誠実だがつまらないとよく言われる。人々の関心を引くフレーズ、日々の暮らしにかかわる住民の望みや期待に直接答える言葉や表現の力が乏しいからである。
だから職員は、相手が明解にこちらの趣旨を理解できるよう、資料や書面についてはもちろん、そこで話す言葉の選定には最大限の注意と配慮をし、相手に的確に伝わる簡明な説明をしなければならない。
公務員として「言葉力」の大切さを身に染みて知った瞬間を、私は今でも鮮明に覚えている。かつて、ある市民団体が主催する講座で役所の新規施策について短時間のプレゼンテーションを求められたことがある。15分の時間をいただき、私はパワーポイントを使って懸命に話し出したが、開始から5分ほど経過した時、会場のある市民から罵声が飛び、私は不意をつかれた。「あんたの言っていることがわからないんだよ!ゆっくりでいい。簡単に、もっとわかるように話せ!」。満座の会場でのこの叫びに、私は呆然自失で凍りつき、次の瞬間、深々と頭を下げていた。プレゼンは完敗である。
どんなに優れた施策も、我々行政の熱き思いも、住民に伝わらなければ、存在しないのと同じである。反対に、良い仕事をしているのであれば、自信をもって堂々と人々に伝え、担当者の思いと実効・成果を皆で共有したい。この日から私の「言葉」との闘いが始まり、それは今も毎日、続いている。
自治体職員は、地域の人々、企業や団体、自治会、議員やその関係者、そして報道機関など、多くの人々と日々会話する。その全てに、行政としての説明責任が存在する。公共サービスの受け手である多くの様々な人たちに、こちらの思いや意図する中身がストレートに、的確に届いているかどうかは極めて重要な問題だ。文書・書面、口頭、そして手話などあらゆる方法で表される言葉の力。この力を絶対に軽く見てはならない。
特に、対話による説明では、一発でビシッと相手の胸に届いて響く「言葉力」を、我々は公務員人生を通じて日々学び続けなければならない。
組織を生かすのも台無しにするのも言葉次第
組織は年齢も経験値も様々な、職責上対等でない人間の集合体であるが、同時に、生身の身体と心を持った個人の集合体である。この2点を勘案し、明るく風通しの良い職場を創るには、上層部から若手まで、職員が丹念に言葉力を培うことが、是非とも必要である。これが、ひいては組織内部で最も大切な情報共有の空気を創り出し、的確な施策の素早い執行を可能にする。
特に人財育成の面で、言葉力の影響は計り知れない。組織内で使われる言葉は、無神経に、乱暴に使われると、才気あふれる職員を台無しにしてしまうことがある。しかし的確に丁寧に使えば、自信を失った職員を仕事の達人に変えることもできる。言葉は、時に冷たく鋭い刃にもなり、ほのかに温める灯火にもなる。言葉に魂が宿るという「言霊」の語を持ち出すまでもない。ヒトは言葉で考え、言葉で生きているから、その力は絶大であり、またそれゆえ、恐ろしいものでもある。
さらに、役所の庁内(つまり皆が同業者)であっても、多忙な上司や仲間に正確な意図・内容を伝える緊張感は必須である。庁内では同じ行政用語を使うから、同じ知識や情報を持つ前提で会話や議論が続くのだが、それゆえ言葉を省略したり、早口でベラベラと話してしまったりすることがよくある。しかし、相手が自分と全く同じ知識・情報を持ち合わせているとは限らない。そこで、多くの勘違いや誤解が生まれ、同じ組織内でも、会話や議論の成果が正確に共有できなくなる。それで後から、「伝えたはずなのに!」「それは聞いてない!」「こんなはずじゃなかった……」ということになり、いら立ったり肩を落としたりする。
日常のあらゆる業務の中で、職員一人ひとりができるだけ端的に、枝葉を削ぎ落としてストレートに相手に中身を伝えるよう心掛ける。そして、自分の案や結論を正確・明確に伝えるよう日々訓練しなければ、組織全体の行政効率が落ち、仕事の生産性もいずれ低下していく。
これは正に、職員各人の日頃のちょっとした心掛けと訓練次第なのである。毎日使う言葉の一つひとつを、粗末にしないことである。