簡潔な文書・資料作りのポイント――「公務員の言葉力」でしごとの仕方を変える〜職員自身の「自己改革」
キャリア
2019.11.29
このたび法令出版社(株)ぎょうせいから『伝えたいことが相手に届く!公務員の言葉力(ことばぢから)』(山梨秀樹/著)が公刊の運びとなりました。「組織において大切なのは、こちらの意図と中身が相手に正確に届き、理解され、吸収され、相手に共鳴、そして共振してもらえるような伝え方である」という考えに立ち、自治体業務の様々な場面でのコミュニケーションをわかりやすく解説した書です。
公務員による住民説明・文書作成・広報・部下指導など、さまざまな場面を設定しながら、管理職から若手職員まで参考になる事例を多数紹介した本書から、内容の一部を抜粋してお届けいたします。(編集部)
若いうちから書類は簡潔・頭脳的に作ろう!
わが国の役所は、古代の時代から文書主義である。文章の書き方、起案の仕方、公文書の管理方法など、およそ文書については、どこの自治体でも職員研修と仕事の現場で諸々教育される。それはもちろん重要であり、公務の基本でもある。問題は、あなたが日々、職場でどんな文書・書類を作っているか、その作り方である。
職員は若いうちから、万事、簡潔・明解に、結論案を冒頭にうたう要領の良い書類・資料作りに注力しなければならない。
最も留意すべきは、自分の思いであれもこれも文書に突っ込まないことだ。自分が企画者である場合も上司の指示による場合も、真面目で熱心な職員ほど、自分の知っていること、得られた情報、データなどを書類・資料に盛り込みたくなる。しかし、首長や幹部職員がそれを求めているとは限らない。特に首長は平易で明解な説明(報告)を求め、そこが職員の力量だと考える。担当者としては、忙しい首長や幹部職員に「これだけは是非伝えたい、知らせたい」、その最も伝えたい骨子を冒頭で吐き出すことから、書類・資料を作り始めるべきだ。
それ以外の部分や詳細な経過、背景をあれこれ書いても、モノによっては作った本人自身がそれで満足してしまい、その後は当の本人も、そして他の誰もそれを読まない。そんな書類が、求められている住民サービスに直接貢献するのか?ここがポイントである。
住民の側に立った「しごとの仕方」
狭い役所の中で、日々一生懸命、多くの書類や資料作りに励んでも、その段階では住民に何も具体的なサービスは提供されていない。施策として外部に何も放出されておらず、地域の人々に向けた「しごと」になっていないのである。そこに毎日膨大な時間を使い、住民からは「役所の人間は毎日残業して、何をやっているのかわからない」といぶかしげに言われ、悔しく、また恥ずかしくはないか。私は恥ずかしいし、地域・現場の住民の方々には言い訳すらできない。
極端な例かもしれないが、私はよく病院医師のカルテを例に、職員にこのことを話す。カルテはすこぶる簡潔明瞭で、患者の症状や医師の所見、処方や留意事項が、院内の他の医師でも一読して即座に理解できるように書かれている。そうでなければ、患者の緊急事態に、担当医師以外の医師や看護師が即応できないからだ。要は、「しごと」のスピードと機動性の問題なのだ。
どの施策・事業でも、目的と内容、ねらう成果や効果を記した書類は、1枚、どんなに多くても3枚もあれば十分だ。最も言いたいことが冒頭に書かれ、短文と整理表による簡にして要を得た書類なら、そのまま住民説明にも議会の答弁にも、報道対応にも使える。それは実に便利で、汎用性が高いものである。
自治体職員は、常に地域の現場を担う。長々と庁舎内で議論し、資料ばかり作っているのが職員の仕事ではない。短期間で政策と具体的な事業を立案し、スピーディーに試行、または実施した方が何より住民のためだし、その効果や人々の評価も早くわかって、やりがいが増す。特に住民に常に身近な基礎自治体では、決定までに時間がかかり、住民に見えにくい事業をしていたら、人々の信頼を失いかねない。正に「巧遅は拙速にしかず」で、「働き方」とは本来、常にサービスを受ける住民の側に立った「しごとの仕方」のことなのだ。