
自治体の防災マネジメント
被災者支援の課題~被災者支援のあり方検討会の議論から~│自治体の防災マネジメント 第116回
NEW地方自治
2026.06.17
目次
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出典書籍:『月刊ガバナンス』2025年11月号
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※写真はイメージであり、実際の土地とは関係ありません。
本記事は、月刊『ガバナンス』2025年11月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
内閣府は、「被災者支援のあり方検討会」を2022年5月に設置し、24年8月までに9回の議論を重ねてきた。その議論は、防災庁設置の検討会や25年の災害対策基本法改正、災害救助法改正にもつながった。
この検討会の第10回目が10月14日に開催されることになったので、これまでの議論での主要な課題、その理由と背景を整理したい。
災害ケースマネジメントを実施するワンストップ支援体制の構築
被災者一人ひとりのニーズは、住宅、収入、健康、家族関係など多様であり、その課題は複合的に絡み合っている。現行の制度では、被災者が自ら複数の支援窓口を訪ねて手続きを進めなければならず、とりわけ高齢者や障がい者、生活困窮者など脆弱な立場の人々にとっては支援にたどり着くことが困難である。
このため、官民が連携して支援を一体的に行うワンストップ体制を構築し、必要に応じてアウトリーチ型の訪問支援を展開することが望まれる。だが現状では、災害ケースマネジメントを担う専門人材、拠点、予算、時間が全国的に不足し、包括的な支援体制の整備が遅れている。
今後の方向性として、自治体・社会福祉協議会・医療や福祉専門職・NPO等が連携した「支援チーム制」の導入や、ICTを活用したケース記録共有システムの構築が重要である。
被災者の把握・情報基盤の整備
被災者を正確に把握し、支援を的確に届けるため、情報基盤の整備が欠かせない。特に在宅避難者や車中泊避難者、広域避難者などは支援が届きにくく、現場では被災者の全体像が掴めていないのが実情である。
官民の支援者が共通して利用できる被災者台帳やデータ基盤を構築し、リアルタイムに所在とニーズを把握できる仕組みを整えられないだろうか。全国統一の情報システムと個人情報保護・活用ルールの共通化が求められる。デジタル技術を活用することで、避難所外避難者を含めた「全体把握」と「見守り支援」の両立を目指すことが、今後の被災者支援の基盤となる。
住まいの確保・修復・再建支援
被災者支援の中核となるのは「住まいの確保」である。避難所から仮設住宅、災害公営住宅や恒久住宅へと移行する過程では多段階の支援が必要となるが、制度・予算・運用上の制約が多く、関係部局間の連携も十分ではない。
発災直後から住宅ニーズを調査し、福祉部局と住宅部局が一体で対応する仕組みが求められる。また、被災地では悪質業者による高額請求や粗雑な修理などの二次被害も報告されており、被災者を守る相談・救済体制の整備が必要である。
住まいが確保されなければ生活再建の基盤が不安定となり、仕事や教育、健康などほかの支援にも悪影響を及ぼすため、住宅支援はすべての支援の起点と位置づけられる。さらに、被災者が地域で継続して生活できるよう、既存住宅の修繕支援や民間賃貸住宅の活用、地域コミュニティとの再接続を含めた「住まいの再建支援」が求められる。
支援制度・資源配分の公平性・柔軟性
被災者支援制度そのものの公平性と柔軟性にも課題がある。災害救助法や被災者生活再建支援法などの制度は、給付水準、適用基準に制約があり、同一の災害でも適用地域や自治体の判断によって支援格差が生じることがある。応急修理制度のように、制度の硬直性が被災者の実情に即した支援を妨げる例も見られる。
制度の適用判断を柔軟にし、地域や災害特性に応じた公平な支援を行えるよう、法制度と運用の両面で見直しが必要である。そのためには、自治体間での横の連携や専門家ネットワークを通じ運用事例を共有する仕組みをつくることが有効だろう。
防災大学校による自治体の法制度対応力・運用力強化
こうした制度を実際に運用する自治体の能力強化も欠かせない。災害対応の実務を担う市町村・都道府県では、制度理解や人員体制が十分でない場合が多い。災害関連法令は膨大かつ頻繁に改定され、運用には高度な専門性が求められるが、職員の多くは短期間の人事異動で担当となり、実務経験を積む機会が少ない。結果として、制度の適用判断や特例運用が遅れ、被災者支援に支障をきたすおそれがある。
ただし、災害法制度は“災害を経験しなければ実務で使うことがないだけに、自治体職員なら知っておくべき”という建前論では機能しない。
そこで防災大学校を設置することを提案したい。ここでは自治体だけでなく、NPO等の民間職員にも実践的な教育研修やマニュアル整備を行い、防災専門職の育成を進めていく。加えて、自治体職員同士の相互支援制度や、被災地職員の長期派遣・専門人材の登録制度など、継続的に支援ノウハウを蓄積する拠点とする。
NPO・中間支援組織の関与と持続性
被災者支援を行政のみで完結させることは不可能で、NPOや中間支援組織の関与がきわめて重要である。これらの団体は現場対応力に優れ、行政の手が届かない領域を補完してきたが、資金や人材の継続性に乏しく、長期的な活動が困難である。
行政と民間が対等なパートナーとして連携できる枠組みを構築し、財政的支援、委託制度、人材育成を通じて、災害支援団体の持続性を確保することが必要である。特に、平時からの協定締結、合同訓練、活動評価を通じて信頼関係を築くことが、緊急時の即応力を高める鍵となる。
医療、保健、福祉との連携・制度接続
被災者の中には、高齢者や障がい者、持病を抱える人など、支援が途切れれば生命に関わる人々が多く含まれる。物的支援だけでは生活を維持できず、医療や福祉サービスを継続的に提供する仕組みが求められる。25年5月に災害救助法の救助の種類に「福祉サービスの提供」が追加され、DWAT(災害派遣福祉チーム)の活動が拡大したことは前進だが、介護・障害福祉施設への支援や費用減免など、きめ細かい配慮のある仕組みが依然として必要である。今後は、医療・保健・福祉及び行政が共同で「災害時要配慮者支援マニュアル」を整備し、平時からの訓練を通じて実践力を高めることが求められる。
公共コミュニケーション・被災者理解促進
被災者支援の持続には「理解と共感」を基盤とした公共コミュニケーションの充実が欠かせない。避難生活や復興が長期化すると、被災者自身の心理的疲労や国民の関心低下が生じる。被災者の声を社会に届け、共感と理解を広げる取り組みは、支援の持続性を支える重要な要素だ。
また、被災者のストレスケア、地域復興への参加促進、心理的回復を支援する場づくりを制度的に位置づける必要がある。行政やメディア、地域団体が連携して「語りの場」「交流の場」を設け、被災者自身の発信力を高める支援を行うことが、心の復興と社会的包摂を進める鍵となる。
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被災者支援の現場には、個別支援体制、情報基盤、住宅確保、制度運用、自治体能力、民間協働、医療・福祉連携、社会的理解といった多層的課題が存在し、それぞれが相互に、密接に関連している。これらを個別にではなく、包括的かつ体系的に捉える視点が欠かせない。
特に重要なのは、平時の備えとの連動である。地域防災計画だけでなく、平時の行政計画に災害時の対応を組み入れ、啓発活動、専門事業者リストの整備、協定の締結などあらかじめの準備をしておくことが、発災直後の混乱を最小化し、被災者支援の質と速度を高める基盤となる。
政策的には、①制度設計 ②情報基盤 ③実務運営の3層を一体として強化し、官民の役割分担と連携ルールを明確化することが重要である。
被災者支援を「発災後の救援」ではなく、「平時から継続する共助・公助の仕組み」として再構築することこそが、誰一人取り残さない被災者支援を実現する鍵となる。
著者プロフィール
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一 かぎや・はじめ
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。災害時要援護者の避難支援に関する検討会委員、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事なども務める。著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』(学陽書房、19年6月改訂)など。
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