自治体の防災マネジメント

鍵屋 一

災害後の住宅再建│自治体の防災マネジメント 第115回

NEW地方自治

2026.05.13

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※写真はイメージであり、実際の土地とは関係ありません。
本記事は、月刊『ガバナンス』2025年10月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 今年から、復興の行政事務手続きの研究会に参加している。ヒアリングを重ねると、地震であれ、水害であれ、とにかく住宅再建が最も大きな課題になっていることがわかる。阪神・淡路大震災後の復興の研究を見ても、やはり1位は住宅再建である(図)

図 阪神・淡路大震災の生活再建7要素 7要素の図
被災者や支援者に生活再建に必要だと思う要素をヒアリング。
大きく7つに集約されることがわかった。
出典:「復興の教科書」
https://oss.sus.u-toyama.ac.jp/fukko/

 自宅が大きく被災した場合、大まかにいえば、避難所、車中や親族・知人宅、福祉施設等で避難生活を送りながら、自宅の家財の片づけ、災害ごみの搬出整理をする。自宅の清掃、片づけは公的支援の対象ではないので、多くのボランティアが必要とされ、実際に活動している。

 災害直後は社会の関心が高く、避難所の環境や、ボランティアの活躍が注目される。その後、次第にメディアへの露出は減っていく。しかし、住宅再建をしなければならない人々にとっては、避難所の次が大事な場面である。

 被災者は避難所を出たあと、アパートが多い都市部などではアパートを借り上げる形で提供される賃貸型仮設住宅へ、アパートのないところでは建設型仮設住宅へ入居する。仮設住宅の家賃は不要だが、光熱水費はかかる。仮設住宅の入居期間は2年間が原則だが、住宅を再建して出ていくのに、実際は5年、10年とかかる人も多数いる。最終的にはもとの場所や別の場所で自宅を再建をしたり、アパートに入居したり、災害公営住宅等へ入居する。

法適用の課題

 被災した人が住宅再建を進める場合に、どの制度をどの程度利用できるかは、住んでいる自治体が法制度の適用対象になるかどうかに影響される。

 たとえば、災害救助法の適用を受けていれば仮設住宅に入居でき、さらに準半壊以上の被害があれば、応急修理制度を利用できる可能性がある。被災者生活再建支援法が適用されれば、罹災証明の判定次第で最大300万円の支援金が支給される。通常の災害では、半壊住宅は公費解体にならないが、特に大規模な災害とされる特定非常災害が適用されると、半壊以上の住宅は公費解体の対象になる。

 同じ災害で同じ被害を受けても、住んでいる自治体が法の適用を受けなければ、これらの支援の対象にはならない。被災者から見て、これは公正だろうか。少なくとも同じ災害の同じ被害であれば、住んでいる自治体が違っても、同じ公的支援があるのが当然ではないだろうか。

 なお、災害救助法が適用になると、法に定める救助事務の実施主体が市町村(救助実施市を除く)から都道府県に移る。このため、市町村は財源を気にすることなく最大限の支援ができる。現在は災害発生のおそれ段階で災害救助法が適用できるため、市町村は早い段階で都道府県、内閣府に協議することが重要である。

罹災証明書の課題

 住宅再建に向けて公的支援を受けるためには、市町村による住家被害認定調査を経て、罹災証明書を取得することが不可欠である。しかし、現行の罹災証明書にはいくつか課題がある。

 第1の課題は、罹災証明書を取得するためには役所に申請をしなければならないことである。

 多くの現場を見てきたが、罹災証明書を取得しない人は一人暮らし高齢者などに多いように感じる。福祉支援につながっていれば、福祉関係者などが支援を行うが、そうでない人が取り残されがちだ。自力生活を送っていた高齢者が、避難所にいて、動かないため徐々に体力が奪われ、気力をなくしていく姿を見るのは本当に辛い。難しい書類を見る気になれないのは当然であり、ゆっくりと相談できる体制整備が必要だと感じる。また、罹災証明書の申請には期限があるため、これに遅れると泣き寝入りせざるを得なくなる。

 第2に、判定基準が精緻になってきたが、実状と合わないことがある点だ。

 罹災証明は、次のように住宅の壊れ方で判定が決まる。
・全壊→50点以上 ・大規模半壊→40点~49点 ・中規模半壊→30点~39点 ・半壊→20点~29点 ・準半壊→10点~19点 ・一部損壊→9点以下

 なお、被災地に行くと、住宅に赤や黄、緑色の紙が貼られていることがある。これは応急危険度判定の結果であって、住家被害認定調査や罹災証明とは全く関係がない。赤であっても半壊以下だったり、緑でも全壊はあり得る。だが、なぜそうなるのか、被災者にはわかりにくい。

 住家被害認定調査は外観目視で行う第1次調査と、住宅内部の被害も見る第2次調査とがある。第1次調査で大規模半壊だったが、第2次調査で準半壊に下がる場合もある。これは、調査項目が異なるため起こるのだが、判定が下がった被災者は納得がいかないだろう。被災者支援を充実するためには、単に第2次調査を優先するのではなく、少なくとも被害が大きなほうを採用するべきと考える。実際、そのような運用をしている市町村もある。

 第3に、調査する人材の数と質が足りないことである。

 自治体は住家被害認定調査を早急に実施し、罹災証明をすみやかに発行することで、迅速な公的支援につなげたいと考える。そのためには、多くの人員を必要とする。必然的に、住宅の専門家ではなく、被災自治体の職員や対口支援職員が調査に向かうことになる。そうすると、十分な研修を受けていなかったり、自治体独自の判定方法を理解できておらず、杓子定規的に判断してしまう場合がある。また、被災者の質問に十分に答えられないこともある。結果的に公平な調査がなされず、十分な被災者支援につながらないのではないかとの批判もある。

応急修理の課題

 災害救助法には応急修理制度がある。これは、日常生活に必要不可欠な屋根、床、壁、窓、台所、トイレなどに限られる。2024年基準の限度額は半壊以上で71万7000円、準半壊で34万8000円である。

 ただ、被災者が建築業者に直接、修理工事を依頼して工事をしてしまった場合は救助対象にならない。そのため被災者はまず、市町村に応急修理の申請に行き、市町村はその申請にもとづいて建築業者に修理を依頼する。応急修理が終われば市町村がその代金を修理業者に支払うことになる。

 建築業者からすれば手続きが面倒で、しかも少額で、支払いまでに時間がかかる。被災者からすれば工事が遅れ、避難所生活が長引く。自治体職員からすれば、災害時の多忙な状況での事務負担が大きい。誰もが使いたがらない制度になっている。

 さらに、応急修理制度を使うと原則として仮設住宅に入ることができず、公費解体の対象にもならない。税金で修理したのだから、二重に支援することはできない、という意味だろうが、実際には修理後にも家族の事情が変わったり、公費解体をしてもらいたいという状況が発生することもある。

 多くの場合、被災後の住宅再建では、行政が仮設住宅を建築(その後に解体)し、被災者の住宅を公費解体し、被災者生活再建支援金を交付したり、災害公営住宅を用意する。だが比較してみると、被災者が応急修理制度を活用してもとの自宅に住み続けられるようにするほうが良いのではないか。そのほうが、公的支援の費用も大幅に少なくなるだろう。

 被災者に寄り添う、合理的な制度設計に取り組む必要がある。

【参考文献】 ・内閣府HP「災害救助法」《https://www.bousai.go.jp/oyakudachi/info_saigaikyujo.html ・永野海『避災と共災のすすめ――人間復興の災害学』 ・中村健人・岡本正『自治体職員のための 水害救援法務ハンドブック』

 

著者プロフィール

跡見学園女子大学教授
鍵屋 一 かぎや・はじめ


1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。災害時要援護者の避難支援に関する検討会委員、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事なども務める。著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』(学陽書房、19年6月改訂)など。

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鍵屋 一

跡見学園女子大学教授

(かぎや・はじめ) 1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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